愛のない結婚を後悔しても遅い 離縁を望まれたスパダリ令嬢、溺愛の限りを尽くしたら孤独な公爵令息に懐かれすぎています

空橋彩

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王家の秘密

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「シリル、怪我はないか。怖い思いはしなかったか?」

アーサーを連れ戻すと、スイ、シリル、カイルが心配そうな顔をして関所の通路にあるベンチに座って待っていた。
私たちの姿が見えると、三人は慌てて立ち上がり駆け寄って来た。

「ごめん!シーラ、失敗しちゃって」

「いいや、相手をおびき出せただろう。目的もわかったし、上出来だ。私なら酒場で酔っ払いが暴れた時点でねじ伏せているから怪しまれてしまっていただろう」

「だけど、もっと上手くやっていれば……」

「大丈夫だ、あとは王家がなんとかするだろう。それより、良かったら今日は泊まっていくといい。今から出発してはすぐに暗くなる」

そう提案するとシリルが頬を赤くして「ええ!!」と叫んだ。

「嫌か?私の家を案内したかったんだが……」

「嫌じゃないよ!嬉しいんだ!!あっでも辺境伯も……いる?よね?夫人も?」

「母上はいない。王妃様とお茶会をすると言って出ているらしい。父上はいるな。まぁ、気にしなくても大丈夫さ」

「いや!ちゃんと挨拶させてもらいたくて、あの、キッチンを借りることはできるかな?あーでも、どうしよう!!」

シリルは独り言を言いながら、あっちを向いたりこっちを向いたりしている。
その間にカイルに声をかける。

「カイルも、もうすぐ銀軍に入るんだ、よかったら見学して行くといい。」

「良いんですか!?」

カイルはパッと花が咲いたように笑った。小さな声で「やった!」と喜びを噛み締めている。

この一連のやり取りを見ていた兵士たちが『美女が二人、ブライトン邸に宿泊する』と騒いでいたが、後ほど女装だったと知り、かなりの衝撃を受けていた。
おかげで、カイルは若い兵士たちと顔見知りになる事ができて喜んでいた。

関所の一室で着替えを済ませたシリルとカイルを連れて外へ出る。馬車の荷台に乗って隠れていたので全体をまだ見ていないと言われたからだ。

「やっぱり、すごく大きいね!迫力があるよ」

関所を見上げたシリルが感動して声を上げる。
大きな黒っぽい岩がいくつも積み重なっている重厚感のある土台の上に、煤けた黒いレンガで門が作られている。その上には切り出した岩をうまく使って、見張の通路が長く連なっている。

火矢を打ち込まれても、燃えないように関所兼ブライトン邸は基本岩や石、レンガでできている。

「トラティリアの館のように美しく立派ではないが、なかなか良いだろう?」

「なかなかどころか、とってもかっこいいよ!ねえ!あの通路を歩いている時は空を飛んでいるような気持ちになる?」

「これだけ高さがあるから、あの通路を歩けない者もいる。高いところが平気なものに見張りを任せているんだ。行ってみるか?」

「いいの?!仕事の邪魔にならないのなら是非お願いしたいな。」

シリルはまるで冒険を楽しむかのように、あらゆる部屋を褒めちぎりながら、ブライトン邸を見学して回った。
特にキッチンにあった高火力の窯に興味を示してその場でチョコレートケーキを焼き始めた。

一通り案内するには広すぎるので、生活に必要なところだけ案内して客間に行くと、父上が部屋の中をウロウロしていた。どうやら、シリルと私がここに来るのを待っていたようだ。

「やっと来たか、シーラ、帰ったらまずは俺に会いに来るべきだろう」

「急ぎの用事がありましたか?」

「い、いや。ないが……その……」

父上はなぜかガクッと肩を落として静かにソファに座った。そして、わざとらしく「おほん!!」と咳払いをしてから、シリルを真面目な顔でじっと見つめた。

「シリル……もう、俺の息子になるんだ、シリル、と呼んでいいな?」

「はっはい、もちろんです!」

父上の地を這うような低く迫力のある声に驚いたのか、シリルの背筋がピンと伸びた。

「少し、話ができるか?シーラ抜きで二人で話したい」

「僕も辺境伯と話がしたかったんです。シーラ、いいかな?」

「あぁ、シリルがいいのなら。何かあったら大きな声で呼んでくれればすぐに駆けつけるからな」

シリルは優しい。父上が突然望んだのに自分もそう思っていたと、少しも嫌な顔をせずに受け止めてくれた。
私はシリルの心遣いをありがたく受け取り、部屋を後にした。
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