自由な女神様!~種族人族、職業女神が首を突っ込んだり巻き込まれたりの物語。脇に聖女を添えて~

時雨

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本編

18.お披露目

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 お披露目日までの二ヵ月は短く、あっという間に過ぎていった今日。お披露目当日。
 城下を巡るパレードでは、馬車に乗って民衆たちに笑顔で手を振る仕事なのだが……。これがまた、ものすごく疲れる。城を出発し、城下を一周してまた城に戻ってくる間、ずっと笑顔でいなくてはならないのがつらかった。
 城に戻り、集まった民衆たちに向けてバルコニーに姿を現せば、大地を揺るがすような歓声が上がる。瑞姫はそれに顔が引きつりそうになりながらも、なんとか笑顔を保っていた。
王から紹介され、一言ずつ述べる。ゆりあは、“聖女として瘴気をどうにかしに行くからよろしくね”的なことを。瑞姫は、“気分で各地を放浪すると思うから、出会ったらよろしくね”的なことを。かなり砕いた感じだが、実際はもっと長く丁寧な言葉である。
 更に、王からは話し合いで決めて合った通り、二人は同じ世界からやってきたのではなく、別々の世界からやってきたということ。女神は戦闘特化の世界から、聖女は戦闘もない平和な世界から、ということ。結局、平民には水の能力のことは言わなくてもいいか、となったので、戦闘ができるよ、だけになった。そして、聖女には力の扱いが安定したら、各地に向かって瘴気を浄化する旅に出てもらうこと。最後は王自身の言葉で締めくくられ、一旦全員が裏に引っ込む。休憩だ。

 次は、貴族に向けたパーティーである。
 会場入りは、シリウスのエスコートだった。ゆりあはリカルドの。最初はフォリアとは別々である。
 王の言葉から始まったパーティーは、一言で言って非常に目まぐるしい。爵位が上の者から順に挨拶をしに来るので、後を絶たないのだ。ずら、と行列が見え、眩暈を起こしそうになったほど。顔と名前を覚えるのは苦じゃないが、人数があまりにも多すぎてさすがに覚えきれず、最初の人たちは忘れそうである。
 ちなみに、瑞姫の異能の事ではあるが、水の能力だけ王が最も信頼する一部の貴族たちだけに詳細を事前通達されていた。それ以外の貴族たちには、水の女神の加護持ちだと通達されている。彼女は最初、水の異能だけはおおっぴろげにしてもいいよ、と言ったので、それには二つ返事で頷いた。
 最初のダンスをシリウスと踊り、その後は、ようやく自由になる。フォリアとも、そこでようやく合流できた。シリウスと交代で一曲踊り、そのあとはずっとフォリアは瑞姫に着いている。

「とてもお綺麗です。ミズキ様の美しさの前では、宝石もただの石ですね」
「ミズキ様の美しさに、会場中の者が目を奪われています」
「ミズキ様、私以外の男と踊らないでいただきたいというのは、我が儘でしょうか」
「ミズキ様、私を見てください。照れているのですか?お可愛らしいですね」

 フォリアがダンス中に甘い言葉を吐くものだから、何度かステップを踏み間違えそうになったことは内緒である。というか、従者なのにこの恋人っぽい発言はなんなのだろうか。

「フォリアも……、この会場内で一番綺麗だし、かっこいいよ」
「!あぁ、光栄の極みにございます……!ミズキ様に合わせた装いにして、本当によかった」

 瑞姫も負けじと羞恥心を殺して言ったのだが、輝かしい笑顔に撃沈した。言葉で勝てないと確信した瞬間である。

「ミズキ様、少し、ベランダで涼みませんか?休憩もそこで」
「あー、うん」

 フォリアに促され、内心はげっそり、表はにこやかに。そそくさとベランダに移動する。その際、そのベランダの近くにいた第二騎士団長セレネイズに“少し涼むだけだから、誰も通さないでほしい”とお願いすれば快く引き受けてくれた。カーテンは開いているので、中からすぐに外が見えるし、そこまで広くないところなので何かあってもすぐ来られる。……まあ、彼女の場合、何かあっても自分で何とか出来るのだが。

「ふぅ~……」

(つ、疲れる……!おべっかちゃらちゃら並べ立てて、思ってもないことをぺらぺらとっ。微笑み聞き流すのがこんなに苦労するなんて……。はー……、無理)

