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32 もう一人の息子
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「……本気で言っているのか?」
「はい、お父様」
ドロシーの処刑から数日後。
私は久しぶりに会った父にこれからのことを話していた。
「――しばらくは私が公爵家の当主を務め、ルヴァンを私の養子として公爵家に迎えたいと思います。そして、ルヴァンが成人したら彼に爵位を譲ろうかと考えています」
「シア……」
お父様が驚いた顔をするのも無理はないだろう。
全く血のつながりの無い子供を、ましては夫の愛人の子を私が自ら進んで育てると言っているのから。
「ドロシーが母親であるということを隠すためにも、早いうちから私の子として育てたほうが良いでしょう」
「それはそうだが……」
あれからディアン様は精神に異常をきたし、ここから遠く離れた場所で療養することとなった。
心から愛した女に裏切られたのだから当然のことかもしれない。
彼の人生は不幸の連続だったが、無関係な人間まで傷付けて良い理由にはならない。
だからこうなったところで全く同情出来なかった。
(新しい子は望めない……)
グクルス公爵家の血を引く男児はルヴァンしかいない。
母親は稀代の悪女で父親は暴君だったが、彼自身には何の罪も無かった。
「それに、あの子ならきっとリアにとっても良いお兄さんになってくれると思うから……」
「たしかにな……」
その言葉でようやくお父様は納得したようだった。
お父様からしたらルヴァンの存在は複雑なのだろう。
「――シア」
「はい、お父様」
顔を上げると、父が真剣な表情でこちらを見ていた。
「お前を助けてやれなくてすまなかった」
「お父様……」
お父様が悪く思う必要なんてない。
むしろ父は結婚してから私を侯爵家に戻すためにあらゆる手を尽くしてきたのだ。
そのどれもが失敗に終わってしまったが、私はもちろん父を恨んでなんていない。
「お父様がそんな風におっしゃる必要はありません。これまで何度も私を助けようとしてくださったではありませんか」
「しかし、私は……」
そこまで言いかけて、私は未だに申し訳なさそうな顔をしているお父様の手を両手で握った。
「公爵邸で過ごした時間は私にとってとても幸せなものでした。夫はいなかったけれど愛する娘と優しい使用人たちがいましたから。それだけで十分です」
「そうか……」
その言葉で、お父様はようやく安心したようにほっと胸を撫で下ろした。
私はそんな父にクスリと笑いかけて言った。
「それでは私はそろそろ失礼します」
「……もう行ってしまうのか?」
「アルフ様に呼ばれているのですぐに行かないと。彼を待たせるわけにはいきません」
「そうか、分かった」
実家にある父の執務室を出た私は、アルフ様の待つ庭園へと向かった。
「はい、お父様」
ドロシーの処刑から数日後。
私は久しぶりに会った父にこれからのことを話していた。
「――しばらくは私が公爵家の当主を務め、ルヴァンを私の養子として公爵家に迎えたいと思います。そして、ルヴァンが成人したら彼に爵位を譲ろうかと考えています」
「シア……」
お父様が驚いた顔をするのも無理はないだろう。
全く血のつながりの無い子供を、ましては夫の愛人の子を私が自ら進んで育てると言っているのから。
「ドロシーが母親であるということを隠すためにも、早いうちから私の子として育てたほうが良いでしょう」
「それはそうだが……」
あれからディアン様は精神に異常をきたし、ここから遠く離れた場所で療養することとなった。
心から愛した女に裏切られたのだから当然のことかもしれない。
彼の人生は不幸の連続だったが、無関係な人間まで傷付けて良い理由にはならない。
だからこうなったところで全く同情出来なかった。
(新しい子は望めない……)
グクルス公爵家の血を引く男児はルヴァンしかいない。
母親は稀代の悪女で父親は暴君だったが、彼自身には何の罪も無かった。
「それに、あの子ならきっとリアにとっても良いお兄さんになってくれると思うから……」
「たしかにな……」
その言葉でようやくお父様は納得したようだった。
お父様からしたらルヴァンの存在は複雑なのだろう。
「――シア」
「はい、お父様」
顔を上げると、父が真剣な表情でこちらを見ていた。
「お前を助けてやれなくてすまなかった」
「お父様……」
お父様が悪く思う必要なんてない。
むしろ父は結婚してから私を侯爵家に戻すためにあらゆる手を尽くしてきたのだ。
そのどれもが失敗に終わってしまったが、私はもちろん父を恨んでなんていない。
「お父様がそんな風におっしゃる必要はありません。これまで何度も私を助けようとしてくださったではありませんか」
「しかし、私は……」
そこまで言いかけて、私は未だに申し訳なさそうな顔をしているお父様の手を両手で握った。
「公爵邸で過ごした時間は私にとってとても幸せなものでした。夫はいなかったけれど愛する娘と優しい使用人たちがいましたから。それだけで十分です」
「そうか……」
その言葉で、お父様はようやく安心したようにほっと胸を撫で下ろした。
私はそんな父にクスリと笑いかけて言った。
「それでは私はそろそろ失礼します」
「……もう行ってしまうのか?」
「アルフ様に呼ばれているのですぐに行かないと。彼を待たせるわけにはいきません」
「そうか、分かった」
実家にある父の執務室を出た私は、アルフ様の待つ庭園へと向かった。
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