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第3章 異世界で溺愛剣士の婚約者!?
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「ふふふ、喜べ。アトリエに入れるのはダイナ以外でお前が初めてだ」
「わ、わぁ~、それは光栄です……」
相手が喜ぶと信じて疑わないその言い方に、俺は偽りの感謝を述べるより他なかった。
まさか王子のプライベートな場所にお呼ばれされるとは……。
俺がこの世界で出世を狙う野心家だったら諸手を挙げて大喜びだっただろうが、あいにく俺にはそんな野心はない。
元の世界に戻るまでただただ平穏無事でいたいだけの一般人だ。
なんでそんな細やかな願いさえ叶わないのか……。
これまでのアーロンやドゥーガルド、クロとのことも思い出して俺は深く苦い溜め息を漏らした。
「そ、それにしてもダイナしか入れたことがないって本当にお二人は仲良しなんですね」
これ以上絵のことを触れて無用に好感度が上がるのも、お世辞がバレるのも厄介なので俺はさりげなく話題を変えた。
すると、さすがは愛しい猫様の話題、エグバードは笑みをさらに深めた。
「ふふふ、そうだ、私とダイナは仲がいいのだ。いつも私の傍にダイナはいてくれる」
得意げにうちのお猫様が可愛い自慢を始めたエグバード。
その表情は、大人びた顔立ちを崩して年相応の無邪気さに溢れていた。
なので「いや、今そばにいませんけど……」という反射的に浮かび上がってきたツッコミは当然飲み込んだ。
「あはは、お互い離れがたい存在なんですね」
「そうだ。まさにその通りだ。そういえばアトリエで絵を描いているときもそうだな。キャンバスの前に座っている私の膝の上で丸くなって絵が出来上がるのを待ってくれるのだ。最初は少し描きづらかったが、今では膝の上に何もないと本調子が出ないくらいだ」
まるで今もそこにダイナがいるかのように愛おしげな瞳で、膝の上に視線を落とす。
その優しく子どもらしい表情に微笑ましい気持ちになる。
相当ダイナのことが好きなんだな。これは俺の勝手で休んでる場合じゃねぇな。早く見つけてやらねぇと。
自分の保身ばかり考えていた己の身勝手さを反省して、ダイナの捜索再開を口にしようとした時、ぽたり、とダイナの残像が丸まっている膝の上に滴がひとつ落ちた。
もちろんこの快晴で雨はあり得ない。
落ちてきた水滴の上へと視線を辿ると、涙を目に浮かべて、ぎゅっと唇を噛むエグバードの顔があった。
「え? えぇぇ!? な、なんで泣いてるんですか!?」
さっきまであんなに笑顔だったのに……! 十二歳ってこんなに情緒不安定だっけ!?
「うっ、うぐ……ッ、泣いてなど、おらん……っ」
涙を腕で拭って俺の言葉を否定するエグバードだが、その目から零れる涙は勢いを増すばかりで止まる気配が全くない。
「え、えっと……」
なんと言葉を掛けていいものやら……。
恐らくどんな気の利いた言葉を掛けても、この涙を止めることは俺にはできない。
それにしても何かが決壊したような泣き方だ。
エグバードの言動から次期国王としての自負と自覚が強いのは明らかだ。だからこそずっと泣くのを我慢していたのかもしれない。
相手の身分の高さにビクビクしていた俺だが、この時ばかりは泣いている子どもを前にした時に感じる〝どうにかしてあげないと〟という気持ちでいっぱいになった。
今までよっぽど泣くのを我慢してたんだろうな……。
ここは泣き止ませるより涙を出し尽くすくらい泣いてしまった方がよさそうだ。
だが、きっと俺がいてはきっと次期国王としてのプライドがそれを許さないだろう。
ならどうすればいいか?
簡単だ、泣いていい理由を作るまでだ。
「……エグバード様」
「なっ、なんだッ、泣いてなんかないぞ! ふ、ぅぐ……っ」
「いえ、エグバード様は泣いています」
「なっ、泣いてないと言っ……――」
「涙の匂いでダイナを引きつけるために泣いてるんですよね?」
「え……」
俺の言葉に、エグバードは涙で濡れた瞳を丸くした。
俺は安心させるように笑い掛けた。
「わ、わぁ~、それは光栄です……」
相手が喜ぶと信じて疑わないその言い方に、俺は偽りの感謝を述べるより他なかった。
まさか王子のプライベートな場所にお呼ばれされるとは……。
俺がこの世界で出世を狙う野心家だったら諸手を挙げて大喜びだっただろうが、あいにく俺にはそんな野心はない。
元の世界に戻るまでただただ平穏無事でいたいだけの一般人だ。
なんでそんな細やかな願いさえ叶わないのか……。
これまでのアーロンやドゥーガルド、クロとのことも思い出して俺は深く苦い溜め息を漏らした。
「そ、それにしてもダイナしか入れたことがないって本当にお二人は仲良しなんですね」
これ以上絵のことを触れて無用に好感度が上がるのも、お世辞がバレるのも厄介なので俺はさりげなく話題を変えた。
すると、さすがは愛しい猫様の話題、エグバードは笑みをさらに深めた。
「ふふふ、そうだ、私とダイナは仲がいいのだ。いつも私の傍にダイナはいてくれる」
得意げにうちのお猫様が可愛い自慢を始めたエグバード。
その表情は、大人びた顔立ちを崩して年相応の無邪気さに溢れていた。
なので「いや、今そばにいませんけど……」という反射的に浮かび上がってきたツッコミは当然飲み込んだ。
「あはは、お互い離れがたい存在なんですね」
「そうだ。まさにその通りだ。そういえばアトリエで絵を描いているときもそうだな。キャンバスの前に座っている私の膝の上で丸くなって絵が出来上がるのを待ってくれるのだ。最初は少し描きづらかったが、今では膝の上に何もないと本調子が出ないくらいだ」
まるで今もそこにダイナがいるかのように愛おしげな瞳で、膝の上に視線を落とす。
その優しく子どもらしい表情に微笑ましい気持ちになる。
相当ダイナのことが好きなんだな。これは俺の勝手で休んでる場合じゃねぇな。早く見つけてやらねぇと。
自分の保身ばかり考えていた己の身勝手さを反省して、ダイナの捜索再開を口にしようとした時、ぽたり、とダイナの残像が丸まっている膝の上に滴がひとつ落ちた。
もちろんこの快晴で雨はあり得ない。
落ちてきた水滴の上へと視線を辿ると、涙を目に浮かべて、ぎゅっと唇を噛むエグバードの顔があった。
「え? えぇぇ!? な、なんで泣いてるんですか!?」
さっきまであんなに笑顔だったのに……! 十二歳ってこんなに情緒不安定だっけ!?
「うっ、うぐ……ッ、泣いてなど、おらん……っ」
涙を腕で拭って俺の言葉を否定するエグバードだが、その目から零れる涙は勢いを増すばかりで止まる気配が全くない。
「え、えっと……」
なんと言葉を掛けていいものやら……。
恐らくどんな気の利いた言葉を掛けても、この涙を止めることは俺にはできない。
それにしても何かが決壊したような泣き方だ。
エグバードの言動から次期国王としての自負と自覚が強いのは明らかだ。だからこそずっと泣くのを我慢していたのかもしれない。
相手の身分の高さにビクビクしていた俺だが、この時ばかりは泣いている子どもを前にした時に感じる〝どうにかしてあげないと〟という気持ちでいっぱいになった。
今までよっぽど泣くのを我慢してたんだろうな……。
ここは泣き止ませるより涙を出し尽くすくらい泣いてしまった方がよさそうだ。
だが、きっと俺がいてはきっと次期国王としてのプライドがそれを許さないだろう。
ならどうすればいいか?
簡単だ、泣いていい理由を作るまでだ。
「……エグバード様」
「なっ、なんだッ、泣いてなんかないぞ! ふ、ぅぐ……っ」
「いえ、エグバード様は泣いています」
「なっ、泣いてないと言っ……――」
「涙の匂いでダイナを引きつけるために泣いてるんですよね?」
「え……」
俺の言葉に、エグバードは涙で濡れた瞳を丸くした。
俺は安心させるように笑い掛けた。
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