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ダンス講習
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ダンス講習の日。
この日はドレスアップしての登校だ。
皆、実家から寮に家の使用人がやって来て着付けられてからの登校なのでどこかソワソワとした特別な空気が学園全体に流れている。
パートナーがいない者たちは直接講堂へ、決まっている女子生徒たちは教室でエスコートの相手を待っている。
アネリアは落ち着いた紺色のドレスに大きなアメジストのブローチを付け、銀の髪飾りとシンプルなネックレスを身につけていた。
「落ち着いた色とは言っていたが…合わせたようになったね」
迎えに来たハリスはアネリアのドレスを一目見て驚いた。
いや、アネリアも驚いていた。
ハリスの格好も紺色を基調とした格好だったのだ。
アネリアの髪色によく似た濃い金糸の刺繍が入ったジャケットには海のような青いブローチが輝いている。
「この格好にお互いの瞳の色のブローチ…誤解されてしまいそうですね」
友人としてのパートナーでここまで合わさっていることはあまりない。
そしてまた、付けているブローチの色が正に瞳の色そのものだった。
「青いブローチはコレしか無いんだが…思ったより君の色だな」
「私は…すみません、余り考えずに選んでしまいました…。ハリス様の色過ぎましたね」
近頃グッと距離が縮まっていただけに何だか意識してしまう。
意識してない相手だからと選ばれたのにこれではいけない。
「驚きはしたがドレス、とても似合っている。美しいね」
これはいけない。
「ハリス様こそいつもに増して魅力的です」
自分に意識しないようにと言い聞かせつつ、なるべく意識しないように返す。
返したのに。
「ありがとう…嬉しいよ」
そんな風に照れたようにされたらこっちまで…!
まるで初々しいカップルのように移動し、ダンス講習の受講場である講堂へと移動した。
授業はまず、パートナーがいる者たちのダンスで始まる。
その間にパートナーのいない者は声をかけあい相手を見付けたり、曲の終盤になると先生たちに組み合わせを決められたりする。
そうして決まっていた者たちと決まっていなかった者たちが入れ替わり、最後は全員で踊るのだ。
特に三曲目の全員で踊るのは難しい。
なんせ人数が多くなるので狭い。
人とぶつからないように、それでも美しく踊る。
将来、夜会やパーティーに招かれたときに困らないようにある練習の時間なのだ。
ハリスを意識するあまり、前日にリドーがおかしな事を言っていたのをアネリアはすっかり忘れていた。
それを思い出したのは三曲目の後、飲み物が振る舞われ休憩を兼ねた歓談の時間だった。
小一時間の休憩の後、もう一度先ほどのペアで先ほどと一曲目と二曲目を踊る順番を変えて踊る。
なので休憩中もあまり自分のパートナーとは離れないのだがリドーは現れた。
「昨日『大丈夫』って言ったのにしっかりパートナーと参加なんてひどいじゃないか。教室に迎えに行ったのに」
開口一番こんなことを言ってくる。
「えっと…どういうことでしょう?」
アネリアには訳が分からない。
「別れ話をなかったことにするって言ったら『大丈夫』って答えたじゃないか」
よーく考えて思い返して…理解した。
「あれは『無かったことにする必要はない』という意味の大丈夫、です…」
こんな変な捉え方をする人では無かったのにと頭にハテナが浮かんでいるとグイッと目の前でリドーが引っ張られた。
「コナル様!なんでレミアを一人にするんですか!」
怒っているのはラミアだった。
「大体婚約破棄が無かったことになったかもしれないから交際出来ないかもしれないってどういうことです?!ダンス講習の日にいう事ですか!?」
ラミアとしては声を抑えていたのだが周りの者たちがチラチラと様子を見ている。
その様子にハリスはピンときた。
リドーのそばに行き小声で話す。
「コナル殿、さてはアネリア嬢との仲を戻したことにすることで付き合いたてのレシャット伯爵令嬢を捨てるつもりなのではないよね?」
