愛のない結婚を後悔しても遅い 離縁を望まれたスパダリ令嬢、溺愛の限りを尽くしたら孤独な公爵令息に懐かれすぎています

空橋彩

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王家の秘密

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「シーラ、ちょっといいか?」

父上とシリルが話をしたいと言ったので、私は潔く部屋を出た。扉をちょうど閉めたところで暗い顔をしたアーサーに声をかけられた。

「ああ、いいよ。隣の部屋に行こう」

わずかにこくんと頷いたアーサーはトボトボと私の後に続いた。アーサーは困ったり悲しくなったりすると、こうして背中を丸めてゆっくりと歩く。
今にも泣き出しそうな顔をして、「今いいか?」と声をかけてくる。

隣の部屋に入るや否や、アーサーが勢いよく顔を上げた。

「オーランドのこと、辺境伯から聞いたか?」

オーランドのこと、と言われて思い浮かぶのは年齢のことだ。

「オーランドの年齢のことか?」

「ああ、そうだ」

「母上に同席してもらわなかったろ?父上は理由はわからないがそう言うことにすると言われた、と言っていた。」

父上はこの国の英雄だ。物凄く強い。武力に秀でた人だ。代わりに、あまり深く物事を考えないところがある。
どちらかというと私も父上よりだからか、理由はわからないがそうすると言われた、と聞いて「そうですか、承知しました」と答えた。

「それが俺のせいだとしたら、シーラは何ていうかなと思ってさ」

アーサーは私から視線をそらして床をじっと見つめている。アーサーの悪い癖だ。

「私がお前を見損なうと思って心配している、のか?」

アーサーがぐっと拳を強く握りしめた。図星だったようだ。アーサーは、思い込むと抜け出せなくなる癖がある。失敗することを極端に恐れ、周りからどう見られているのかをすごく気にする。
王族として扱われると怒るのがいい例だ。

「寂しいな」

私がそう言うと、アーサーがやっと顔を上げた。眉間に深く皺を寄せて、困ったような悲しいような顔をしている。

「私とお前の仲はそんなに信用できないものだったのか。お前がいけないことをしたら私が叱ってやるつもりだ。もし、道を踏み外して崖から落ちそうになったなら、お前が手を差し伸べるなら、いつでも掴むよ。」

「俺が、オーランドが生まれる前に死なせてしまうところだったって言っても?」

当時、そんな話は聞いていない。王家で隠したのか?いや、王家がブライトンにそんな重大な事件を隠し通せるはずがない。

「それは……」

どういうことだと聞き返そうとしたら、アーサーが私に背中を向けた。そして、小さな声でつぶやいた。

「シーラ、オーランドを守ってくれ。どんなものからも守ってくれ」

そう言うと扉を開けて、出て行こうとした。

「まて!アーサー!!」

アーサーを引き留めようと、手を伸ばすとアーサーはいつもよりも低く冷たい声で私を制止した。

「俺は、ヒュー・アレキサンドライト・ユリアナだ。気軽に手を触れるな。礼を取れ、王族の前だぞ」

いつもとは全く違う、私の知らない声で私に向かってそう言った。指先が後少しでアーサーに届くところだった。私が伸ばした手は少しだけ、アーサーの上着に触れた。

「承知いたしました。アレキサンドライト殿下」

伸ばしかけた手を胸の前に引き戻し、軽く頭を下げて礼をとる。私はアーサーの後ろ姿が見えなくなるまで見つめた。

アーサーが去った後、ちょうど隣の部屋から父上の叫びが聞こえた。

「シリル!!どうしたんだ!!」

と。

後で王家に探りを入れようと、アーサーを追わなかった。今は追っても彼を余計に追い詰めてしまうんじゃないかと思ったからだ。
先に、慌てて廊下に飛び出してきた父上を助けに行くことにした。
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