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王家の秘密
84.シリル視点
「いいんだ。わかってる。ちゃんと、シーラから聞いている。サラ…妻のサラに、お前をいじめないように言われた。シーラがお前を大切に思っているからと。」
辺境伯は、すごく穏やかに笑った。この部屋に入ってきた時もシーラの到着を心待ちにしていた様子だった。辺境伯はシーラのことをすごく大切に思っているのだろう。
「でも…僕はシーラにあんな失礼なことをしました、あなたにも、本当に申し訳なかった。」
僕は、深々と頭を下げた。
「お前もまだまだ成長途中だったのだろう。立派になったじゃないか。」
そう言ったと思うと、少し腰を上げて大きな手で僕の頭をポンポンと撫でた。多分、長く武器を扱っているからだろう、ところどころ手のひらの皮膚が厚くなって硬くなっている。
シーラが何故あんなに懐が深いのか、なぜあんなに人を見捨てないのか分かった。
辺境伯は、ライオネル・ブライトンは本物の英雄なんだ。力が強いだけではない。戦いのセンスがあるだけではない。人を許し、導く力があるんだ。
シーラは、そんな英雄の背中をずっと、追いかけているんだ。辺境伯の温かさに、少し目に涙が滲んだ。
「実は、お前には感謝しているんだ。シーラの相手がシリルで良かった」
辺境伯の言葉に僕の胸は高鳴った。本当は、シーラに僕は相応しくないのではないか、辺境伯には認められないのではないかとずっと心配していたからだ。
「あの子は、国を守れるなら自分が死ぬことをなんとも思っていなかった。他人を守れるなら、自分が傷ついても平気で戦いの中に飛び込んでいった。俺は、あの子を失う日がいつか必ず来ると、恐れていた」
「辺境伯も、そうだったんですか」
「大切な娘だ。本当は綺麗なドレスを着て、可愛いものに囲まれて安全で暖かいところにいてほしい。だが、言えなかった。俺たちにはこの国を守る使命がある。家族の安全を優先してほしいなんて言えない」
きっと、ずっとシーラを失いたくないと心で叫んでいたんだろう。辺境伯の言葉に悲しみが滲んでいる。僕はその言葉を聞いただけで涙が溢れた。
「俺の心の声をお前がシーラに言ってくれた。あの子は、これから戦いに行っても『帰らねば』と生にしがみつくようになる。死を恐れるようになる。シリルのおかげだ、シリルがあの子に出会ってくれてよかった。これからも、あの子を大切にしてほしい」
そう言って、辺境伯は深々と頭を下げた。
「娘を幸せにしてやってくれ。どうか、娘をよろしくお願いします」
「もちろんです!!必ず、シーラを幸せにします、結婚することをお許しくださりありがとうございます!!
僕は慌てて立ち上がり、頭を下げた。辺境伯があまりにも深々と頭を下げるので、僕も負けじと頭を下げたら、机に頭突きをしそうだった。
「それにしても、シリルは菓子を作るのがうまいな」
先ほどまであった大きめにカットされたチョコレートケーキは跡形もなく消えていた。
クリームの痕跡すらもない。こんなに綺麗に食べてもらえると、作った側としては嬉しい。
「ありがとうございます。あれは簡単にできるものだったので、今度はもっと手をかけたものを召し上がってもらいたいです」
「まだうまくなるのか。すごいな、我が息子は」
我が息子。辺境伯にそう言われてなんだか胸がジーンと熱くなった。
「そうだ、シリルにいいものをあげよう。おい、あれを持ってきてくれるか?」
辺境伯がメイドに合図を送ると、すぐにカップとポットを持ってやってきて、僕の前にそっと置いた。
「これはな、帝国で流行しているらしいのだ。そのカップに温かいミルクを注いでみろ」
僕は辺境伯の言う通りにポットに入っているミルクを注いだ。すると、妖精の形をしたチョコレートがプカリと浮かんできた。
少しずつ溶けていくと、キラキラとした靄が広がった。
「すごく、かわ……えっと、素敵ですね!!」
あまりの可愛さに見とれて目が離せなかった。それに『可愛い』と素直に言ってしまうところだった。男のくせに可愛いものを喜ぶなんてと言われ続けた僕はつい、その言葉を避けてしまった。
「ははは!!可愛いだろう?」
「!!」
辺境伯が「可愛い」と言った。そして、満面の笑みで僕の返事を待っている。
「はい!可愛いです!!」
「我が娘たちはな、あまり可愛いものに興味を示さんのだ。シリルはこういう可愛いものが好きだと聞いた。君なら、瞳を輝かせて喜んでくれるんじゃないかと思ってな」
「そうです、好きです。すごく」
「よかった。では、また可愛いものを見つけたらシリルに土産で買ってこよう。なに、お礼は手作りの菓子でいいぞ」
「がはははは!」と辺境伯は笑った。彼の言葉が僕にとってどれほど嬉しいものだったのか、きっと彼は知らない。
「ランドルフとシーラが喜ぶものは武器だ、妻とスイやセイに至っては情報だ。俺はな、町に出て珍しいものや可愛いものを探すのが好きなんだ。見つけた時にワクワクするだろう? 今度一緒に行くか?」
