愛されなかった公爵令嬢のやり直し

ましゅぺちーの

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二章

未来の母娘

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「お嬢様、王妃陛下がお嬢様をお呼びしているそうです」
「……王妃陛下が?」


あの日から一週間後、私は突然王妃陛下からの呼び出しをくらった。
本当に突然のことだったから思わず動揺してしまった。
自分から王宮へ行くのはよくあることだが、王妃陛下に個人的に呼び出されたことはない。


(まさか、絶縁を言い渡されるとかないわよね……?)


もしかして、以前のやらかしを処罰するために呼んだのだろうか。
どちらにせよ行かないわけにはいかない。


「……すぐに王宮へ向かうわ」
「はい、お嬢様」





***






王宮へ登城した私はすぐに王妃陛下の待つ部屋へと通された。
しかし、驚くことにそこにいたのは陛下だけではなかった。


「王妃陛下、ご機嫌いかがでしょうか…………で、殿下?」
「セシリア、来たか」


(どうして殿下までここにいるの?)


お茶会の席には殿下も座っていたのだ。
彼は私と目が合うとクスッと笑った。


来て早々、甘いムードが流れる私と殿下の間に冷たい声が割り込んだ。


「――座りなさい」
「あ、はい、陛下……」


陛下に言われてハッとなった私は、殿下のすぐ隣の席に腰を下ろした。
こうやって王妃陛下とお茶をするのは初めてかもしれない。
前世でも全く経験の無かったことだ。


(緊張で全然お茶が飲めそうにないわ……)


隣に殿下がいるからまだマシではあるものの、一人だったらどうなっていたか。


ふと横にいた殿下を見ると、彼は膝の上で拳をギュッと握りしめていた。
殿下も初めての経験で緊張しているのだろう。


(何を言われるかドキドキしているのは私も同じだわ……)


何を言うつもりなのだろうと身構えていた私と殿下だったが、この後王妃陛下が放った一言に二人して衝撃を隠しきれなかった。


「…………二人とも、悪かったわ」
「……え?」
「……母上、今何と?」


私と殿下が聞き返すと、陛下は申し訳なさそうに視線を下げた。


「ほら、私ったら貴方たちに随分とキツく当たっていたでしょう?……今思えば、母親として最低だったわ……本当にごめんなさいね」
「「……」」


あの王妃陛下が私に謝罪するなんて。
前世の陛下の姿からしてとても信じがたいことだった。


(プライドが高い方だと思っていたのに……)


「グレイフォード」
「はい……母上……」
「貴方に必要以上に厳しく接したのは、貴方があの男のようになってほしくなかったから……決して貴方を愛していないからというわけではないわ」
「母上……」


殿下が目を丸く見開いた。


「では……母上は私のことを愛していたと……?」


震える声でそう尋ねた殿下に、王妃陛下は優しく笑った。


「――当然じゃない。貴方を産んだその日からずっと愛しているわ」
「……!」


殿下の青い瞳が信じられないとでもいうかのように揺れている。


「伝えるのが遅くなってごめんなさい……必要以上に厳しくしていたら貴方が笑わなくなったから……」
「あ……」


王妃陛下の言う通り、たしかに彼はあまり笑わない人だ。
今はもうだいぶ改善されてきているが。


(接しにくくなってしまったのかしらね……まぁ、王妃陛下の気持ちも理解出来ないわけではないけれど)


私だって前世の無愛想な殿下のことを敬遠していたのだから。


「それと、セシリア嬢も……」
「私は大丈夫ですよ、陛下」


王族が臣下に謝罪などしてはいけない。
だからこそ、私は先に王妃陛下の言葉を遮った。


「セシリア嬢……やっぱり、貴方は……リーナによく似ている……」
「ふふふ、よく言われます」


お母様に似ているという言葉も今ではだいぶ慣れた。


「殿下、良かったですね」


私は横にいた殿下にそっと耳打ちした。


「ああ、お前がやってくれたんだろう?ありがとな、セシリア」
「いえ、これくらいお安い御用ですよ」


私たちは顔を見合わせて笑い合った。


「ふふふ、貴方たちとっても良い夫婦になりそうね」
「「!」」


王妃陛下がクスクス笑いながらそう口にして、二人して顔が真っ赤になった。


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