 貴族たちの挨拶を聞き流すのに、こんなに疲れるとは思わなかった。ダンスをしていたほうがまだましである。
 挨拶される中、フォリアの両親と会えた。フォリアはどうやら母親似だったようで、母親も真っ白だった。瞳の色だけは父親譲りらしい。そこで、ぽっと出の異世界から来た女が、大事な息子の一生を縛ってしまったから謝罪と感謝の意を伝えた。フォリアには、言葉を伝えてもらうようお願いしたが、やはりこういうのは直接言うのが礼儀である。大勢の前ではどうかと思ったが、大事なことだ。

(そうだ。ちょっと怪しいなって思った人はしっかり覚えたから、今のうちメモしとこ)

 ドレスはいい。色々なものを仕込めるから。ごそごそ、と取り出したのはメモ帳とペンである。
 貴族だから、おべっかを並べ立てるのはいい。思ってもないことを並べ立てられるのも、まだいい。本心を見せないのが貴族だ。品定めされるのも、まあ、しょうがないと思おう。ただ、その中でも特に、ほの暗そうなやつらが数人いたのだ。ちょっと危険かもしれない、と瑞姫の第六感が訴えた。とりあえずメモをして、この人たちを警戒してます、と……。

「それは……?」
「第六感がこいつら怪しい、と思った家」
「!……、ここ以外は第二王子派閥です。この家は……、第一王子の派閥だったかと……。まさか」
「へえ。隠れ藪にしてんのかな。まあ、私の勘だし、きちんと調べたわけでもないから……、頭の片隅に置いといてよ」
「御意に」

 第一王子の派閥に所属する家があるなら、このメモはそのままシリウスに渡せばいいか、と思い、ドレスにしまい込んだ。涼みながらも会話していれば、ベランダの入り口が騒がしい。ん?と見てみれば、揉めているようだった。見てきます、とフォリアは見に行くが、一瞬沈黙したと思ったら、さらに騒がしくなる。あ、これはだめだ、と思って瑞姫も近寄れば、セレネイズやフォリアの体に隠れて見えなかったが、数人が詰め寄っているらしい。

「なぜ白蛇族である貴様が女神様の護衛なんだ!何かの間違いだろう!?」
「そうは言われましても、ミズキ様がお決めになられたことですので」
「嘘をつくな!」
「嘘ではありませんぞ。この者は、女神様と主従契約を結んでおります」
「な……!白蛇族を、女神様が選ばれるはずがない!公爵である私を差し置いて……!ここを通せっ」

 聞き捨てならない言葉を耳が拾った。白蛇族とは、言ってくれる。王城内を巡っている瑞姫の噂を知らないのだろうか。さらに、権力を笠に着て伯爵であるセレネイズやフォリアに脅しをかけるなんて、品のないことだ。追っ払ってしまおう。

「通さなくて結構です」
「!これは、女神様」
「第二騎士団長、フォリア、申し訳ないですがそのままで」
「「はっ」」

 顔も見たくない。

「女神様、お目通りを願っているのですが、この者たちが無礼にも私を通さず」
「私の命令が耳に入りませんでしたか。私は、通すなと言いました」
「っ!ですが、私は」
「公爵だろうと、私には関係のないことです。私が涼みたいから誰も近づかせるな、というお願いを聞いてくださった。その方に、その態度は看過できません。この程度で騒ぎ立てるとは、品もなければ、マナーもなってない方ですのね」
「な……」
「それに、私の噂を知らない、と?まあ、どちらでも構いませんが、噂はほとんど事実といっておきます。フォリアは私が望みました。だから契約したのです。私が選んだ大事な従者に、白蛇なんかと、よくも。白蛇族を侮辱する方に、合わせる顔も話す言葉もありません。早々にお引き取り願います。それと、バーリン伯爵子息には第二騎士団長としてこの場に立ってもらっておりました。……意味は、お分かりですね?」

 つまり、伯爵ではなく第二騎士団長に女神の命令お願いを下して人を遠ざけたので、バーリン伯爵家に苦情は言ったらだめですよ、ということだが。それが伝わったかはわからないが、迷惑な連中は渋々と引き下がってくれたらしい。

