勇者様の荷物持ち〜こんなモテ期、望んでない!〜

綺沙きさき(きさきさき)

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第3章 異世界で溺愛剣士の婚約者!?

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「い、いや、でも、制服はどうするんだよ? 一般人を紛れ込ませるために制服を貸してくれる奴なんていないだろ?」

 冷静さを欠いた狂った閃きの綻びを指摘する。
 表面は完璧な美少女のアーシャが可愛くおねだりすれば、理由を聞かず貸してくれる男もいるかもしれないが、帰還式はもう始まるのだ。貸してくれる奇特な人間を探す時間はない。

 よし、これで危ない橋は渡らずにすみそうだ……。

 胸の内でほっと息を吐く。

 だが、

「ふふっ、ソウちゃんったらなに言ってるの? 制服ならいくらでも貸してあげるわよ」
「……へ?」

 嫌な予感しか与えない不適な笑みでもって意味深な言葉を言い置いて、アーシャは部屋を出て行った。
 この世界に来て、嫌な予感の的中率が格段に上がった自覚はある。アーシャがこちらに寄越した嫌な予感が、彼女が戻ってきたと同時に現実となるのは目に見えている。
 逃げ出そうと思ったが、アーシャの不興を買うのは恐ろしい。しかし今、逃げなければ……──。
 そんな風にぐるぐると小さな頭の中で同じことを繰り返し考えている間に、アーシャが部屋に戻ってきた。
 その手には、アーシャが着ているものと同じ服、つまり白銀の翼の女性用の制服があった……。




 かくして、嫌な予感は現実となり、しかも俺にそれを拒否する権利は当然なかった。

「大丈夫だって。誰一人として全然違和感すら覚えてないんだから、自信持って」
「いや、これほどに自信喪失することってないよ!?」

 男としての自信はもうズタボロだ。いくら体がひょろくてもそれは女の子の華奢さとはまた別物だ。
 きっと誰かが不審に思い「おい、そこのお前、止まれ」と行手を阻んでくれるものだと信じていたのだが、この城の人間は視力が絶望的に悪いのか、それとも明らかな不正にも声を上げられない事なかれ主義者の集まりなのか、誰一人としてこの妙ちくりんな女装に対して指摘を入れる者はいなかった。

 断じて俺の男らしさが女物の服一つで包み隠せるほど小さく存在感がないものだということではない。断じてだ!

「ソウちゃん、そんなに自分を卑下しないで。確かに美少女とかではないけど、メガネっ娘好きとかマニアックな男からしたら堪んないと思うよ」

 変装のためにかけられた大きな丸メガネの縁をちょんと指先でつつきながら、アーシャが見当違いな慰めを寄越す。
 正直なところ、これ以上、男からの気持ち悪い好意は勘弁願いたい……。

「それにしてもお祖父様の形見のメガネがまさか役立つとは思ってもなかったわ」
「大事な形見をこんな使い方してやるなよ……」

 なんて罰当たりな形見の使い方だ。可愛い孫娘に自分の遺品をこんな風に使われるなんておじいさんも複雑な気持ちでこの状況を見ているに違いない。

「というか、タイツって暑いな。蒸れる」

 すぐにでも脱ぎたいところだが、こんなに人が集まる中で脱げば当然注目の的になってしまうし、隠してきた男らしい俺の脚も露わになってしまう。そうなれば女装して白銀の翼に紛れ込む不審者として引っ捕らえられることは請け合いだ。
 もうここまできたら、腹を括って女装を貫き通すしかない。
 というか、それしか道はなかった……。
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