元男子高校生が貴族の令嬢に転生しましたが…どうやら生まれた性別を間違えたようです

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第0話<プロローグ>ーケイン視点ー

⑥:そして現在

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…とまあ、長い回想になってしまったけれども、そういった前世の記憶というものが、僕にはあった。
思い出したのは、5歳の頃。
おじいちゃんが馬車の事故で帰らぬ人となってから、お母さんと二人きりになり、

お母さんを僕が守らないといけない

そう決意した頃だったと思うんだけど、それにしては、あんまりな思い出だよね……(涙)

でもね、前世の僕だって大人だった訳じゃないけど、5歳児の僕より14歳の少年の方がマシだったから、それで良かったんだ。

そう思っていたんだけど…、お姉ちゃん以外の家族とか学校の友達、それにまつわる細かな思い出なんかは、もやがかかって思い出せていない。
その代わり…というか、記憶の大半が、そのBLのゲームのことで占められているのは、きっとこの世界がそのゲームの世界と微妙にリンクしていたからだろう。

全く同じ…かどうかは、まだわからないけど、やたらと同性愛にユルい世界観は、哀しいけれども同じかもしれない。

お母さんが、大人並みの精神と知能を持ちながらも、子供である僕を一人で家においておけなかった理由が、そこにあったのだから。

一人でこんなかわいいショタを留守番させていたら、速攻攫われて売り飛ばされて、ショタスキーな大人にひどい目にあわされることは疑いない…という、町中なのにどこもかしこも倫理観が欠如したホモびとどもが跋扈している無法地帯…。

その程度には、ショタに優しくない、荒んだ世界なのだ。
ちなみに、女の子よりも男の子の方が危険な目に逢いやすいとか、本当に腐った世界だと思わざるを得ない。

ましてや、僕は貴族の血を引いてしまっている…。
この世界において、貴族は特権階級だということ以外に、人さらいに逢いやすい条件が備わっていて…
僕はその意味でも本当に狙われやすい存在になってしまっており、お母さんたちは常に僕を守るために目を光らせていなくてはならなかった。 
本当に、苦労を掛けてしまって申し訳ないとしか思えない。



また、ケインという名前と、おじいちゃんやお母さんの容姿は、ゲームのプロローグで見たキャラクターと同じものだったので、お母さんが亡くなった今……そろそろアイツの使者がやって来るに違いないと思っていたんだけど…。

「うっ…うっ…おかあさぁん…」

早く逃げ出さないといけないのに…だからと言って、どこに逃げればいいのかわからない。
だって、この世界は本当に僕(男の子)に優しくないのだ。

このままここに残って実の父親の家に連れて行かれた場合、父にネグレクトされ、兄や使用人にいじめ倒されセクハラされながら、シンデレラのように王子様(比喩)に見初められるのを待つなんて嫌過ぎる。

かと言って、あの、クズい攻略対象者どもにも逢いたくない。

だからと言って、闇雲に飛び出して奴隷商人に捕まっておっさん相手の性奴隷とか、もっと嫌だぁぁぁっ!!
女の子…おっとり系の巨乳美女なんて贅沢言わないから、普通に女の子がいいよぉぉ……。

毎日毎日僕は、母を失ったショックに加えて、だからと言ってどうすればいいのかわからず、グズグズと現実逃避をしながら悲しみに暮れ、すっかり生きる気力を無くして、ベッドで丸まって日々を過ごした。
ベッドの中だけが、僕の思い通りになる世界だったから。

そんなある日のことだった。
早くお母さんが迎えに来ないかな…なんて、ぼんやりしていた時、立派な馬車が静かにうちの前に止まった音を、何の気なしに聞いていたが、栄養も水分も回っていないせいか、心も頭も何も動かなかった。

あれだけ嫌だ嫌だと思っていた父親の家からの使いだと、しばらくボーッとしてから遅れて気づき、無意識に体を抱きしめたが、それだけだった。

「すみません。玄関先で声をかけさせていただいたのですが、どなたも御出になられず…。
人の気配はありましたので、開いていた扉から失礼させていただきました。
私はクロイツェン侯爵家が執事の、アンダーソンと申します。
あなた様が、ケイン様でいらっしゃいますね? お休みのところ、失礼いたします」

立派な執事服を着た40歳位のおじさんは、痛ましいものを見るような目で僕を確認すると側に寄り、ベッドで寝転ぶ僕に視線を合わせるように跪いて挨拶を始めた。

ああ…、これ、オープニングの一幕だ。
ゲームのオープニングでは、主人公は普通に玄関先に出て跪かれていたけどね。

僕は、脱水だか栄養失調だか、考えがまとまらない頭でボゥっとしながら、無意識にニコリと愛想笑いを返した。
すると、アンダーソンさんはその笑顔を了承と理解して、ホッとしたように息をつき、

