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49 夢の世界 側妃クロエ視点
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「私、ずっと側妃様に憧れていたんです!」
「まぁ、それは嬉しいですね」
「仲の良い両親をずっと見て来たので……私もギルバート様とそんな風になりたくって……」
リーシャの異母妹であるアイラと出会ったのは偶然だった。
親に甘やかされて育った、いかにも頭の悪そうな女、というのが第一印象。
両親の愛を知らない私からしたら彼女は存在そのものが不快だった。
(これを利用しない手はないわ……)
私は密かにアイラを侍女にし、彼女を駒として利用することにした。
「良い?アイラ。これは貴方が愛する人と結ばれるための唯一の手段よ」
「私が……ギルバート様と結ばれるための唯一の手段……」
「そうよ、こうすることで全員が幸せになれるの。もちろん貴方もね」
「側妃様……」
アイラに毒の小瓶を握らせた私は、何度も繰り返し彼女の耳元で囁いた。
ギルバートのことを出せばこの女は何でも言うことを聞く。
私が嘘をついているなんて思ってもいないのだろう。
(本当、馬鹿すぎて腹が立つわ……)
ギルバートは私の愛人にする予定だからもちろんこの女に渡すつもりなんて無い。
王妃と共に罪を被らせて始末する、それがアイラの最期だ。
憧れている私のために死ねるなら彼女も本望だろう。
「私に毒を盛り、王妃の指示でやったと自供しなさい」
「なッ……そんなこと出来ません……!私まで処刑されてしまいます!」
「心配いらないわ」
私はアイラを安心させるように微笑み、優しく肩に手を置いた。
アイラの後ろにある鏡に映った自分は驚くほど歪んだ笑みを浮かべていた。
「私を誰だと思っているの?国王陛下の寵愛を一身に受ける側室よ?私が頼めば貴方の命くらい助けられるわ」
「で、ですが……」
「何より、ギルバートの心は今王妃に傾いているのよ?ハッキリ言うけれど、王妃が死にでもしない限りは……貴方を見てくれることは無いでしょうね」
「……!」
心が揺れているアイラを引き込むのは容易いことだった。
「欲しいんでしょう?ギルバートの心が」
「……」
「これ以外に方法は無いわ。それにもし貴方が王妃に騙されて悪事に手を染めたと知れば、彼も同情して貴方に興味をもってくれるかもしれないわよ?彼はとっても優しい人だもの」
「……!」
悩み抜いた末に、アイラは首を縦に振った。
こういう馬鹿は扱いやすくて助かる。
(ふふふ、これで全てが元通り)
自分の手を下すことなく邪魔者を排除できるだなんて、これもヒロインの特権だ。
神が私に味方してくれているとしか思えなかった。
この世界の全ては私のものだ。
***
毒から目覚めた私を待っていたのは、冷たいエルフレッドとギルバートの目だった。
ただただ困惑した。
何故、彼らは私を心配してここに来たのではなかったのか。
「――側妃を地下にある牢屋へ入れろ」
「ちょ、ちょっと待って!」
エルフレッドは毒から目覚めたばかりの私を心配することも無く、ただそれだけを命じて部屋から出て行こうとした。
前よりも痩せたように見えるその体に縋りつこうと手を伸ばすも、騎士に阻まれてしまう。
「エルフレッド!ギルバート!」
どれだけ名前を呼び、しがみついても彼らの表情は変わらない。
本来ならば悪役に向けられるはずのその瞳が、今は私に固定されている。
「そんな、どうして……!貴方たちは私を愛しているはずでしょう!?」
「……」
エルフレッドは何も答えなかった。
ただ複雑そうな目で私を見ているだけだ。
「ギルバート!貴方は私を愛してるわよね!?」
「勘違いだ。私はお前を愛したことなんて無い」
「う、嘘よ……そんな……!」
嘘だ、そんなの信じない。
目が覚めたら全てが元通りになっているはずだった。
それどころか、以前より状況は悪化しているではないか。
「待って、待ってよ二人とも……」
あれだけ愛を囁いてくれたエルフレッドも、優しい顔で私の話を聞いてくれたギルバートももういない。
騎士に腕を掴まれて無様な姿となった私を無表情で見つめているだけだ。
そしてそのまま私は地下牢へ連れられ、処刑を待つ身となった。
何故このような結果になってしまったのだろうか。
いくら考えても答えは出ない。
(こんなのありえないわ……私はヒロインなのに……こんなところで死んでいい人間ではないわ、きっと誰かが助けに来てくれる……!)