その声は低くとも穏やかな調子だったが無表情の圧にリドーは冷や汗をかいた。
「いや…ほら、万が一があるから…それに『大丈夫』って…アネリアが…」
ついついアネリアに助け船を求めてしまう。
「コナル様、私たちの婚約は終わっているので名前で呼ばないでください」
これがアネリアからの答えである。
「コナル様!レミアを運命と言ったのは嘘だったのですか!?大体サーモリア様はレーモンド様とお付き合いされているのでは!?」
ラミアの声に周りの視線は好奇なものとなり、ヒソヒソと話す者が出てきた。
「そそそそそそんなことはない!確認!安心したかったから!それだけ!じゃあ…アネ…サーモリア嬢!」
見るからに冷や汗を垂らしながら去って行くリドー。
「なんだったの…?」
「解決した…のか?」
二人して唖然と、ポカンとリドーとラミアの背中を見送っていると思わぬ声がかかった。
「で、お二人はお付き合いされているの?」
声の方を振り向くとフュリーがクスクスと笑いながら立っていた。
「周りの皆様、気になってるみたいだから聞いちゃいました」
ニコニコと笑顔のフュリーの横には少々武骨なフュリーの想い人…いや、今は恋人のナドリックがいる。
「ハリス、どうなんだ?勇気の出し時だぞ」
ナドリックがハリスに話しかけている間にフュリーがヒソヒソと教えてくれたのは二人が仲の良い友達だったということだった。
そうなんだ、と改めて二人を見るとハリスが跪いている。
「アネリア嬢!」
強張った声だ。
「はい…」
(期待してしまう。期待して…しまうほど私はハリス様に惹かれている)
アネリアの心臓はうるさいほど高鳴り、ハリスはその期待に答える言葉を紡いだ。
「ダンス講習のパートナーを申し込んだときは思いもしなかったが今は君が気になって仕方ない。どうか交際をして欲しい」
ストレートな告白である。
だが何より心に響いた。
差し出された手にそっと手を重ねて返事をすると周りの人達が静かに拍手で祝福をしてくれる。
嫉妬の視線もそれなりにはあった。
それでもとても幸せだったのは、誰もが分かるほどにハリスが真っ赤になって、それでも紡いでくれた言葉だったから。
「レーモンド様って感情あったんだ」
「彫像が赤く染まった」
「レーモンド様って照れるんだ」
言いたい放題な声も一部あれどアネリアの周りは穏やかな祝福に包まれた。
この日はドレスアップしての登校だ。
皆、実家から寮に家の使用人がやって来て着付けられてからの登校なのでどこかソワソワとした特別な空気が学園全体に流れている。
パートナーがいない者たちは直接講堂へ、決まっている女子生徒たちは教室でエスコートの相手を待っている。
アネリアは落ち着いた紺色のドレスに大きなアメジストのブローチを付け、銀の髪飾りとシンプルなネックレスを身につけていた。
「落ち着いた色とは言っていたが…合わせたようになったね」
迎えに来たハリスはアネリアのドレスを一目見て驚いた。
いや、アネリアも驚いていた。
ハリスの格好も紺色を基調とした格好だったのだ。
アネリアの髪色によく似た濃い金糸の刺繍が入ったジャケットには海のような青いブローチが輝いている。
「この格好にお互いの瞳の色のブローチ…誤解されてしまいそうですね」
友人としてのパートナーでここまで合わさっていることはあまりない。
そしてまた、付けているブローチの色が正に瞳の色そのものだった。
「青いブローチはコレしか無いんだが…思ったより君の色だな」
「私は…すみません、余り考えずに選んでしまいました…。ハリス様の色過ぎましたね」
近頃グッと距離が縮まっていただけに何だか意識してしまう。
意識してない相手だからと選ばれたのにこれではいけない。
「驚きはしたがドレス、とても似合っている。美しいね」
これはいけない。
「ハリス様こそいつもに増して魅力的です」
自分に意識しないようにと言い聞かせつつ、なるべく意識しないように返す。
返したのに。
「ありがとう…嬉しいよ」
そんな風に照れたようにされたらこっちまで…!