「お見事です」
「意外と、ぴしゃりとおっしゃるのですね。驚きました……」

 誰だ?と、首をかしげながらセレネイズの後ろからひょっこりと顔を出せば、第五騎士団団長ジークレイ・シェリトンである。

「シェリトン団長さん。最初が肝心でしょう?あーいうのは、遠回しに言っても伝わらないことが多いですからねぇ。関わりません、ってはっきり言わないとつけあがりそうですし」

 その通りです、とジークレイとセレネイズは頷いた。

「チェリン公爵子息の声でしたね。あとはどの家の方でした?」
「え、えぇ、あとはセントリー伯爵、ライヤー子爵、ウェスラー男爵のご子息方です」

 チェリン公爵子息は問題児だ、と前もって聞いている。王族からしか注意できなかったらしい。争うわけにはいかないから、やんわりと、になってしまうのだ。しかし、女神は王より上である。それに、貴族社会、上下関係にはとらわれない存在だ。だからこそ、彼女はぴしゃりとはっきり言える。周囲に騒がしくして申し訳ない、と謝罪すれば、女神様がはっきり言ってくださってすっきりした、というような言葉をもらえた。どうやら、思った以上に問題児だったらしい。
 その三家の名を聞いて、おや、と思った。恐らくは、取り巻きのようなものだろうが、先ほど警戒しようと思った家の名前である。あと他に二家ほどあるが。顔を合わせなくて正解だったようだ。

「もしや、顔と名前を覚えておられるのですか?」
「顔と家名だけですよ……。ある程度は、シュバルツ様から聞いてましたので」
「いえ、それだけでもすごいことです」
「ふふ、ありがとうございます。頑張りました。今頭ぶつけたら、飛んできそうですけど」
「それはそれは。気をつけねばなりませんね」

 予備知識なしでは、さすがにすべて覚えきれはしなかっただろうが。まあ、名前は呼ぶつもりは毛頭ないので、忘れてしまっていても問題はない。と思っている。
 彼が声をかけてきたのは、おそらく派閥が関わっているのだろう。今までは絶妙に均衡を保っていたのに、ここにきてわずかに崩れたのは女神と聖女の存在である。うまい具合に女神が第一王子、聖女が第二王子と別れた。当然、女神のほうが上なので、第一王子の派閥に軍配が上がる。それをよく思わないのが第二王子の派閥。チェリン公爵子息が声をかけようとしてきたのは、彼が第二王子の派閥だからだ。その取り巻きであろう三家も当然そう。恐らく、女神を第二王子の派閥に取り込もうとしていたのだ。そんな思惑に乗ってやるつもりなどないので、すげなく帰ってもらったが。
 ちなみに、この二人は保守派、いわゆる中立の立場だ。そして、周りにいる者たちも、ほとんど保守派の人間である。

「それから、フォリア。喜ぶのもいいけど、後回しにして欲しかったなあ。怒りがどっか吹き飛ぶところだった」
「っ!す、すみません。ですが……、感動が……」

 瑞姫が怒りを覚えたところから、フォリアから伝わってきた感情は喜びである。確かに、フォリアのために怒ったのだが。瑞姫の怒りが少し弱かった為、その強い喜びの感情でかき消されるところだった。フォリアが一言も話さなかったのは、瑞姫が発した大事な従者という言葉をかみしめ、感動に身悶えていたためである。

「バーリン団長さん、もし今日のことで誰かが何か言ってきたら、私に教えてください。貴方に抗議したなら、それはお願いした私に言っていると同義ですし」
「それは……、女神様のお手を煩わせるのは」
「バーリン団長、これを私が言うのも何ですが、私というか、白蛇族を侮辱されたことに怒りを感じていらっしゃる。先ほどのあれは序の口。ミズキ様が仰りたいことは、まだやり返したりないから、その口実が欲しい、です」
「おー、フォリアさすが~」

 どや顔で言い切ったフォリアに、瑞姫は少し投げやりな態度で褒めた。それでも嬉しかったのか、途端に表情が崩れる。最初の頃は、すん、とした表情が多かったのにな。

「ふっ、なるほど。それでしたら、遠慮なくお伝えさせていただきます」
「ふふ。やられなければやり返せませんからね。……まあ、公爵を名乗るなら、そんな馬鹿なことしないとは思いますけどね」
「そうですね」
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