婚約解消を無かったことにしたい?しませんけど

だましだまし

文字の大きさ
8 / 12

ダンス講習

しおりを挟む
ダンス講習の日。
この日はドレスアップしての登校だ。

皆、実家から寮に家の使用人がやって来て着付けられてからの登校なのでどこかソワソワとした特別な空気が学園全体に流れている。

パートナーがいない者たちは直接講堂へ、決まっている女子生徒たちは教室でエスコートの相手を待っている。


アネリアは落ち着いた紺色のドレスに大きなアメジストのブローチを付け、銀の髪飾りとシンプルなネックレスを身につけていた。

「落ち着いた色とは言っていたが…合わせたようになったね」
迎えに来たハリスはアネリアのドレスを一目見て驚いた。
いや、アネリアも驚いていた。

ハリスの格好も紺色を基調とした格好だったのだ。
アネリアの髪色によく似た濃い金糸の刺繍が入ったジャケットには海のような青いブローチが輝いている。

「この格好にお互いの瞳の色のブローチ…誤解されてしまいそうですね」

友人としてのパートナーでここまで合わさっていることはあまりない。
そしてまた、付けているブローチの色が正に瞳の色そのものだった。

「青いブローチはコレしか無いんだが…思ったより君の色だな」

「私は…すみません、余り考えずに選んでしまいました…。ハリス様の色過ぎましたね」

近頃グッと距離が縮まっていただけに何だか意識してしまう。
意識してない相手だからと選ばれたのにこれではいけない。

「驚きはしたがドレス、とても似合っている。美しいね」

これはいけない。

「ハリス様こそいつもに増して魅力的です」

自分に意識しないようにと言い聞かせつつ、なるべく意識しないように返す。
返したのに。

「ありがとう…嬉しいよ」

そんな風に照れたようにされたらこっちまで…!


まるで初々しいカップルのように移動し、ダンス講習の受講場である講堂へと移動した。



授業はまず、パートナーがいる者たちのダンスで始まる。
その間にパートナーのいない者は声をかけあい相手を見付けたり、曲の終盤になると先生たちに組み合わせを決められたりする。
そうして決まっていた者たちと決まっていなかった者たちが入れ替わり、最後は全員で踊るのだ。

