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第3章 異世界で溺愛剣士の婚約者!?

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 一難去ってまた一難というが、どうして俺には難しか訪れないのだろうか。

 しかも俺の場合は一難どころか五難くらいで、その上向こうからは去ってくれないのでこっちが逃げるように立ち去らないといけないという理不尽さ。
 この言葉を作った人間に、一難くらいで不幸面するなと言ってやりたいくらいだ。

 ……という現実逃避的な八つ当たりはここまでにして、直面した問題についてそろそろ考えなければならない。

「……もしかして道、間違えた?」

 廊下に並ぶ絵画をひとつずつ確認していた俺だが、足を止めて呟いた。
 アーシャが最後に言った通りに、廊下の突き当たりを左に曲がり、それから次の目印である真っ赤な花の絵を探して進んでいるのだが、一向にそんな絵は見当たらない。
 確かに廊下には等間隔にいかにも高そうな絵画が飾っているのだが、真っ赤な花どころか花の絵さえまだ目にしていない。

 もしかして花じゃなくて鼻とか? とも思ったが、好き好んで真っ赤な鼻の絵を描く画家もいないだろうし、それを買う物好きな人間もいないだろう。
 いたとしても王都の城にそんな珍妙な絵を飾るわけもない。
 ということで、再び真っ赤な花を探して廊下を進む。

 えっと、確か真っ赤な花の絵の向かいの角を右に行って三番目の部屋、だったよな? いや、二番目だっけ?

 もともと物覚えが悪い頭の上に、早口で一度しか言ってもらえなかったのだ。
 はっきり言って記憶に自信がない。頭の中でアーシャの言葉を繰り返し反芻するほどに言葉の輪郭が曖昧になっていく。

 もしかして廊下の突き当たりを右だっただろうか、と不安になって歩いてきた道を振り返るがもちろん誰も教えてくれない。というか誰もいない。
 まぁ、いたところでこの女装姿で人に話しかけるのはなかなか勇気のいることだが……。

 自分の姿を見下ろして、思わず深い溜め息が漏れる。
 女装姿で迷子、しかもin異世界。
 溜め息が出ないはずがない。
 どこで道を間違えただろうと考えれば、この世界に来た時に荷物持ちとしてアーロンたちについて行ってしまった時点まで遡ってしまう。
 いや、そもそもこの異世界に来たのは慶介の召喚に巻き込まれてのことだから、まず慶介と出会ったところから間違いなのだろう。
 途方もなく昔の間違いを悔やんだところで事態は変わらないし、意味もない。
 それを思えば、道の間違いなど些細なことに思えた。
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