勇者様の荷物持ち〜こんなモテ期、望んでない!〜

綺沙きさき(きさきさき)

文字の大きさ
51 / 266
第1章 異世界でも俺はこき使われる

50

しおりを挟む
「これは早く逃げないとね。チェルノ、おんぶしようか?」
「お前は逃げるなここで死ね」
「……ソウシは俺が抱いて逃げる」
「お前ケガしてるだろうが!」

やいのやいの騒いでいるうちに壁にも大きなヒビが入り始めた。
これは一刻も早く逃げなければならない。
けれど……。

「ちょ、ちょっと待った!」

俺はチェルノの腕を掴んで呼び止めた。

「え~、なになに~、どうしたの~?」
「大事なことを思い出した! チェルノ、頼む! 空間の歪みを探して俺を元の世界に帰してくれ!」

俺としたことがうっかりしていた。
そもそもこんなメチャクチャなメンバーについてまでこの旅を続けたのは、魔獄島に元の世界へ帰れる空間の歪みがあるからだった。

この島がなくなる前に早く帰らないと!

「えっと、みなさん、今までありがとうございました! 本当にお世話になりました! 別れを惜しむ時間が惜しいのでさっさと歪みを探してパッと帰ろう! お元気で! さようなら! はい! 解散!」

早口で一応の今までのお礼と別れの言葉を告げた。
なのにみんなポカンとしている。

ああっ、もう時間がないのに!

すると、突然ドゥーガルドが俺を抱き抱えた。

「え? え? えぇぇぇぇ!? な、なにしてんだよ! ドゥーガルド! おろせ! 帰れないだろうが!」
「……いやだ。絶対に帰さない」

そう言うとドゥーガルドはズンズンと出口に向かって歩き始めた。
しかし、途中で突然ガクン、と膝をついた。

「……っ」

どうやら魔王との戦いでの傷が痛むようだ。
ドゥーガルドには悪いが、俺にとってはチャンスだった。
俺がドゥーガルドの腕から逃れようとしていると、

「ケガしてるんだから無理すんなよ、剣士様」

アーロンがしゃがみ込んで、鼻で笑いながらドゥーガルドの顔をのぞき込んだ。

「……っ、黙れ」

ドゥーガルドは苛立たしげにアーロンを睨んだ。

「だから無理すんなよ。……こいつを帰したくないのはお前一人じゃないんだから」

そう言うと、アーロンはようやくドゥーガルドの腕から抜け出た俺を、ひょい、といとも簡単に、肩に担いだ。

「ア、アーロン!?」
「静かにしろ、うるせぇな。おい、さっさと引き上げるぞ」
「……すまない、アーロン。恩に着る。謝礼金は帰ったら渡す」
「いらねぇよ。もらったらこいつがお前のみたいでなんか……癪だ」
「……それならば是が非でも送りつけよう」

犬猿の仲だった二人が嘘のように笑い合っている。
友情がここに生まれたようで実に微笑ましい光景ではあるけれど……、

「俺を降ろせー!」

アーロンの背中をドンドンと叩く。
しかしビクともしない。
それどころか尻をむにむにと揉まれて力が抜けてしまった。

「うひゃぅ!」
「やっぱりいいケツだな。今夜はたっぷり可愛がってやるからな」
「うああああああ! 絶対帰る! 家に帰るぅぅぅぅ! チェルノ! 今だ! 今こそ後ろを狙え! 暗殺技術を披露するんだ! それで俺をさっさと元の世界に帰してくれぇぇ!」

チェルノに助けを求めるが、アーロンの後ろをトタトタとついてくるチェルノは首を傾げた。

「え~、別に暗殺技術を披露するのはいいけど、でも今は一緒に逃げた方が得策だと思うよ~」
「なんで!? 今の状況のどこを見てそう思えるの!?」

さっきの戦いでもしかしてチェルノは目をやられたのか!?

「だって普通に考えて、空間の歪みを探し出して魔法陣描いてってやってたらこの島沈んじゃうよ~?」
「うっ……」

確かに、チェルノの言う通りだ。
島の崩壊は恐ろしいほど早く進んでいる。
悠長に空間の歪みを探している時間がないのは明らかだ。
でも……、

「いやだぁぁぁぁ! 帰るぅぅぅぅ!」

俺の悲しい咆哮は崩れていく城に虚しく響くだけだった。
しおりを挟む
感想 119

あなたにおすすめの小説

一人の騎士に群がる飢えた(性的)エルフ達

ミクリ21
BL
エルフ達が一人の騎士に群がってえちえちする話。

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた

やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。 俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。 独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。 好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け ムーンライトノベルズにも掲載しています。 挿絵をchat gptに作成してもらいました(*'▽'*)

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?

米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。 ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。 隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。 「愛してるよ、私のユリタン」 そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。 “最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。 成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。 怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか? ……え、違う?

【完結】異世界から来た鬼っ子を育てたら、ガッチリ男前に育って食べられた(性的に)

てんつぶ
BL
ある日、僕の住んでいるユノスの森に子供が一人で泣いていた。 言葉の通じないこのちいさな子と始まった共同生活。力の弱い僕を助けてくれる優しい子供はどんどん大きく育ち――― 大柄な鬼っ子(男前)×育ての親(平凡) 20201216 ランキング1位&応援ありがとうごございました!

義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。ユリウスに一目で恋に落ちたマリナは彼の幸せを願い、ゲームとは全く違う行動をとることにした。するとマリナが思っていたのとは違う展開になってしまった。

処理中です...