元男子高校生が貴族の令嬢に転生しましたが…どうやら生まれた性別を間違えたようです

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第6話ーミランダ視点ー

後 ☆

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「お母様方も、お二人で楽しそうにお話されてらっしゃるし、少し散策させていただこうかしら…?」

 あれから小一時間程経ち、王妃様から私への質問攻めが終わると、今度は母とのおしゃべりが始まってしまったので、お手洗いに行くとの名目であの場からしばらく待避させてもらうことにした。

 初めてやって来た王宮なので、少しその辺りを散歩して、手入れの行き届いた庭園を眺めたいと思っていたのだ。

 部屋を出た当初、そのような事情を説明すると、案内役の女官が付き添いで着いてきてくれていたのだが、何やら事件でも起きたのだろうか?
 優雅な所作の王宮女官たちにしては珍しく、バタバタと忙しない音をたてて呼びにきた他の女官に声を掛けられ、最初は「案内中だから…」と断っていたものの、次第にこちらを憚るようなヒソヒソ声で話し始めたので、私はコッソリその場から離れていった。

「何があったのかしらね…」

 私は呑気にそう呟きながら、美しいバラが満開に咲く庭園をゆったりと散策していた。……のだが。


「あン……こんなところで、やめてよぉ…人に見られちゃう……クスクス」(攻)

「ふふっ…いいだろ。誰も通らねえよ。おまえだってもうビンビンじゃねえか」(受)


 バラの生け垣に囲まれた東屋で、肌も露わな若い文官らしき二人の青年が、チュッチュアハハと性の交歓会でありました。

 おーーい、この王宮、腐ってませんかーーーーーー……?

 ……何ていうか、さっきから、物陰物陰にこういった輩共が潜んでいて……正直微妙。

 王宮に入った時点でも、仕事を熟しながらも時折妙に熱っぽく見つめ合う男たちとか、物陰からダンディな紳士を覗き見る、美少年侍従の後ろ姿があったりとか…。

 前世では完全にド・ストレートな性癖だったので、女子としか付き合ったことはないけども、BLな彼らを忌避していたわけでもなかった。
 現在も、女子として転生している事もあり、あまり関係ないと思っているためか、それ程の嫌悪感もないのだけれども……

 こう、頻回にそういう場面に遭遇してしまうと、この城の風紀を問いただしたい所である。

 仕事しなさいよ、あなた達……。うちでそんな使用人見つけたら、減給か謹慎ものよ。

 私はげんなりとしながら、職場恋愛に勤しむ彼らを邪魔しないよう、こっそり行く方向を変えて散策を続けて行く。 

 うちの屋敷は女主人が管理する純潔の百合の花が咲き誇ってるためか、まだマシだと思うんだけど……この世界、やっぱりどっかおかしいわよね?

 私は、薔薇の咲き誇る王宮の奥庭まで足を進めながら考えていた。……すると、

 


「やぁっ…やめろっ! その手を離せっ!」

 …なんて、どこかで聞いたことのある、ボーイソプラノが耳に入って、思わずそちらの方へ耳をすませた。


「ふふふ、シャルル様。貴方がいけないんですよ? 
 子供のくせに、私のような大人をからかって…ホントは私にこうされたかったんでしょう?」

 若い男の低い声…というよりも、その男が呼んだ名前が引っかかり、私はそ~っと静かに声のする方へ移動していった。

 ええ…シャルル? 何やら聞き捨てならないお名前が聞こえるわ。

 そう思いながら、私は二人の人影が見渡せるあたりの木陰に潜んで様子を見ると、庭園に立つ小屋の壁に、小さな人影が若い騎士の様な男性に押し付けられていた。

 男は背を向けているため背後から見ている私に気づかず、押さえつけた小さな子どもに狼藉を働いているように見えた。
 その肩越しに見える人影は、先程ちょこっとだけ声を聞いた(挨拶には至らない)シャルル王太子ではないか?
 