特に三曲目の全員で踊るのは難しい。
なんせ人数が多くなるので狭い。
人とぶつからないように、それでも美しく踊る。

将来、夜会やパーティーに招かれたときに困らないようにある練習の時間なのだ。


ハリスを意識するあまり、前日にリドーがおかしな事を言っていたのをアネリアはすっかり忘れていた。

それを思い出したのは三曲目の後、飲み物が振る舞われ休憩を兼ねた歓談の時間だった。

小一時間の休憩の後、もう一度先ほどのペアで先ほどと一曲目と二曲目を踊る順番を変えて踊る。

なので休憩中もあまり自分のパートナーとは離れないのだがリドーは現れた。

「昨日『大丈夫』って言ったのにしっかりパートナーと参加なんてひどいじゃないか。教室に迎えに行ったのに」

開口一番こんなことを言ってくる。

「えっと…どういうことでしょう?」

アネリアには訳が分からない。

「別れ話をなかったことにするって言ったら『大丈夫』って答えたじゃないか」

よーく考えて思い返して…理解した。

「あれは『無かったことにする必要はない』という意味の大丈夫、です…」

こんな変な捉え方をする人では無かったのにと頭にハテナが浮かんでいるとグイッと目の前でリドーが引っ張られた。

「コナル様!なんでレミアを一人にするんですか!」

怒っているのはラミアだった。

「大体婚約破棄が無かったことになったかもしれないから交際出来ないかもしれないってどういうことです?!ダンス講習の日にいう事ですか!?」

ラミアとしては声を抑えていたのだが周りの者たちがチラチラと様子を見ている。

その様子にハリスはピンときた。
リドーのそばに行き小声で話す。

「コナル殿、さてはアネリア嬢との仲を戻したことにすることで付き合いたてのレシャット伯爵令嬢を捨てるつもりなのではないよね?」

その声は低くとも穏やかな調子だったが無表情の圧にリドーは冷や汗をかいた。

「いや…ほら、万が一があるから…それに『大丈夫』って…アネリアが…」

ついついアネリアに助け船を求めてしまう。

「コナル様、私たちの婚約は終わっているので名前で呼ばないでください」

これがアネリアからの答えである。

「コナル様!レミアを運命と言ったのは嘘だったのですか!?大体サーモリア様はレーモンド様とお付き合いされているのでは!?」

ラミアの声に周りの視線は好奇なものとなり、ヒソヒソと話す者が出てきた。

「そそそそそそんなことはない!確認!安心したかったから!それだけ!じゃあ…アネ…サーモリア嬢!」


見るからに冷や汗を垂らしながら去って行くリドー。

「なんだったの…?」
「解決した…のか?」

二人して唖然と、ポカンとリドーとラミアの背中を見送っていると思わぬ声がかかった。

「で、お二人はお付き合いされているの?」

声の方を振り向くとフュリーがクスクスと笑いながら立っていた。

「周りの皆様、気になってるみたいだから聞いちゃいました」

ニコニコと笑顔のフュリーの横には少々武骨なフュリーの想い人…いや、今は恋人のナドリックがいる。


「ハリス、どうなんだ?勇気の出し時だぞ」

ナドリックがハリスに話しかけている間にフュリーがヒソヒソと教えてくれたのは二人が仲の良い友達だったということだった。


そうなんだ、と改めて二人を見るとハリスが跪いている。

「アネリア嬢!」

強張った声だ。

「はい…」

(期待してしまう。期待して…しまうほど私はハリス様に惹かれている)

アネリアの心臓はうるさいほど高鳴り、ハリスはその期待に答える言葉を紡いだ。

「ダンス講習のパートナーを申し込んだときは思いもしなかったが今は君が気になって仕方ない。どうか交際をして欲しい」

ストレートな告白である。
だが何より心に響いた。

差し出された手にそっと手を重ねて返事をすると周りの人達が静かに拍手で祝福をしてくれる。

嫉妬の視線もそれなりにはあった。
それでもとても幸せだったのは、誰もが分かるほどにハリスが真っ赤になって、それでも紡いでくれた言葉だったから。

「レーモンド様って感情あったんだ」
「彫像が赤く染まった」
「レーモンド様って照れるんだ」

言いたい放題な声も一部あれどアネリアの周りは穏やかな祝福に包まれた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

婚約破棄?結構ですわ。公爵令嬢は今日も優雅に生きております

鍛高譚
恋愛
婚約破棄された直後、階段から転げ落ちて前世の記憶が蘇った公爵令嬢レイラ・フォン・アーデルハイド。 彼女の前世は、ブラック企業で心身をすり減らして働いていたOLだった。――けれど、今は違う! 「復讐? 見返す? そんな面倒くさいこと、やってられませんわ」 「婚約破棄? そんなの大したことじゃありません。むしろ、自由になって最高ですわ!」 貴族の婚姻は家同士の結びつき――つまりビジネス。恋愛感情など二の次なのだから、破談になったところで何のダメージもなし。 それよりも、レイラにはやりたいことがたくさんある。ぶどう園の品種改良、ワインの販路拡大、新商品の開発、そして優雅なティータイム! そう、彼女はただ「貴族令嬢としての特権をフル活用して、人生を楽しむ」ことを決めたのだ。 ところが、彼女の自由気ままな行動が、なぜか周囲をざわつかせていく。 婚約破棄した王太子はなぜか複雑な顔をし、貴族たちは彼女の事業に注目し始める。 そして、彼女が手がけた最高級ワインはプレミア化し、ついには王室から直々に取引の申し出が……!? 「はぁ……復讐しないのに、勝手に“ざまぁ”になってしまいましたわ」 復讐も愛憎劇も不要! ただひたすらに自分の幸せを追求するだけの公爵令嬢が、気づけば最強の貴族になっていた!? 優雅で自由気ままな貴族ライフ、ここに開幕!

