2 / 21
2.公園デート
しおりを挟む
温かな日差しが降り注ぐ公園。木陰にあるベンチに腰を降ろしたマリアは、婚約者のロイズと談笑していた。
ロイズはトーナー子爵家の次男で、リディクト伯爵家の近縁だ。マリアとは幼馴染みのように育ち、気心が知れた仲である。いずれマリアと結婚して、リディクト伯爵家に婿入りする予定になっている。
マリアにとって、ロイズはマリアの趣味に理解を示してくれる、得難い婚約者だ。自分の趣味が決して褒められたものではないと分かっているけれど、やめられないのだから仕方ない。認めてくれる婚約者は本当にありがたいのだ。
そんな婚約者を逃さないために、仲良く過ごせるよう努力は厭わない。だからこそ、こうして度々一緒に出掛けて、相手の理解に努めるのだ。
「――君の趣味をどうこう言うつもりはないけどね。そうそう面白いゴシップが転がってないのは当然だろう?」
最近は楽しいゴシップがないわ、と嘆いたマリアを諭すように言いながら、ロイズが苦笑する。
焦げ茶のウェーブした髪に灰色の瞳は、目を惹く美しさはないけれど、清潔感があって好ましい。物腰が柔らかく、微笑みを湛えている姿も、好青年という雰囲気だ。
マリアの三歳上のロイズは、一足先に社交界デビューしていたこともあり、マリアより世間をよく知っている。
「それは、そうなのだけれど……。私の唯一の楽しみなのよ? ロイズは何か知らない?」
「そうだなぁ……。最近、マリアローズの新作のお菓子が評判とか?」
揶揄うような笑みを浮かべるロイズに、マリアは拗ねて唇を尖らせた。はしたないから、扇子で隠したけれど。
「それはゴシップじゃないわ。なにより、私が一番よく知っていることよ」
「君の店だからね。マリアは忙しいのに、よくこうも新しいアイディアを生み出せるね」
「……頑張っているのよ」
思わずギクリと身体が震える。実はその新作のお菓子というのが、マリアがゼロから生み出したアイディアでないというのは、おそらくこの世界でマリアしか知らない真実だろう。
マリアは前世の知識を生かして、幼い頃から様々な商売に手を出していた。もちろん、それには伯爵家としての財力と人脈、経験が使われているのは間違いない。マリア一人ではこうも上手くできなかっただろう。
それでも、この世界にはなかったアイディアを次々と提案するマリアは、父母から絶大な信頼を向けられていた。
「――その新作のお菓子、ロイズはもう食べた?」
「いや。我が婚約者殿が食べさせてくれるものだと思って、我慢していたんだ」
傍らのバスケットに手を伸ばしたマリアに、ロイズが瞳を輝かせて微笑む。マリアがロイズと会うときに、何かしらお菓子を持ち込むのはいつものことだ。
「ふふ、じゃあ一緒に食べましょう。マリアローズの新作のお菓子――生チョコレートよ」
ロイズはトーナー子爵家の次男で、リディクト伯爵家の近縁だ。マリアとは幼馴染みのように育ち、気心が知れた仲である。いずれマリアと結婚して、リディクト伯爵家に婿入りする予定になっている。
マリアにとって、ロイズはマリアの趣味に理解を示してくれる、得難い婚約者だ。自分の趣味が決して褒められたものではないと分かっているけれど、やめられないのだから仕方ない。認めてくれる婚約者は本当にありがたいのだ。
そんな婚約者を逃さないために、仲良く過ごせるよう努力は厭わない。だからこそ、こうして度々一緒に出掛けて、相手の理解に努めるのだ。
「――君の趣味をどうこう言うつもりはないけどね。そうそう面白いゴシップが転がってないのは当然だろう?」
最近は楽しいゴシップがないわ、と嘆いたマリアを諭すように言いながら、ロイズが苦笑する。
焦げ茶のウェーブした髪に灰色の瞳は、目を惹く美しさはないけれど、清潔感があって好ましい。物腰が柔らかく、微笑みを湛えている姿も、好青年という雰囲気だ。
マリアの三歳上のロイズは、一足先に社交界デビューしていたこともあり、マリアより世間をよく知っている。
「それは、そうなのだけれど……。私の唯一の楽しみなのよ? ロイズは何か知らない?」
「そうだなぁ……。最近、マリアローズの新作のお菓子が評判とか?」
揶揄うような笑みを浮かべるロイズに、マリアは拗ねて唇を尖らせた。はしたないから、扇子で隠したけれど。
「それはゴシップじゃないわ。なにより、私が一番よく知っていることよ」
「君の店だからね。マリアは忙しいのに、よくこうも新しいアイディアを生み出せるね」
「……頑張っているのよ」
思わずギクリと身体が震える。実はその新作のお菓子というのが、マリアがゼロから生み出したアイディアでないというのは、おそらくこの世界でマリアしか知らない真実だろう。
マリアは前世の知識を生かして、幼い頃から様々な商売に手を出していた。もちろん、それには伯爵家としての財力と人脈、経験が使われているのは間違いない。マリア一人ではこうも上手くできなかっただろう。
それでも、この世界にはなかったアイディアを次々と提案するマリアは、父母から絶大な信頼を向けられていた。
「――その新作のお菓子、ロイズはもう食べた?」
「いや。我が婚約者殿が食べさせてくれるものだと思って、我慢していたんだ」
傍らのバスケットに手を伸ばしたマリアに、ロイズが瞳を輝かせて微笑む。マリアがロイズと会うときに、何かしらお菓子を持ち込むのはいつものことだ。
「ふふ、じゃあ一緒に食べましょう。マリアローズの新作のお菓子――生チョコレートよ」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
306
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる