愛のない結婚を後悔しても遅い 離縁を望まれたスパダリ令嬢、溺愛の限りを尽くしたら孤独な公爵令息に懐かれすぎています

空橋彩

文字の大きさ
44 / 47
王家の秘密

84.シリル視点

しおりを挟む
いつも読んでいただき、ありがとうございます。本日、二話目の更新です。読む順番をお間違えないようお気をつけ下さい。












「よくぞ、戒心した。シリル!あのままだったら一度軍に入隊させて鍛え直してやろうと思っていたところだったのだぞ。」

地を這うような低い声が、部屋に響いた。濃いオレンジ色のたてがみのような髪型に、僕の倍はありそうなほど太くたくましい腕に、太もも。
背丈も高く、彼は座っているのにすぐ後ろで立ってお茶を淹れている、小柄なメイドが隠れてしまっている。

ライオネル・ブライトン辺境伯

一見すると寡黙で獰猛なライオンのように見えるが、どうやらそうではないみたいだ。メイドがお茶と一緒に出した、先ほど作らせてもらった手作りのチョコレートケーキをみて目を輝かせた。

「なんだこの美しい食べ物は。家にあったかな?」

「あの…キッチンを見せていただいた時に、僕が作りました。お口に合うかわかりませんが、召し上がってください。」

「お前が?!」

これだけ逞しく、男らしい人だ。もしかしたら、男のくせにと怒られるかもしれない。そう思ってほんの少し身構える。

「なんと素晴らしい才能だ。なめらかに輝くチョコレート。とても美味しそうだ。喜んでいただこう。」

そういうと、コクリとうなずいて大切そうにケーキのお皿を持った。

シーラだ。強面のライオンのような大男なのに、発言や挙動がシーラにそっくりだった。いや、逆だ、この人にシーラがそっくりなのだ。

プロポーズをやり直してから、きちんと挨拶をしたいと思っていたがこんなかたちで彼に会えるとは思っていなかったので、すごく緊張している。

「さて、シリル。我が娘はいかがかな?」

ケーキを頬張りながら、辺境伯が僕に尋ねた。可愛く装飾されたケーキを持っているはずなのに、口にはチョコレートまでついているのに、辺境伯の迫力ある視線に思わず緊張した。

「はい、大好きです!!」

もっと、ちゃんとした答えを用意していたのに、緊張から咄嗟にそう答えてしまった。恥ずかしさで顔に熱が集まったのがわかった。
僕の素っ頓狂な答えを聞いた辺境伯は、「がははは!」と豪快に笑った。

「そうだろう。あの子は素晴らしい娘だ。」

「シーラは、すごく優しくて強くて、あたたかい。」

「あの子は誰よりも強い。だけど、世間知らずだ。」

意外な言葉を発した辺境伯が、寂しそうな顔をして僕を見つめる。そして、窓の外に視線を移し、「はぁ」とため息をついた。

「あの子がいくつから戦場に出ていると思う?」

「えっと…せめて10歳の頃でしょうか?」

「ははは、まぁ、そう思うだろう。あれはあの子が6歳の頃だ…


***


「おい!誰か!この負傷兵を下がらせろ!」

ここ最近、辺境で盗賊が頻繁に出ていた。一人一人は大したことはないが、数が多く、戦い慣れない新兵たちはよく負傷してしまっていた。
この時の兵士は、足を矢で射られて動かなくなっていた。俺がここを離れるとこの兵士がやられてしまう。早く誰か…
と周りを見渡してみると、皆、数の多い盗賊に苦戦していた。

「しかたない、担ぐぞ!」

怪我をした兵士にそう声をかけて、持ち上げようとした時だった。

「ちちうえ!わたしが!」

この、殺伐とした戦いの場にそぐわない、可愛らしい声がした。
それは、6歳になったばかりの長女、シーラだった。

椅子に大きな車輪がついたような乗り物を押して、ランドルフと共にやってきたようだ。

「ランドルフとシーラ!?こんなところに来てはならん!」

「だいじょうぶです!兄上はわたしがまもります!」

そう言って、負傷した兵士が落とした剣を拾い構えた。
ランドルフが椅子の乗物に負傷兵を乗せる間、飛んでくる矢を剣で切り落としてみせた。

「シーラ!いいぞ!退散だ」

「はい!兄上!」

二人はそう言うと急いで退避していった。




「それがシーラとランドルフの初陣だった。俺は幼い二人が、そうやって戦いに少しずつ出てくるのを止めなかった。」

「6歳で、戦えるんですか?」

「普通は無理だろう。だが、シーラは天才だった。教えた武器はすぐに使えるようになったし、力も強い。」

「幼い頃の、シーラ…」

「あぁ、我が子ながら可愛い子だった。輝く金の髪、ハチミツのようなとろけそうな瞳。笑うと頬にえくぼができた。」

頭の中で小さなシーラを想像して胸がギュッと熱くなった。可愛い。

「それから、数年後にはあの子は戦いの中に身を置いた。常に私の後ろに控えて、共に戦ってくれた。」

辺境伯が、優しく笑った。その顔はシーラにそっくりだった。

「シーラのことが、大切なんですね。」

「あぁ、その才能に目を付けた王家に欲しいと言われたが、許さなかった。やれ護衛だ、婚約者だと打診してきたが、俺から宝を奪うなんて許さん、といって蹴散らしてやった。」

「そ、そうですか。あの…」

なんだか雲行きが怪しくなってきた。辺境伯も目が据わっているような気がする。僕が怯え出したのを見て、辺境伯は少し満足そうに笑った。

「シリルも、蹴散らそうと思っていたのだがな。」

僕は、辺境伯と辺境伯夫人の前でとんでもない態度を取った。シーラには謝ってやり直したけど、二人にはまだ謝っていない。

「辺境伯!あの…」

僕は、あの時の無礼を謝ろうとソファから立ち上がる。
しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつもりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します

冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」 結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。 私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。 そうして毎回同じように言われてきた。 逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。 だから今回は。

白い結婚はそちらが言い出したことですわ

来住野つかさ
恋愛
サリーは怒っていた。今日は幼馴染で喧嘩ばかりのスコットとの結婚式だったが、あろうことかパーティでスコットの友人たちが「白い結婚にするって言ってたよな?」「奥さんのこと色気ないとかさ」と騒ぎながら話している。スコットがその気なら喧嘩買うわよ! 白い結婚上等よ! 許せん! これから舌戦だ!!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。