まるで初々しいカップルのように移動し、ダンス講習の受講場である講堂へと移動した。
授業はまず、パートナーがいる者たちのダンスで始まる。
その間にパートナーのいない者は声をかけあい相手を見付けたり、曲の終盤になると先生たちに組み合わせを決められたりする。
そうして決まっていた者たちと決まっていなかった者たちが入れ替わり、最後は全員で踊るのだ。
特に三曲目の全員で踊るのは難しい。
なんせ人数が多くなるので狭い。
人とぶつからないように、それでも美しく踊る。
将来、夜会やパーティーに招かれたときに困らないようにある練習の時間なのだ。
ハリスを意識するあまり、前日にリドーがおかしな事を言っていたのをアネリアはすっかり忘れていた。
それを思い出したのは三曲目の後、飲み物が振る舞われ休憩を兼ねた歓談の時間だった。
小一時間の休憩の後、もう一度先ほどのペアで先ほどと一曲目と二曲目を踊る順番を変えて踊る。
なので休憩中もあまり自分のパートナーとは離れないのだがリドーは現れた。
「昨日『大丈夫』って言ったのにしっかりパートナーと参加なんてひどいじゃないか。教室に迎えに行ったのに」
開口一番こんなことを言ってくる。
「えっと…どういうことでしょう?」
アネリアには訳が分からない。
「別れ話をなかったことにするって言ったら『大丈夫』って答えたじゃないか」
よーく考えて思い返して…理解した。
「あれは『無かったことにする必要はない』という意味の大丈夫、です…」
こんな変な捉え方をする人では無かったのにと頭にハテナが浮かんでいるとグイッと目の前でリドーが引っ張られた。
「コナル様!なんでレミアを一人にするんですか!」
怒っているのはラミアだった。
「大体婚約破棄が無かったことになったかもしれないから交際出来ないかもしれないってどういうことです?!ダンス講習の日にいう事ですか!?」
ラミアとしては声を抑えていたのだが周りの者たちがチラチラと様子を見ている。
その様子にハリスはピンときた。
リドーのそばに行き小声で話す。
「コナル殿、さてはアネリア嬢との仲を戻したことにすることで付き合いたてのレシャット伯爵令嬢を捨てるつもりなのではないよね?」
その声は低くとも穏やかな調子だったが無表情の圧にリドーは冷や汗をかいた。
「いや…ほら、万が一があるから…それに『大丈夫』って…アネリアが…」
ついついアネリアに助け船を求めてしまう。
「コナル様、私たちの婚約は終わっているので名前で呼ばないでください」
これがアネリアからの答えである。
「コナル様!レミアを運命と言ったのは嘘だったのですか!?大体サーモリア様はレーモンド様とお付き合いされているのでは!?」
ラミアの声に周りの視線は好奇なものとなり、ヒソヒソと話す者が出てきた。
「そそそそそそんなことはない!確認!安心したかったから!それだけ!じゃあ…アネ…サーモリア嬢!」
見るからに冷や汗を垂らしながら去って行くリドー。
「なんだったの…?」
「解決した…のか?」
二人して唖然と、ポカンとリドーとラミアの背中を見送っていると思わぬ声がかかった。
「で、お二人はお付き合いされているの?」
声の方を振り向くとフュリーがクスクスと笑いながら立っていた。
「周りの皆様、気になってるみたいだから聞いちゃいました」
ニコニコと笑顔のフュリーの横には少々武骨なフュリーの想い人…いや、今は恋人のナドリックがいる。
「ハリス、どうなんだ?勇気の出し時だぞ」
ナドリックがハリスに話しかけている間にフュリーがヒソヒソと教えてくれたのは二人が仲の良い友達だったということだった。
そうなんだ、と改めて二人を見るとハリスが跪いている。
「アネリア嬢!」
強張った声だ。
「はい…」
(期待してしまう。期待して…しまうほど私はハリス様に惹かれている)
アネリアの心臓はうるさいほど高鳴り、ハリスはその期待に答える言葉を紡いだ。
「ダンス講習のパートナーを申し込んだときは思いもしなかったが今は君が気になって仕方ない。どうか交際をして欲しい」
ストレートな告白である。
だが何より心に響いた。
差し出された手にそっと手を重ねて返事をすると周りの人達が静かに拍手で祝福をしてくれる。
嫉妬の視線もそれなりにはあった。
それでもとても幸せだったのは、誰もが分かるほどにハリスが真っ赤になって、それでも紡いでくれた言葉だったから。
「レーモンド様って感情あったんだ」
「彫像が赤く染まった」
「レーモンド様って照れるんだ」
言いたい放題な声も一部あれどアネリアの周りは穏やかな祝福に包まれた。
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