貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした

ましゅぺちーの

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冗談 リサside

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あたしはまずは過去に関係のあった男の元へ向かうことにした。


あの中で一番地位が高いのは侯爵家の令息だった。


王家に比べたら財力と地位は劣るが、それでも贅沢な暮らしは出来るだろう。


彼の生家である侯爵家は名門中の名門だった。


彼と結婚すればあたしは侯爵夫人になれる。


侯爵家の令嬢が婚約者だったが、きっと婚約破棄してくれるだろう。


彼はその婚約者よりあたしのことが好きなんだから。


あたしはそう信じて疑わなかった。


王宮を出たあたしは馬車を使って彼の住む侯爵邸まで向かう。


数時間で侯爵邸に到着した。


王宮に比べたら小さいが、それでも男爵家なんかよりはだいぶ大きかった。


何よりエイドリアンが王太子じゃなくなる今、次に地位が高いのは彼だったから。


あたしは地位が高い男性が大好きだ。


この国に公爵家は四家あり、侯爵家は五家ある。


彼の生家の侯爵家は昔王族が降嫁したこともあって王家の血も混じっていて、侯爵家の中でも序列は一番上。


つまりもうほぼほぼ公爵家のようなものだ。


あたしはワクワクしながら侯爵邸に足を踏み入れようとした。


しかし門のところにいた衛兵に止められてしまった。


「ちょっ、ちょっと!何するのよッ!」


「部外者を入れることは出来ません。」


衛兵は表情を変えずにあたしを邸に入れないようにした。


「あんたたち不敬よ!あたしは将来侯爵夫人になる女なんだから!何よりこんなのレイン様が黙ってるはずないわ!」


レイン様とは侯爵令息の名前だ。


侯爵令息の名前が出たのを聞いた衛兵は顔を歪め、私に尋ねた。


「お坊ちゃまと一体どのような関係なのです?」


こいつ、あたしとレイン様の関係を知らないのね!


いいわ、教えてあげる!


この無礼な男を追い出すのは侯爵夫人になってからでいいわ。


「あたしはリサよ!レイン様と恋愛関係にあったの!」


「・・・なんだと・・・?」


衛兵たちは怪訝な顔をした。


「レイン様は婚約者のご令嬢よりもあたしが良いって言ってくれたの!婚約者の侯爵令嬢とは家の都合で仕方なく婚約してるんだって!」


あたしは声を張り上げて言った。


すると衛兵たちはあたしを馬鹿にするように笑った。


何よ!?失礼な奴ら!


「何がおかしいの!?」


あたしはそんな衛兵たちにいら立って声を荒げた。


「そんなことあるわけがないだろう。お坊ちゃまと婚約者のご令嬢は幼馴染で相思相愛なんだ。今日も二人で街へ出かけているよ。家の都合で仕方なく婚約してるだって?それも間違いだ。侯爵令嬢と婚約したいと強く願ったのはお坊ちゃまの方だったんだから。」


う、うそ・・・・。


あたしは衛兵に告げられた言葉に衝撃を受けた。


うそよ・・・だってレイン様は言ってたわ・・・。


彼女よりあたしの方が良いって・・・。


あたしの方が可愛いって・・・。


彼女と婚約破棄してあたしを婚約者にしてって言った時も優しく微笑んでくれたし・・・。


何かの冗談だと思いたかった。


レイン様と婚約者の侯爵令嬢が幼馴染で相思相愛?


じゃあ、あたしは?


あたしに言ってくれたあの言葉は一体何だったの・・・?


「う、うそよ・・・。そんなの・・・。信じない!」


あたしは頑なに信じなかった。


そんなあたしを衛兵たちは鼻で笑う。


その時、聞き慣れた声が後ろから聞こえた。


「・・・何をしている?」


あたしが後ろを振り返ると、そこには


「レイン様・・・!」


ようやくレイン様に会えた!


・・・けど隣にいる女の人は誰だろう?