 王太子は、剣の訓練でもしていたのだろうか? 
 少し離れた所に小さな子供用の刃引きした剣が転がっているのが見えるから。

 そして、王太子も、先程の綺羅びやかな装いとはうって変わって、白いラフな薄手の開襟シャツに、騎乗服の様な足にピタリとしたクリーム色のパンツを黒の革ブーツに差し込んで装着している。

 私は何事かと驚いて、生け垣に隠れて二人のやり取りを見守っていた。すると、

「いやだ! やめろ! その手を離っ…んちゅっ……んーっんーーっ!!」

 騎士であるだけに、大きな体躯の男に壁ドンされた状態で、唇を奪われて藻掻いている王太子は、とても嫌がっている様に見えるが……体格差がありすぎて、ろくに抵抗できていないまま、口を真一文字に閉じたまま、いいようにされている。

「クふ…シャルル様、キスは初めてですか? 
 そんなに頑なになって暴れても、こんな所に人は来やしませんので、諦めてください」

 そう言いながら、男は器用に片手で王太子のシャツのボタンを外して胸元を開くと、その手をシャツの中に差し込んで、平たくて薄い胸を弄った。

「ひぃっ! やめろ、気持ち悪い! さわるな!!」

 王太子は火が着いたように叫びながら暴れるも、逞しい男の手によって両手首を一纏めにされ、押さえつけられているので、拘束から逃れられずに、されるがままに弄られている。

「ふふふ、夢にまで見たスベスベで白い肌、可愛い胸の飾り…ああ、たまらん…。 
 シャルル様、私の思いを受け取ってください」

 男は、恍惚としながら呟き、拘束した手はそのままに、自分のベルトをカチャカチャと外そうとしていたので、気づかれないよう忍び寄った私は、

「お前が受け取れ!!」

 と叫んで、男の後ろから思いっきり股間を蹴り上げた。

「ヒギィッ!!!」

 子供相手に臨戦状態だった股間を強打されたのだ。
 しかも、もちろん、蹴り足には身体強化を施して、攻撃力を上げてからの一撃。
 下手したら潰れたかもしれないけど、そんなのは自業自得である。

 そして、倒れ際に意識を刈るためのトドメの手刀を項にお見舞いすると、男は声もなく、股間を押えながら泡を吹いて其の場に崩れ落ちた。

 あーーー…元男の記憶があるから、ちょっときっつい気がするわーーー……

 そう思うが、ちびっ子に悪さする大人の存在を私は許さないので、むしろもっと追い打ちをかけるべきかと少し考えながら、自分の髪を結っている太めのリボンを外して、男の両手を後ろ手に拘束した。

 突然復活されても、丸腰でドレス姿の自分が王宮の騎士とタイマン張れるとは思えないので、一応の処置はさせていただく。

 そして、静かになってしまった王太子の方を窺うと、突然開放された彼は、押さえつけられていた形のまま、とんっと壁に持たれかけ、まだ状況に頭が追いついていないのか、涙を湛えた瞳で呆然とこちらを見上げていた。

「………おまえ……」

 ああ、一応、私の顔は覚えていたのね。

 そう思いながら、私は安心させるように微笑んだが、不意に近くに寄ろうとはしなかった。
 性的暴行を受けた被害者は、しばらくは人と接することを怖がることがあると聞いたことがあるからだ。前世の記憶で。

「大丈夫……ですか? どこか、痛いところは…ありますか?」

 手を伸ばせば触れられる程近くにはいるが、触れないように下から覗き込む様に声を掛けた。

「うっうっうっ………わぁーーっ…」

 すると王太子は、ぺたりとその場に座り込むと、最初は堪えるように嗚咽をもらしていたが、徐々に安心したのか大声でわーわーと泣き出したではないか。

 ああ……仕方ないわね。

「王太子殿下、すみません。触れますよ」

 そう言って一緒になって座り込み、私より2歳年下の小さな男の子の頭をそっと抱きしめて、ゆっくりとした動きで、艶があって指通りの良い金髪を撫でた。
 腕を伸ばした瞬間、彼はすこしビクッとしたが、そのまま頭を私の肩に預けると、その手を背中に回して抱き返してきた。

