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58 侵入者
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お兄様と話をしてから一週間が経った。
伯爵家の居候である私は、特にすることも無く部屋でのんびりしていた。
(もう夜か……)
離婚してからというもの、私は実家である伯爵邸で穏やかな日々を過ごせている。
公爵邸にいたあの頃に比べると今の生活はとても幸せだ。
しかし、問題が一つあった。
(……幸せだけど暇すぎるわ)
そう、暇なのだ。
今だって暇すぎて何もすることが無いほどだ。
時々お兄様の執務の手伝いをしてはいるものの、それでも時間は余るのだ。
そんな私は今日もこうして一人でお茶をしているところである。
(本当なら、誰か誘いたいけれど……)
リーシェお義姉様やレイラは子育て中で忙しいみたいだし。
二人以外に親しい令嬢もいない私は、誰かをお茶に誘うことも出来ずにいた。
(……そういえば、あれからルークとは一回も会ってないわね)
ルークとは一週間ほど前に食事をして以来、会っていない。
もしかすると、前に危惧した通り本当にこのまま一生会えなくなるかもしれない。
(せっかく仲良くなれたのになぁ……)
彼に受けた恩は未だに返せていない。
前の食事も結局は私が奢ってもらってしまったし。
そのせいか、何だかモヤモヤしている。
本音を言えば、今すぐこの国のどこかにいるであろうルークを探したかった。
(でも私、彼の名前と職業以外何も知らないわ……)
何故もっと聞いておかなかったのだろうと、今になって後悔が押し寄せてくる。
(あーあ……前みたいにあの窓から現れてくれないかなぁ……)
王宮でレイラとお義姉様とお茶会をした日の夜。
ルークが落とし物を届けにあの窓からわざわざ来てくれたときのことがふと頭に浮かんだ。
私は椅子から立ち上がって、前にルークが現れた窓を開けてバルコニーに出た。
深い夜の闇の中から颯爽と現れたルーク。
あの姿は小説の中に出てくる救いのヒーローのようだったなぁと思う。
その日の彼の姿を思い浮かべながらバルコニーから見える街の景色を眺めていた私の視界に、突然黒い影が映った。
――ルークだ。
前と違ってフードを深くかぶっている。
(そうそう、ちょうどこんな風に……………)
「って、ルーク!?」
「……」
ルークは驚く私をよそに、何も言わずにバルコニーの手すりから降りて部屋の中へと入った。
「ちょ、ちょっと!」
「……」
女性の部屋に勝手に入るだなんてどういうことかと、私は彼の肩を強く掴んだ。
その拍子に、ルークがかぶっていたローブのフードがパサリと外れた。
「ちょっと、ルーク…………!?」
こちらを振り向いた彼の顔を見た私はさらに驚いた。
(ちょっと待って……どうしてこんなに顔色が悪いの……!?)
私を見る彼の顔は真っ青で、今にも倒れてしまいそうだった。
「ルーク、一体何があったの……?」
「……」
私の問いに、彼は何も答えなかった。
その口元は僅かに震えている。
(とりあえず……彼の体調をどうにかしないと……)
何故ここへ来たのか、尋問は後でいいだろう。
私はルークの腕を引っ張って部屋にあったベッドの傍まで連れて行った。
いざベッドを前にすると一瞬躊躇ったが、今回ばかりは仕方が無い。
(何より、今はそんなこと気にしてる場合じゃないわよね)
このまま悪化した方が後味が悪いだろう。
そう言い聞かせた私は、彼をそっとベッドに寝かせた。
「ルーク、大丈夫……?」
「……」
よく見てみると、ルークの目の下にはクマがあった。
何日も睡眠が取れていないようだ。
(熱は無いみたいね……)
彼の額に手を当てて熱を測った。
幸いにもそれほど熱くは無く、どうやら熱は無いようだ。
(しばらく寝ていれば回復するかしら……)
私は横になっている彼の手を優しく握った。
この時間は医者も帰っている頃だろう。
私一人でどうにかするしかない。
「ルーク……」
私が手を握り続けると彼は落ち着いたのか、しばらくして目を閉じた。
その姿をじっと見ていた私は、ふぅと安堵の息を吐いた。
このまま明日には元気になってくれたら良いのだが。
彼が心配だった私はベッドの傍に椅子を持ってきて隣で夜通し看病し続けた。
(一体何があったら、こんなことになるの……?)