レイン様は隣に綺麗な女性を連れていた。


「レイン、この人は誰?知り合いなの・・・?」


隣にいる女の人があたしを見て不安そうにレイン様に尋ねた。


するとレイン様は彼女の方を見て優しく微笑んだ。


「いいや、知らない女だ。クローディア、俺を疑っているのか?」


「そういうわけじゃないけど・・・。」


その瞳は私に向けた瞳とは全く違うものだった。


相手を慈しむような・・・愛しいものを見るかのような目だった。


「クローディア。歩き回って疲れただろう?先に部屋に戻って休んでいろ。」


「ええ、そうするわ・・・。」


そう言って二人は微笑み合った。


ちょっと何よ・・・。


これじゃあまるで、相思相愛みたいじゃない・・・。


そのまま女性は邸へと入って行った。


衛兵たちがサッと道を開けるところを見ると彼女がレイン様の婚約者の侯爵令嬢なのだろう。


「で、一体これは何の騒ぎだ?」


侯爵令嬢が邸の中へ入って行くのを確認するとレイン様が口を開いた。


それに衛兵が答えた。


「そこの不審な女が自分はレイン様と恋愛関係にあった、未来の侯爵夫人になるのだと騒いでおりましたので止めておりました!」


するとレイン様はようやく私を見てくれた。


「お前は・・・」


レイン様はじっと私を見つめた。


そして、口を開いた。


「ああ、あの時の娼婦か。」


・・・・・・・・・・・え?


この人今なんて言ったの?


あたしのこと娼婦ですって・・・?


あたしはレイン様に反論した。


「娼婦じゃないわっ!ねぇレイン様、あたしのこと好きなんでしょう?言ってたじゃない。侯爵令嬢とは仕方なく婚約しているって。」


それを聞いたレイン様がハァとため息をついた。


そして衛兵たちに声をかける。


「おい、お前らちょっと離れてろ。」


「はい。」


指示を受けた衛兵たちがあたしたちから離れて行く。


「たしかにそんなようなこと言ったかもしれないが・・・そんなのは冗談だろ?本気にするなよ。」


う、うそよ・・・。


冗談で好きって言ったですって・・・!?


「そ、そんな・・・。」


「大体お前、他の貴族令息にも同じようなことしてたじゃねえか。」


っ!?


バレてたの!?


「他の男とも関係を持つような女を、本気にするわけないだろ?それにお前平民だろ?平民が侯爵夫人になれると思っているのか?」


レイン様はあたしを馬鹿にしたように言った。


あたしは絶望した。


レイン様の言ってたことは全て嘘だったのだ。


婚約者よりもあたしが好きっていうのも、婚約者のご令嬢とは家の都合で仕方なく婚約しているってのも。


実際二人は相思相愛であたしの入る隙なんてどこにもない。


「レイン様・・・。」


「こんなところまで押しかけてくるだなんて・・・。クローディアに誤解されたらどう責任取るつもりだ?とにかくもう二度と来るなよ。」


レイン様は私に冷たく言い放った。


そうして一度も振り返らずに邸へ歩いて行った。


途中で侯爵令嬢が花を抱えてレイン様の元へ駆け寄っていた。


レイン様はそんな婚約者を優しく抱き留め、花で髪の毛を飾ってあげていた。


そんな二人はとても幸せそうだ。


それを見るだけでレイン様が婚約者を心から愛していることが伝わってきた。


その後あたしは街を徘徊した。


途中ですれ違った人たちの話し声が聞こえた。


「ねぇ見た?さっき街でデートしてたのってレイン様とクローディア様よね?」


「見た見た!あの二人本当にお似合いよね!」


「レイン様とクローディア様は幼馴染で相思相愛だもの!最初はレイン様の一方通行の片思いだったらしいんだけど、レイン様のアプローチにクローディア様も次第に心を開き始めたんだって!」


「そうそう!プロポーズした時真っ赤な薔薇の花束を渡したって!素敵よね~!」


あぁ、知らなかったのはあたしだけか。


他の人はレイン様と婚約者が相思相愛だということをみんな知っていたのだ。


これからどうしよう・・・?


このままじゃあたしは生活出来なくなっちゃう・・・。


いや、待てよ・・・。


そうだわ!あたしは侯爵令息以外にも関係を持ってたじゃない!


それがまさか役に立つとは・・・。


よし、次はあの伯爵令息の元へ行こう!


そうしてあたしは伯爵令息の邸へ向かったのだった。

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