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4.調査報告

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 ロイズとの公園デートから数日。
 新しい商品の開発をしていたマリアの元に、待ちに待った報告が届いた。

「お嬢様、ルリが参りました」
「入ってちょうだい」

 亜麻色の髪のメイドが楚々とした仕草で部屋に入ってくる。マリアよりよほど貴族令嬢らしい立ち振舞いをしているけれど、平民生まれの孤児だった女性だ。ただ、マリアが拾って教育を施したことで、素晴らしい才能を発揮してくれるようになった。
 その才能というのが、類い稀な調査能力。それ故に、マリアの指示で密偵のような仕事をしてもらっている。

「それで? 調査結果はどうだった?」

 書類を机に投げて、一人掛けのソファに座る。ルリに向かいの席を勧めると、慣れた様子で腰を下ろした。
 本来メイドが主人の前に座るなんてあり得ないことだけれど、マリア一人の前では許される。前世日本人の感覚があるマリアは、人に傅かれるというのに慣れなくて、我が儘だと分かっていても合わせてもらっているのだ。

「まず、ロナルド様とユアナ様ですが、お嬢様のご推察通りの方々で間違いないようです」

 ルリが穏やかに微笑んで報告する。公園でマリアが見聞きしたことの確認をしてもらっていたのだ。
 身を乗り出すマリアを慈しむような眼差しはいつものことである。ルリ含め、マリアが拾った人たちは、何故かマリアに高い忠誠心と愛情を抱くようなのだ。

「そう。それで、ピアというのはどちらの方だった?」
「ピア嬢はモスト男爵家のご息女でした。平民の妾との間に生まれ、あまり良い扱いはされていないようです」
「あら……まあ、貴族ではよくあることね」

 よくあるとは言っても、気分が良いものではないけれど。
 思わず眉を顰めるマリアに、ルリが頷く。マリアの言葉にしない思いも、ルリは全て察してくれるのだ。

「……モスト男爵家といえば……今、あまり経済状況が良くないんじゃなかったかしら?」
「はい。それ故、ピア嬢はロナルド様を拒否できないようですね」
「それは……男爵の策略ということね」

 ため息をつく。
 公園で見聞きした限りでも、ピア嬢はロナルドの計画にあまり気乗りしていないようだった。それなのに明確に拒否を示さなかったのは、相手が高位貴族だからというだけでなく、父親からの指示があったからだろう。
 男爵家の経済状況の回復のために、ピア嬢は利用されているのだ。いずれロナルドが実権を握る伯爵家に、男爵はお金を強請るつもりなのだろう。今現在も、侯爵家の財力をあてにしている可能性がある。

「――ピア嬢も可哀想な人なのね」
「そうですね。彼女自身は、男爵家と縁を切り、母方の祖父母と共に暮らしたいようですが。なかなか上手くいかないようです」
「貴族籍の放棄には煩雑な手続きがいるものねぇ。普通の貴族令嬢では、手を出しにくいのは理解できるわ」

 この世界の女性貴族は、あまり強い権利を持っていない。現在の王妃が少しずつ女性の地位向上を目指して活動しているけれど、その成果が実るには、まだまだ時間が必要そうなのだ。

「私が何かしてあげられるかしら……」

 不幸な少女がいるというのは、気分が良いことではない。マリアはゴシップを好んでいるけれど、女性が不幸になる姿を見たいわけではないのだ。

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