「ああ、やはり。父君にそっくりでいらっしゃる。
御母上さまにつきましては…お悔やみ申し上げます」

と、辛そうな表情で、悔やみの文句を口にした。そして、
 
「亡き御母上さまからお聞きになられましたでしょうか? 
私どもは、貴方のお父上さまである、クロイツェン侯爵さまよりのご命令で、貴方をお迎えに上がりました」

と、優しそうな柔らかい表情で、そっと僕の手をとる。

「ケイン様のお母上様は、残り幾ばくもないと知り、使者を通して侯爵様にケイン様の保護を訴えられました。
幼いケイン様お一人では、これから生きていくのも困難でございましょう。
しかし、幸いお父上様は栄えあるクロイツェン侯爵さまでいらっしゃいます。
これからの生活については、お父上さまの庇護のもと、ご家族とご一緒に過ごされることがよろしいかと存じます」

…物語でも、アンダーソンさんはそんなに悪い人ではなかった。
…完全に扱いはモブだったけど、少なくとも、主人公のいじめに関わるような立ち位置にはいなかった。

でも、こんなに優しそうな表情の人が、あの家にいただろうか?

僕は、彼の様子を観察しながら、確かに姿かたちは同じなのだが、記憶とは違った優しげな佇まいに違和感を感じていた。

でも彼は多分、本当に僕のことを、肉親を無くして一人ぼっちになった可哀想な子供だと思って同情してくれているんだと思う。

結局、僕は彼が迎えに来るまでの間に、逃げ出すことも世話になろうと心を決めることもできなかったけれど…この世界が、本当にあの世界と同じかどうか、確証を得られたわけでもない。

お父さんだっていう侯爵や、あの意地悪なお兄さん、無関心な侯爵夫人は、僕を迎え入れてくれるのかな?

そっと僕の手を握るアンダーソンさんを窺ってみたけれど、心配そうに見つめられていたものの、どうしたら正解なのかよくわからなくて、俯いてしまった。

ああ…とりあえず、お腹が空いて考えがまとまらない。
やっぱり、ご飯食べないと、こういう時に頭が働かないよね…

なんとなく何も言えなくて、僕は俯いたまま黙り込んでしまったのだったが…何を思ったのかアンダーソンさんは、そんな僕を掛け布ごと抱き上げた。

「…8歳という年齢の割に、随分軽く小さな体だ。 
あなたはご病気…というわけではなさそうですが…、最後にお食事を摂られたのは、いつですか?」

僕は、「覚えてない」と口を開こうとしたのだけど、それより早くお腹が

『ぐぅぅ…』

と、返事を返したので恥ずかしくなり、僕は真っ赤になってアンダーソンさんの肩に額をグリグリ押し当てた。

「では、まずは当家にて何かお召し上がり頂きましょう」

彼は笑いながらそう言うと、僕を馬車まで抱いて運んで行こうとした。
僕は、考えがまとまらないまま移動させられそうになって焦り、

「あ、あの……僕なんかがお屋敷に行っても、大丈夫なんでしょうか?」

と、思わず不安に思っていたことを口走る。

この先その家で何が起こるのか、前世の自分は知っていたけれども、実際に感じるアンダーソンさんの腕の中が暖かく、微笑みも優しそうに見えて、実は恐れていたことなんて、ただの妄想だったんじゃないだろうか…と、一瞬思ってしまったのだ。

「ええ、お姉上さまも、新しくできた弟君の到着を喜んでくださるでしょう」

抱き上げられた肩越しにそんな声が聞こえたけれども、急に抱き上げられて動かされた影響でめまいを起こしていた僕は、その時不覚にも、その大事な言葉を聞き逃していたのだった。





―――なので僕は今、大変戸惑っている。

「始めまして。私はミランダ=クロイツェン、貴方の姉になります。 
今まで一緒に暮らすことは出来なかったけれども、二人きりの姉弟ですもの、仲良くしましょうね」

そう言ってニコリと微笑んだ儚げな美少女は、僕のお姉さんらしい。
ゲームのミラージュと同じ年なら、4歳上の12歳のはずなんだけど………大人びた容姿なので、前世の僕と同じ14歳位に見える。

…あれ? お兄さんじゃないの? でも、ドレス着てるし、おっぱいついてる……あれれ?

父親であるクロイツェン侯爵の屋敷の広間で、見覚えのある美貌に見覚えのない女の子の姿…という不思議な感覚に囚われながら、ニコニコと微笑む姉の眩しい程の笑顔と、年齢の割にはやたら存在感を主張している胸にあてられて、

「は、はい……こちら…こそ……」

と、返す挨拶もそこそこに、真っ赤になって俯いた。
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