「大丈夫、大丈夫。 もう、怖いことはないですからね…」

 肩にしっとりとした湿りが広がるのを感じたが、構わず頭を撫でながら、ポンポンと背中を叩く。

 王太子は「ヒックヒック」と涙を啜りながら、いつまでも私の腕の中で泣いていた。




 そうして、どれ程の時間が経っただろうか……

 王太子の涙も治まりを見せ、ただただお互いに抱き合っているだけの状態になった時、彼はポツリと声を出した。

「あいつは、私の護衛騎士なんだ。 いつも優しくて、剣を教えてくれて、頼りにしているヤツだったのに……ひっ…っ」

 状況を説明してくれようとしたのだろうが、色々なことを思い出してしまって、再び涙が溢れて言葉にならないらしい。

 ちっちゃいのに、しっかりしてるけど、まだ8歳だものね。

 私は、そんな彼の頬に口づけ、ペロリと舐めて涙を啜った。……しょっぱい。

「っっ! ……何をする!?」

 涙の跡を舐められた瞬間、王太子は真っ赤になって、大きな金の瞳を見開いて私を凝視した。
 その驚いた顔が、年相応に可愛らしくて、思わず「うふふ」と笑いを溢す。

「はちみつ色の瞳から流れる涙だったら、甘いのかと思いまして。……しょっぱかったので残念ですわ」

 そう言って、がっかりしたように見つめると、

「…なっ…ぁっ……」

 と、言葉にならない声を漏らしながら、王太子の顔が一面真っ赤に変わったので、余計に可笑しくなった。

「あらあら、お顔が真っ赤っか。 このふくふくしたほっぺをりんごのように囓ったら甘酸っぱいのかしら?」

 なんてウブな反応が面白くて、言葉も紡げないほど驚いた顔に追い打ちをかけるよう、頬に唇を寄せると、抱きしめた腕は外さず、真っ赤になって目をギュッと閉じ、顔だけ背けて逃げようとする姿が可愛らしい。

 私はキュッとその腕に力を込めて細い体を引き寄せると、その形の良い鼻にチュッとキスをした。

「信頼する、大事な方でもあったのでしょう…。
 もっと落ち着いて、私などにでも話せるようになってから説明してくださればよろしいですわ」

 微笑みながらそう言うと、王太子はキスされた瞬間、再び顔を真っ赤にしてモゴモゴと何かを言いながら俯いてしまった。
 しかし私は、俯いて自ら私の口元近くになった耳元に唇を寄せ、訴えかけるように声をかける。

「ですけども、この男は王太子である貴方を害しようとした罪人であることを忘れてはなりません。どんなに大事だった方であろうとも、彼は貴方の信頼を裏切りました。……陛下に訴えた後、決して情に溺れて沙汰を下す事がないよう、望みますわ」

「……………」

 突然こんな厳しいことを言われて、驚いたのだろうか。
 肩にもたれかかったまま急に王太子の反応が無くなり、ただただ沈黙している。
 しかし、これは大事なことなのだ。
 この男は、我ら貴族が敬愛する王族を、私欲のために害した。
 守るべき対象である相手を、騎士でありながら陵辱しようとしたことは、決して許して良いことじゃない。
 あれだけ嫌がっていた相手に手心を加えるとも思えないが、こんなに悲しんでいるのは、それだけこの男を信頼していたからではないかと思う。
 しかし、情に引きずられて甘い判断をすることを許してもらってはダメなのだ。
 この子は、いずれ王になる。
 こんな事を初対面の少女が言うことではないが…その時の判断を、情のみではなく理性でもって下せる君主であって欲しいと思ったから。

 私は黙ってその背を撫でながら、反応を待った。

 王太子は、そっと顔を起こすと、私の耳元で「うん…」と、微かに呟いて……探しに来た侍従や女官が、私達を見つけるまで、ずっと私の背にしがみついたままだった。

 その後、近衛騎士に、未だ気絶する男の身柄を拘束させると、お互いの迎えと共に、「それじゃあさようなら」と、お別れしようとした時だった。

「おい、ミランダ」

 不意に名前を呼ばれ…「あら、ご存知でしたのね」なんて、軽く驚きながら振り向くと、突然ガッと頭を抱えられたかと思うと、ゴツっとぶつからんばかりの勢いで口付けられ……何故か周囲から小さな声で「おお~」と、歓声が上がった。

 え、これ…キス? 

 急に何をされたのか分からず、思わず呆然と相手を見つめてしまったのだが…

「い、いつまでもやられっぱないじゃないからな! 
 こ、子供扱いするな! 
 2歳しか違わないくせに!」

 なんて、真っ赤な顔して叫ばれても、悔しくも何ともない。
 むしろ、初々しくて可愛いとすら思う。
 だって、+17年だから、19歳は上なのだ。

 …ていうか、ただの衝突よね、こんなの。

 歯にぶつかった唇は、切れてはいないものの、少し痛い。

 私は顎に手を当てて、親指で唇をこすりながらニヤリと人の悪い笑みを浮かべ、一瞬で距離を詰めて王太子の首根っこを抱き寄せた。

「キスするつもりなら、コレくらいはやってほしいですわね」

 そう言って、グッと首の後に回した腕を引き寄せて、後頭部をガシッと掴んで逃げられないよう固定すると角度を変え、そっと優しく唇を合わせた。
 初めは啄むようにチュッチュと唇を触れ合わせて柔らかさを愉しみ、項をなで上げながら耳をくすぐると、薄く唇が開いてきた。

