愛のない結婚を後悔しても遅い 離縁を望まれたスパダリ令嬢、溺愛の限りを尽くしたら孤独な公爵令息に懐かれすぎています

空橋彩

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王家の秘密

84.シリル視点

いつも読んでいただき、ありがとうございます。本日、二話目の更新です。読む順番をお間違えないようお気をつけ下さい。












「よくぞ、戒心した。シリル!あのままだったら一度軍に入隊させて鍛え直してやろうと思っていたところだったのだぞ。」

地を這うような低い声が、部屋に響いた。濃いオレンジ色のたてがみのような髪型に、僕の倍はありそうなほど太くたくましい腕に、太もも。
背丈も高く、彼は座っているのにすぐ後ろで立ってお茶を淹れている、小柄なメイドが隠れてしまっている。

ライオネル・ブライトン辺境伯

一見すると寡黙で獰猛なライオンのように見えるが、どうやらそうではないみたいだ。メイドがお茶と一緒に出した、先ほど作らせてもらった手作りのチョコレートケーキをみて目を輝かせた。

「なんだこの美しい食べ物は。家にあったかな?」

「あの…キッチンを見せていただいた時に、僕が作りました。お口に合うかわかりませんが、召し上がってください。」

「お前が?!」

これだけ逞しく、男らしい人だ。もしかしたら、男のくせにと怒られるかもしれない。そう思ってほんの少し身構える。

「なんと素晴らしい才能だ。なめらかに輝くチョコレート。とても美味しそうだ。喜んでいただこう。」

そういうと、コクリとうなずいて大切そうにケーキのお皿を持った。

シーラだ。強面のライオンのような大男なのに、発言や挙動がシーラにそっくりだった。いや、逆だ、この人にシーラがそっくりなのだ。

プロポーズをやり直してから、きちんと挨拶をしたいと思っていたがこんなかたちで彼に会えるとは思っていなかったので、すごく緊張している。

「さて、シリル。我が娘はいかがかな?」

ケーキを頬張りながら、辺境伯が僕に尋ねた。可愛く装飾されたケーキを持っているはずなのに、口にはチョコレートまでついているのに、辺境伯の迫力ある視線に思わず緊張した。

「はい、大好きです!!」

もっと、ちゃんとした答えを用意していたのに、緊張から咄嗟にそう答えてしまった。恥ずかしさで顔に熱が集まったのがわかった。
僕の素っ頓狂な答えを聞いた辺境伯は、「がははは!」と豪快に笑った。

「そうだろう。あの子は素晴らしい娘だ。」

「シーラは、すごく優しくて強くて、あたたかい。」

「あの子は誰よりも強い。だけど、世間知らずだ。」

意外な言葉を発した辺境伯が、寂しそうな顔をして僕を見つめる。そして、窓の外に視線を移し、「はぁ」とため息をついた。

「あの子がいくつから戦場に出ていると思う?」

「えっと…せめて10歳の頃でしょうか?」

「ははは、まぁ、そう思うだろう。あれはあの子が6歳の頃だ…


***


「おい!誰か!この負傷兵を下がらせろ!」

ここ最近、辺境で盗賊が頻繁に出ていた。一人一人は大したことはないが、数が多く、戦い慣れない新兵たちはよく負傷してしまっていた。
この時の兵士は、足を矢で射られて動かなくなっていた。俺がここを離れるとこの兵士がやられてしまう。早く誰か…
と周りを見渡してみると、皆、数の多い盗賊に苦戦していた。

「しかたない、担ぐぞ!」

怪我をした兵士にそう声をかけて、持ち上げようとした時だった。

「ちちうえ!わたしが!」

この、殺伐とした戦いの場にそぐわない、可愛らしい声がした。
それは、6歳になったばかりの長女、シーラだった。

椅子に大きな車輪がついたような乗り物を押して、ランドルフと共にやってきたようだ。

「ランドルフとシーラ!?こんなところに来てはならん!」

「だいじょうぶです!兄上はわたしがまもります!」

そう言って、負傷した兵士が落とした剣を拾い構えた。
ランドルフが椅子の乗物に負傷兵を乗せる間、飛んでくる矢を剣で切り落としてみせた。

「シーラ!いいぞ!退散だ」

「はい!兄上!」

二人はそう言うと急いで退避していった。




「それがシーラとランドルフの初陣だった。俺は幼い二人が、そうやって戦いに少しずつ出てくるのを止めなかった。」

「6歳で、戦えるんですか?」

「普通は無理だろう。だが、シーラは天才だった。教えた武器はすぐに使えるようになったし、力も強い。」

「幼い頃の、シーラ…」

「あぁ、我が子ながら可愛い子だった。輝く金の髪、ハチミツのようなとろけそうな瞳。笑うと頬にえくぼができた。」

頭の中で小さなシーラを想像して胸がギュッと熱くなった。可愛い。

「それから、数年後にはあの子は戦いの中に身を置いた。常に私の後ろに控えて、共に戦ってくれた。」

辺境伯が、優しく笑った。その顔はシーラにそっくりだった。

「シーラのことが、大切なんですね。」

「あぁ、その才能に目を付けた王家に欲しいと言われたが、許さなかった。やれ護衛だ、婚約者だと打診してきたが、俺から宝を奪うなんて許さん、といって蹴散らしてやった。」

「そ、そうですか。あの…」

なんだか雲行きが怪しくなってきた。辺境伯も目が据わっているような気がする。僕が怯え出したのを見て、辺境伯は少し満足そうに笑った。

「シリルも、蹴散らそうと思っていたのだがな。」

僕は、辺境伯と辺境伯夫人の前でとんでもない態度を取った。シーラには謝ってやり直したけど、二人にはまだ謝っていない。

「辺境伯!あの…」

僕は、あの時の無礼を謝ろうとソファから立ち上がる。
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