「いきます。僕も、行きます」
僕は嬉し涙が止まらなかった。ボロボロと溢れてくる涙を抑えきれず、それを見た辺境伯が叫ぶことになる。
辺境伯は、すごく穏やかに笑った。この部屋に入ってきた時もシーラの到着を心待ちにしていた様子だった。辺境伯はシーラのことをすごく大切に思っているのだろう。
「でも…僕はシーラにあんな失礼なことをしました、あなたにも、本当に申し訳なかった。」
僕は、深々と頭を下げた。
「お前もまだまだ成長途中だったのだろう。立派になったじゃないか。」
そう言ったと思うと、少し腰を上げて大きな手で僕の頭をポンポンと撫でた。多分、長く武器を扱っているからだろう、ところどころ手のひらの皮膚が厚くなって硬くなっている。
シーラが何故あんなに懐が深いのか、なぜあんなに人を見捨てないのか分かった。
辺境伯は、ライオネル・ブライトンは本物の英雄なんだ。力が強いだけではない。戦いのセンスがあるだけではない。人を許し、導く力があるんだ。
シーラは、そんな英雄の背中をずっと、追いかけているんだ。辺境伯の温かさに、少し目に涙が滲んだ。
「実は、お前には感謝しているんだ。シーラの相手がシリルで良かった」
辺境伯の言葉に僕の胸は高鳴った。本当は、シーラに僕は相応しくないのではないか、辺境伯には認められないのではないかとずっと心配していたからだ。
「あの子は、国を守れるなら自分が死ぬことをなんとも思っていなかった。他人を守れるなら、自分が傷ついても平気で戦いの中に飛び込んでいった。俺は、あの子を失う日がいつか必ず来ると、恐れていた」
「辺境伯も、そうだったんですか」
「大切な娘だ。本当は綺麗なドレスを着て、可愛いものに囲まれて安全で暖かいところにいてほしい。だが、言えなかった。俺たちにはこの国を守る使命がある。家族の安全を優先してほしいなんて言えない」
きっと、ずっとシーラを失いたくないと心で叫んでいたんだろう。辺境伯の言葉に悲しみが滲んでいる。僕はその言葉を聞いただけで涙が溢れた。
「俺の心の声をお前がシーラに言ってくれた。あの子は、これから戦いに行っても『帰らねば』と生にしがみつくようになる。死を恐れるようになる。シリルのおかげだ、シリルがあの子に出会ってくれてよかった。これからも、あの子を大切にしてほしい」
そう言って、辺境伯は深々と頭を下げた。
「娘を幸せにしてやってくれ。どうか、娘をよろしくお願いします」
「もちろんです!!必ず、シーラを幸せにします、結婚することをお許しくださりありがとうございます!!
僕は慌てて立ち上がり、頭を下げた。辺境伯があまりにも深々と頭を下げるので、僕も負けじと頭を下げたら、机に頭突きをしそうだった。
「それにしても、シリルは菓子を作るのがうまいな」
先ほどまであった大きめにカットされたチョコレートケーキは跡形もなく消えていた。
クリームの痕跡すらもない。こんなに綺麗に食べてもらえると、作った側としては嬉しい。
「ありがとうございます。あれは簡単にできるものだったので、今度はもっと手をかけたものを召し上がってもらいたいです」
「まだうまくなるのか。すごいな、我が息子は」
我が息子。辺境伯にそう言われてなんだか胸がジーンと熱くなった。
「そうだ、シリルにいいものをあげよう。おい、あれを持ってきてくれるか?」
辺境伯がメイドに合図を送ると、すぐにカップとポットを持ってやってきて、僕の前にそっと置いた。
「これはな、帝国で流行しているらしいのだ。そのカップに温かいミルクを注いでみろ」
僕は辺境伯の言う通りにポットに入っているミルクを注いだ。すると、妖精の形をしたチョコレートがプカリと浮かんできた。
少しずつ溶けていくと、キラキラとした靄が広がった。
「すごく、かわ……えっと、素敵ですね!!」
あまりの可愛さに見とれて目が離せなかった。それに『可愛い』と素直に言ってしまうところだった。男のくせに可愛いものを喜ぶなんてと言われ続けた僕はつい、その言葉を避けてしまった。
「ははは!!可愛いだろう?」
「!!」
辺境伯が「可愛い」と言った。そして、満面の笑みで僕の返事を待っている。
「はい!可愛いです!!」
「我が娘たちはな、あまり可愛いものに興味を示さんのだ。シリルはこういう可愛いものが好きだと聞いた。君なら、瞳を輝かせて喜んでくれるんじゃないかと思ってな」
「そうです、好きです。すごく」
「よかった。では、また可愛いものを見つけたらシリルに土産で買ってこよう。なに、お礼は手作りの菓子でいいぞ」
「がはははは!」と辺境伯は笑った。彼の言葉が僕にとってどれほど嬉しいものだったのか、きっと彼は知らない。
「ランドルフとシーラが喜ぶものは武器だ、妻とスイやセイに至っては情報だ。俺はな、町に出て珍しいものや可愛いものを探すのが好きなんだ。見つけた時にワクワクするだろう? 今度一緒に行くか?」
「いきます。僕も、行きます」
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