「……ねぇ、ルーク」
「……」
私はベッドサイドに座って深い眠りに就いている彼に問いかけた。
伯爵家の居候である私は、特にすることも無く部屋でのんびりしていた。
(もう夜か……)
離婚してからというもの、私は実家である伯爵邸で穏やかな日々を過ごせている。
公爵邸にいたあの頃に比べると今の生活はとても幸せだ。
しかし、問題が一つあった。
(……幸せだけど暇すぎるわ)
そう、暇なのだ。
今だって暇すぎて何もすることが無いほどだ。
時々お兄様の執務の手伝いをしてはいるものの、それでも時間は余るのだ。
そんな私は今日もこうして一人でお茶をしているところである。
(本当なら、誰か誘いたいけれど……)
リーシェお義姉様やレイラは子育て中で忙しいみたいだし。
二人以外に親しい令嬢もいない私は、誰かをお茶に誘うことも出来ずにいた。
(……そういえば、あれからルークとは一回も会ってないわね)
ルークとは一週間ほど前に食事をして以来、会っていない。
もしかすると、前に危惧した通り本当にこのまま一生会えなくなるかもしれない。
(せっかく仲良くなれたのになぁ……)
彼に受けた恩は未だに返せていない。
前の食事も結局は私が奢ってもらってしまったし。
そのせいか、何だかモヤモヤしている。
本音を言えば、今すぐこの国のどこかにいるであろうルークを探したかった。
(でも私、彼の名前と職業以外何も知らないわ……)
何故もっと聞いておかなかったのだろうと、今になって後悔が押し寄せてくる。
(あーあ……前みたいにあの窓から現れてくれないかなぁ……)
王宮でレイラとお義姉様とお茶会をした日の夜。
ルークが落とし物を届けにあの窓からわざわざ来てくれたときのことがふと頭に浮かんだ。
私は椅子から立ち上がって、前にルークが現れた窓を開けてバルコニーに出た。
深い夜の闇の中から颯爽と現れたルーク。
あの姿は小説の中に出てくる救いのヒーローのようだったなぁと思う。
その日の彼の姿を思い浮かべながらバルコニーから見える街の景色を眺めていた私の視界に、突然黒い影が映った。
――ルークだ。
前と違ってフードを深くかぶっている。
(そうそう、ちょうどこんな風に……………)
「って、ルーク!?」
「……」
ルークは驚く私をよそに、何も言わずにバルコニーの手すりから降りて部屋の中へと入った。
「ちょ、ちょっと!」
「……」
女性の部屋に勝手に入るだなんてどういうことかと、私は彼の肩を強く掴んだ。
その拍子に、ルークがかぶっていたローブのフードがパサリと外れた。
「ちょっと、ルーク…………!?」
こちらを振り向いた彼の顔を見た私はさらに驚いた。
(ちょっと待って……どうしてこんなに顔色が悪いの……!?)
私を見る彼の顔は真っ青で、今にも倒れてしまいそうだった。
「ルーク、一体何があったの……?」
「……」
私の問いに、彼は何も答えなかった。
その口元は僅かに震えている。
(とりあえず……彼の体調をどうにかしないと……)
何故ここへ来たのか、尋問は後でいいだろう。
私はルークの腕を引っ張って部屋にあったベッドの傍まで連れて行った。
いざベッドを前にすると一瞬躊躇ったが、今回ばかりは仕方が無い。
(何より、今はそんなこと気にしてる場合じゃないわよね)
このまま悪化した方が後味が悪いだろう。
そう言い聞かせた私は、彼をそっとベッドに寝かせた。
「ルーク、大丈夫……?」
「……」
よく見てみると、ルークの目の下にはクマがあった。
何日も睡眠が取れていないようだ。
(熱は無いみたいね……)
彼の額に手を当てて熱を測った。
幸いにもそれほど熱くは無く、どうやら熱は無いようだ。
(しばらく寝ていれば回復するかしら……)
私は横になっている彼の手を優しく握った。
この時間は医者も帰っている頃だろう。
私一人でどうにかするしかない。
「ルーク……」
私が手を握り続けると彼は落ち着いたのか、しばらくして目を閉じた。
その姿をじっと見ていた私は、ふぅと安堵の息を吐いた。
このまま明日には元気になってくれたら良いのだが。
彼が心配だった私はベッドの傍に椅子を持ってきて隣で夜通し看病し続けた。
(一体何があったら、こんなことになるの……?)
「……ねぇ、ルーク」
「……」
私はベッドサイドに座って深い眠りに就いている彼に問いかけた。
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