「っ…ぁッ……」

 微かに漏れ出る声と共に開いた隙間に差し込むようにそっと舌を侵入させ、徐々に開いてくる口腔から舌を吸い上げると、体がビクッと跳ねたのを感じる。
 そして、舌を絡めるようにこすり合わせて口蓋を撫でると、「ふぁあ…」と声を漏らしながら、ガクンと膝が崩れ落ち……
 危うい所を、若い侍従に抱きとめられた。

 私は、ピクピクと体を痙攣させながら、沸騰せんばかりに顔をゆでダコにして目を回す王太子の姿を「フフン」と鼻で笑いながら見ていたのだったが…

「…………………」

 気がつくと、周囲からちょっと遠巻きに見られているような気がする……。

 しまった……公衆の面前でやりすぎた……沈黙が痛い。

「ふぁあ……もっとしてぇ……」

 と、顔を真っ赤にしながらヘロヘロになっている王太子を横抱きにしている侍従の目が、「やだ、ケダモノ」と言っている気がするが、女官たちには妙に熱い視線で見つめられているのはどういうことだろう。

 気まずくなった私は、そそくさと母親の待つお部屋へ戻っていったのだった。






 そして2年後………



「ななな、なんで私に会いに来ないのだ! 王宮に来たら、必ず会いに来いと言っているではないか!」

 私は今、何故か頬を染めて、涙を溜めた大きな金色の瞳で恨めしそうに睨まれて、詰られている。

 予想通りに彼は絶世の美少年となり、今日も花のような美貌を真っ赤にして、可愛いお顔も台無しになるほど、頬を膨らませて怒っている。
 身長は私と同じくらいに成長したものの、まだまだ細くて華奢な体格なので、出会った頃と同じ様にドレスを着たら、絶世の美少女にもなれるだろう。

 あれから父や母が登城する度に連れて行かれ、毎回ではないが結構な頻度で王太子の相手をさせられている。

 母の時は王妃様から王太子へ通達が行くために、必ず王太子に見つかって連れて行かれるのであるが、父と登城する時は、父の仕事の補助的立場であることもあり、父の用が済んだらそのまま会わずに帰ることもあった。
 彼は、その事を責めているのだ。

 そう言われてもね……

 私は困り顔で微笑みながら軽く跪き、王太子の手を取って、その指先に口づけ、臣下の礼を行った。

「申し訳ございません、王太子殿下。 父の仕事に着いてきたものですから、そんなに時間をとることが叶わなかったのです」

 そう言うと、そんな私を上から見下ろしている王太子は顔を真っ赤にして口ごもり、何か言おうとパクパクした後、

「…………シャルルと呼べと言った」

 と言って、プイッと顔を逸らすのだが、私に触れている手はそのままで、少し汗ばんでいた。

 うーーん、こういうの、ツンデレって言うんだろうけど……最近ちょっとデレ過剰じゃない?

 私はそんな照れ屋な王太子の姿を微笑ましく思いながら見上げたものの、どうも何かが違っている様な気がしてならない。

 何が…というか、どこから間違えたのだろう。
 何故私は、こんなツンデレお姫様みたいな王太子に執着されているのだろうか?

 王宮からは、王太子妃候補筆頭として打診されていると父から言われたが、そのつもりはないからと断ってもらっている。

  ハッキリ言って、王太子妃とか全く興味がない…というか、極力なりたくない。
 私は王妃になるより侯爵となって、国政ではなく領政を行っていきたいのだ。

 この子が私のことを想っているなんて…誤解しようもないほどあからさまなので…嬉しいとは思う反面、ちょっと…いや、大分困ったことになったな…と、正直思った。
 しかも、周囲の目線というか、期待も熱すぎて…本当に不味いことになってしまっている。

 国王陛下や王妃陛下もノリノリで息子に協力しているので、段々包囲網が狭まってきているような……


 それでも、両親がまだ私の意志を尊重してくれているので、まだ何とか回避できてはいるのだが……



 ……なんとか諦めてくれないかしら…そう思いながら、途方に暮れた。
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