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第二章 月の国
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しおりを挟む「おはようございま~す」
快適な時間は終わった……。
腰が痛いだの手が痛いだの言いながら買い物を満喫したらしい陽菜は、次の日は出勤してきた。
ただし、もう昼。
「あたし、朝苦手だからぁ~。あ、お昼!ごはん食べに行こ~っと」
言ってる間に昼休み開始のチャイムが鳴り、陽菜はさっさと食堂へ行ってしまった。
なんかもう、すごい。
「はぁ……」
ため息も出るというもの。
だって、陽菜がいるだけでストレスがすごい。昼休みが終わってそんなに経っていないけれど、思わず給湯室に逃げてきてしまうくらい。
今日、陽菜が任されたのは不要な書類を破って箱に入れていく作業だった。シュレッダーなんてないものね。しかし、大人しくやっていたのは数分。「飽きたぁ」と言って「あたしもそっちやりたぁい」だなんて。
結慧がやっていたのはファイリングだ。書類を分類別に分け、決裁番号順に並べて綴じるだけ。……だけのはずなのに。
(なんっであんなにぐちゃぐちゃになるのよ!)
本当は渡したくなかった。だってぐちゃぐちゃにされるのが目に見えていたから。けれど、断ってもしつこく言ってくるし、ウィルフリードに目線で訴えたら頷かれるし。いくら他の人よりもウィルフリードがまともに接してくれるからといえ陽菜の我儘は絶対だから。
終わらせたかったのに。
終わらなかった分は明日に持ち越しか、それとも残業か。そもそも手伝いなんていう非正規雇用で残業してもいいのか。
それも確認して、ああ、終わらなかったことに嫌みを言われるんだろうな。憂鬱。
「あ、結慧さんこんなところにいたぁ」
「陽菜ちゃん、……どうしたの?」
「いっぱい働いたからちょっと休憩~」
睨んでしまいそうになるのをなんとか堪えて、微笑む……ことはやっぱり無理だった。
いっぱい働いた?あれで?
「あ!ねぇねぇ皆にお茶淹れてあげよ!」
陽菜は置いてある茶葉を指差して言う。しかし、そうは言っても。
「勝手に使っていいのか分からないでしょう?」
「皆が喜ぶことするんだもん、いいに決まってるよぉ。そのためにここに置いてあるんじゃないの?」
皆が喜ぶからといって、勝手に使っていいという事にはならないのだが。
「……そう。じゃあ淹れてあげたら?」
「えぇ?結慧さんやってよぉ」
「どうして?陽菜ちゃんが皆にお茶をあげたいのよね?」
「うん。でもあたし、やり方わかんないもん」
あ、無理キレそう。
「お茶どうぞ~」
「皆の分淹れてくれたのかな?さすが聖女様、ありがとう」
「えへへぇ、当然だよぉ」
淹れたのは私だけどね。
そんなことを結慧が言うはずもなく、また陽菜だって言う事はない。お茶をのせたお盆をもって運ぶ陽菜の後ろから部屋に入って、無言で席に着くだけ。
陽菜と職員さんたちの会話が耳に入ってくる。
「こんな事、聖女様がやることじゃないよ」
「そうかなぁ?」
「そうだよ、大変だっただろう?まったくあの女、聖女様にこんな雑用させておいて自分は何もしないなんて恥ずかしくないのかね」
「あたしがみんなにお茶飲んで欲しかったんだからぁ、結慧さんは何もしなくていいんだよぉ」
淹れたのは私だけどね!
なんならこの部屋の前まで持ってきたのも結慧。それを部屋に入る手前で「あたしが配るね~」と言って持ち去っていった陽菜。
まぁ、結慧が持っていったところで誰も口をつけやしないだろうからいいのだけど。
***
「すみません、ファイリングが終わらなくて。残業は可能ですか?」
夕方、部内会議で誰もいなくなった室内。ちなみに陽菜は早退。何をしに来たんだ。皆の机に放置されていた飲み終わったカップを片付けていたらウィルフリードだけが戻ってきた。何か資料でも取りに来たのだろう、ちょうどいいので呼び止める。
「いや、また明日やってくれればいいから帰って大丈夫だよ」
「はい、分かりました。今日中に終わらなくて申し訳ございません」
「うーん……君のせいじゃないと思うけどね」
「え?」
苦笑しながら溢したウィルフリードは、「やば、もう行かなきゃ」と急いでドアに手を掛ける。それから、ふと振り返って結慧の手元を指差す。
「それ、片付けてくれてありがとうね」
「え?あ、はい……?」
今度こそ扉が閉まった。
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