ジルの身の丈

ひづき
恋愛
ジルは貴族の屋敷で働く下女だ。 身の程、相応、身の丈といった言葉を常に考えている真面目なジル。 ある日同僚が旦那様と不倫して、奥様が突然死。 同僚が後妻に収まった途端、突然解雇され、ジルは途方に暮れた。 そこに現れたのは亡くなった奥様の弟君で─── ※悩んだ末取り敢えず恋愛カテゴリに入れましたが、恋愛色は薄めです。

『婚約破棄された公爵令嬢は、王と交わらない道を選ぶ』

ふわふわ
恋愛
婚約者である王太子アルベルトから、一方的に婚約破棄を告げられた公爵令嬢エレノア。 だが彼女は、涙も復讐も選ばなかった。 「婚約は、役目でしたもの。終わったのなら、それで結構ですわ」 王宮を去ったエレノアは、領地に戻り、 干渉しない・依存しない・無理をしない ただそれだけを軸に、静かに領地運営を始める。 一方、王となったアルベルトもまた、 彼女に頼らないことを選び、 「一人の判断に依存しない国」を作るための統治に身を投じていた。 復縁もしない。 恋にすがらない。 それでも、二人の選択は確かに国を安定へと導いていく。 これは、 交わらないことを選んだ二人が、 それぞれの場所で“続けられる世界”を完成させる物語。 派手なざまぁも、甘い溺愛もない。 けれど、静かに積み重なる判断と選択が、 やがて「誰にも壊せない秩序」へと変わっていく――。 婚約破棄から始まる、 大人のための静かなざまぁ恋愛ファンタジー

ゲーム世界といえど、現実は厳しい

饕餮
恋愛
結婚間近に病を得て、その病気で亡くなった主人公。 家族が嘆くだろうなあ……と心配しながらも、好きだった人とも結ばれることもなく、この世を去った。 そして転生した先は、友人に勧められてはまったとあるゲーム。いわゆる〝乙女ゲーム〟の世界観を持つところだった。 ゲームの名前は憶えていないが、登場人物や世界観を覚えていたのが運の尽き。 主人公は悪役令嬢ポジションだったのだ。 「あら……?名前は悪役令嬢ですけれど、いろいろと違いますわね……」 ふとした拍子と高熱に魘されて見た夢で思い出した、自分の前世。それと当時に思い出した、乙女ゲームの内容。 だが、その内容は現実とはかなりゲームとかけ離れていて……。 悪役令嬢の名前を持つ主人公が悪役にならず、山も谷もオチもなく、幸せに暮らす話。

侯爵令嬢の置き土産

ひろたひかる
恋愛
侯爵令嬢マリエは婚約者であるドナルドから婚約を解消すると告げられた。マリエは動揺しつつも了承し、「私は忘れません」と言い置いて去っていった。***婚約破棄ネタですが、悪役令嬢とか転生、乙女ゲーとかの要素は皆無です。***今のところ本編を一話、別視点で一話の二話の投稿を予定しています。さくっと終わります。 「小説家になろう」でも同一の内容で投稿しております。

あなたを忘れる魔法があれば

美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。 ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。 私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――? これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような?? R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

死んで初めて分かったこと

ルーシャオ
恋愛
ヴィリジアの王女ロザリアは、大国アルデラ王国のエアル王子の婚約者として王城で暮らしていたが、エアル王子には罵倒され遠ざけられ続け、次第に周辺の人々も近づかなくなっていた。 しかし、エアル王子が故郷ヴィリジアを滅ぼしたことをきっかけに、ロザリアは何もかもを諦める。「殿下。あなた様との婚約は、破棄いたします」、そう宣言して、ロザリアは——。

攻略対象の王子様は放置されました

蛇娥リコ
恋愛
……前回と違う。 お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。 今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。 小説家になろうにも投稿してます。

処理中です...