貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした

ましゅぺちーの

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幸せ リサside

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あたしはすぐに馬車に乗って故郷へと戻った。


久しぶりの故郷。


王都に比べるとだいぶ華やかさに欠ける場所だ。


しかりあたしにはもうここしか行くあてがなかった。


だから仕方なく戻ってきたのだ。


あたしは可愛いし、きっとみんなまたあたしを受け入れてくれるはず。


この時のあたしはそう信じて疑わなかった。


しかしこの後、それはあたしの勘違いだったのだと気づく。





あたしはそのまま男爵邸へと向かった。


王宮、高位貴族の本邸を見てきたあたしにとってはかなり小さく感じた。


だけど仕方ないわ。


あたしは男爵邸の門の前にいた衛兵に声をかけた。


「ちょっと、あなた!」


衛兵は無表情のままあたしの方を見た。


「・・・」


そのまま口を開かずにじっとあたしを見ている。


無礼なやつね!あたしの問いかけに答えないつもり!?


あたしはそんな衛兵にイラついて文句を言った。


「ちょっとあなた!あたしを無視するんじゃないわよ!」


すると衛兵は面倒くさそうに口を開いた。


「・・・何の御用でしょうか?」


どこまでも無礼な男だ。


あたしを怪訝な目で見ている。


「あたしよ!リサよ!男爵家に戻ってきてあげたのよ!今すぐこの家の息子にそれを伝えてちょうだい!」


あたしはそう言った。


しかし衛兵は動こうとはしない。


それどころかあたしに侮蔑の眼差しを向けている。


しばらくして口を開いた。


「・・・リサ?あの罪人のか?」


「・・・え?」


今、この男あたしのことをなんて言ったの?


罪人って言ったわよね?


「ど、どういうことよ、罪人って!あたしは罪人なんかじゃない!あなた、この男爵家に仕えているんでしょう?主人の息子の妻を罪人って言うだなんて不敬だわ!」


この男、後で男爵令息に言いつけてやる!


「たしかに前にお坊ちゃまの婚約者だったリサとかいう女がいたな。しかしその女は今この男爵領では罪人扱いだ。」


衛兵は声を荒げたあたしに対してそう言った。


「ざ、罪人扱いですって・・・?」


あたしは自分が罪人扱いされていると聞いて衝撃を受けた。


そ、そうよ・・・。


な、何かの間違いよきっと・・・!


あたしはそう思うことで何とか平静を保っていた。


「ああ。お坊ちゃまをたぶらかし、男爵家の金で散財した挙句、勝手に婚約を破棄して男爵家を出て行った大罪人だ。」


ぐっ!!!


それって紛れもなくあたしじゃない・・・!


ということは、まさかこの衛兵の言っていることは全て本当のことで、あたしは本当に男爵領では罪人扱いされているということなの・・・?


ショックを受けているあたしに衛兵は冷たい声で告げる。


「命が惜しければさっさと男爵領を出て行くんだな。お坊ちゃまがお前がやったことに非常にお怒りだ。当然だよな。お前のせいで男爵家は困窮しているんだから。もしかしたらお前を殺すかもしれない。」


不敵な笑みを浮かべて衛兵はそう言った。


「・・・!」


あたしは怖くて身体が震えた。


嫌!


殺されたくない!


あたしはその場から逃げるように立ち去った。





あたしはただただ走り続けた。


このまま男爵領を出よう。


あの衛兵はもしかしたらあたしが男爵邸に訪れたことを男爵家の人たちに伝えるかもしれない。


そうしたらあたしは終わりだ。


あたしはそう考えながら走った。


しかし、ふとあたしは故郷に住んでいる両親のことが気にかかった。


最後に話したのはずっと前だ。


二人は今、何をしているんだろう・・・?