そう、私は決して死んだりしない。
だって私はこの世界のヒロインで、私が死んだらこの世界は終わってしまうのだから。
(ふふふ……一体どんな人が来てくれるのかしら……)
エルフレッドとギルバートが駄目ならまた別のヒーローを作ればいい。
そうね、今度は隣国の王子なんてどうかしら。
冤罪で処刑されそうになるヒロインを助けに颯爽と牢屋へ現れる王子。
一瞬で兵士たちをなぎ倒し、私を攫っていくのだ。
そしてそのまま隣国へ連れて行かれ、結婚式を挙げる。
二人は王と王妃になり、子宝にも恵まれ末永く幸せに暮らす。
そんなありもしないストーリーが脳内で描かれていく。
完全に夢の世界へ入ってしまっていることに、私が気付くことは無い。
(あぁ……早く来て……私の王子様……)
「まぁ、それは嬉しいですね」
「仲の良い両親をずっと見て来たので……私もギルバート様とそんな風になりたくって……」
リーシャの異母妹であるアイラと出会ったのは偶然だった。
親に甘やかされて育った、いかにも頭の悪そうな女、というのが第一印象。
両親の愛を知らない私からしたら彼女は存在そのものが不快だった。
(これを利用しない手はないわ……)
私は密かにアイラを侍女にし、彼女を駒として利用することにした。
「良い?アイラ。これは貴方が愛する人と結ばれるための唯一の手段よ」
「私が……ギルバート様と結ばれるための唯一の手段……」
「そうよ、こうすることで全員が幸せになれるの。もちろん貴方もね」
「側妃様……」
アイラに毒の小瓶を握らせた私は、何度も繰り返し彼女の耳元で囁いた。
ギルバートのことを出せばこの女は何でも言うことを聞く。
私が嘘をついているなんて思ってもいないのだろう。
(本当、馬鹿すぎて腹が立つわ……)
ギルバートは私の愛人にする予定だからもちろんこの女に渡すつもりなんて無い。
王妃と共に罪を被らせて始末する、それがアイラの最期だ。
憧れている私のために死ねるなら彼女も本望だろう。
「私に毒を盛り、王妃の指示でやったと自供しなさい」
「なッ……そんなこと出来ません……!私まで処刑されてしまいます!」
「心配いらないわ」
私はアイラを安心させるように微笑み、優しく肩に手を置いた。
アイラの後ろにある鏡に映った自分は驚くほど歪んだ笑みを浮かべていた。
「私を誰だと思っているの?国王陛下の寵愛を一身に受ける側室よ?私が頼めば貴方の命くらい助けられるわ」
「で、ですが……」
「何より、ギルバートの心は今王妃に傾いているのよ?ハッキリ言うけれど、王妃が死にでもしない限りは……貴方を見てくれることは無いでしょうね」
「……!」
心が揺れているアイラを引き込むのは容易いことだった。
「欲しいんでしょう?ギルバートの心が」
「……」
「これ以外に方法は無いわ。それにもし貴方が王妃に騙されて悪事に手を染めたと知れば、彼も同情して貴方に興味をもってくれるかもしれないわよ?彼はとっても優しい人だもの」
「……!」
悩み抜いた末に、アイラは首を縦に振った。
こういう馬鹿は扱いやすくて助かる。
(ふふふ、これで全てが元通り)
自分の手を下すことなく邪魔者を排除できるだなんて、これもヒロインの特権だ。
神が私に味方してくれているとしか思えなかった。
この世界の全ては私のものだ。
***
毒から目覚めた私を待っていたのは、冷たいエルフレッドとギルバートの目だった。
ただただ困惑した。
何故、彼らは私を心配してここに来たのではなかったのか。
「――側妃を地下にある牢屋へ入れろ」
「ちょ、ちょっと待って!」
エルフレッドは毒から目覚めたばかりの私を心配することも無く、ただそれだけを命じて部屋から出て行こうとした。
前よりも痩せたように見えるその体に縋りつこうと手を伸ばすも、騎士に阻まれてしまう。
「エルフレッド!ギルバート!」
どれだけ名前を呼び、しがみついても彼らの表情は変わらない。
本来ならば悪役に向けられるはずのその瞳が、今は私に固定されている。
「そんな、どうして……!貴方たちは私を愛しているはずでしょう!?」
「……」
エルフレッドは何も答えなかった。
ただ複雑そうな目で私を見ているだけだ。
「ギルバート!貴方は私を愛してるわよね!?」
「勘違いだ。私はお前を愛したことなんて無い」
「う、嘘よ……そんな……!」
嘘だ、そんなの信じない。
目が覚めたら全てが元通りになっているはずだった。
それどころか、以前より状況は悪化しているではないか。
「待って、待ってよ二人とも……」
あれだけ愛を囁いてくれたエルフレッドも、優しい顔で私の話を聞いてくれたギルバートももういない。
騎士に腕を掴まれて無様な姿となった私を無表情で見つめているだけだ。
そしてそのまま私は地下牢へ連れられ、処刑を待つ身となった。
何故このような結果になってしまったのだろうか。
いくら考えても答えは出ない。
(こんなのありえないわ……私はヒロインなのに……こんなところで死んでいい人間ではないわ、きっと誰かが助けに来てくれる……!)
そう、私は決して死んだりしない。
だって私はこの世界のヒロインで、私が死んだらこの世界は終わってしまうのだから。
(ふふふ……一体どんな人が来てくれるのかしら……)
エルフレッドとギルバートが駄目ならまた別のヒーローを作ればいい。
そうね、今度は隣国の王子なんてどうかしら。
冤罪で処刑されそうになるヒロインを助けに颯爽と牢屋へ現れる王子。
一瞬で兵士たちをなぎ倒し、私を攫っていくのだ。
そしてそのまま隣国へ連れて行かれ、結婚式を挙げる。
二人は王と王妃になり、子宝にも恵まれ末永く幸せに暮らす。
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完全に夢の世界へ入ってしまっていることに、私が気付くことは無い。
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