あたしはそれが気になり、かつて住んでいた村へ立ち寄ることにした。





あたしはまた馬車で村まで向かった。


両親はあたしと男爵令息の結婚に乗り気じゃなかった。


身分が違いすぎるって。


あの頃のあたしは裕福な暮らしがしたい一心で男爵令息のプロポーズを受け入れたのよね。


ふとあたしは村での生活を思い浮かべた。


決して裕福とは言えない環境だった。


綺麗なドレスも着れないし、宝石やアクセサリーだって頑張って働いても買うことなど出来なかっただろう。


仕事をしなければ食べていくことが出来なかったし、あたしはそんな環境が嫌だった。


貴族令嬢を見てはいつも羨ましく思っていた。


あの人たちは仕事なんてしなくていい。


ただ美しいドレスを着て舞踏会やお茶会に参加するだけで平民よりもよっぽど贅沢な暮らしが出来る。


・・・だけど。


今になって思う。


あの時、男爵令息のプロポーズを受け入れて村を出た判断は本当に正しかったのか。


もしかしたら間違っていたんじゃ・・・。


村での生活は大変だった。


畑仕事は疲れるし、身の回りのことは何でも自分でやらなければならなかった。


それでも―


あたしは一人じゃなかった。


あたしにはあたしを愛してくれる両親がいたし、村のみんなだってあたしに優しく接してくれた。


その時、あたしの目から涙が溢れ出た。


ううっ・・・!


お父さんとお母さんに会いたい・・・!


会って今すぐ抱きしめてもらいたい・・・!


どうしてあたしはこんな大事なことを忘れていたのだろう。


あの頃のあたしは小説の中でよくある”平民と王子の身分違いの恋”に憧れていた。


本当に大事なものはすぐそばにあったのに―


朝起きて、畑仕事をする。


仕事が終わったらお父さん、お母さんと一緒に食事をとる。


休みの日には男爵領の中心街に遊びに行く。


たまに家族みんなでご飯を食べに行く。


当たり前の日々だと思っていたのに・・・


これがあたしにとっての幸せだったのだ。


お父さん・・・!お母さん・・・!


あたしは自分が大きな間違いを犯してしまったことにようやく気付いた。


あたしの幸せは王子様と結婚することじゃなくて家族と過ごすことだったのだ。







しばらくして村に着いたあたしはすぐに両親と住んでいた家へと向かった。


「お父さん!お母さん!」


扉を思い切り開けたあたしに家にいた両親は驚いた顔をした。


「リサ!?」


あたしは両親を見て涙が止まらなくなった。


あたしはそのまま両親に抱き着いた。


「お父さん・・・お母さん・・・ごめんなさい・・・!」


そして幼い子供のようにわんわん泣いた。


両親は何も言わず、そんなあたしの頭を撫でてくれた。


しばらくして、お父さんが口を開いた。


「・・・リサ。お前が男爵家で散財して家を出て行ったと聞いた時はひどくショックを受けた。しかし私たちはお前を信じていたよ。自分が犯した間違いに気づいてくれることを。」


お父さん・・・。


「たとえ罪を犯したとしても私たちにとってリサは可愛い子供よ。」


お母さん・・・。


「どうせ”あたしならもっと高みを目指せる!”って思って調子に乗ったんだろ?」


この声は・・・!


声のする方を振り返ると、あたしの予想通り扉の外にジャックがいた。


相変わらず嫌なヤツ・・・


でもその嫌味が今は何故だか嬉しい。


あたしはしばらく両親に抱き着いたまま泣き続けた。










「お父さん!お母さん!行ってきます!」


その後、あたしは両親と共に男爵家へ謝罪に行き、散財した分を働いて返すことで何とか許しを得た。


「いってらっしゃいリサ。最近かなり長い時間働いてるけど大丈夫なの?」


お母さんが心配そうにあたしに尋ねた。


「平気よ!こう見えてタフだから!」


あたしは今畑仕事以外にも街のパン屋で働いている。


パン屋での仕事が終わったらいつも教会へ寄り、懺悔をしている。


あたしがやったことは最低なことだ。


何人もの人の人生を壊してしまった。


特に・・・


あたしは王太子殿下の婚約者だった美しい女性を思い浮かべた。


エレン様・・・。


あたしが彼女にしたことは到底許されることではないだろう。


もちろん他の貴族たちにしたことも許されないことだが。


あたしはこの罪を一生背負いながらこの先の人生を生きていくんだ。


それがあたしに出来る彼らに対する唯一の贖罪だから―


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