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 その翌日のこと。

 「え? ルシファー様が? 」

 「そうなんですよ。結婚されて以来、久しぶりにこちらへいらっしゃっているとか。後でご挨拶にいらっしゃるそうですよ」

 「久しぶりに聞くお名前だわ。懐かしい」

 「お互いご結婚されて、お忙しくされておりますからね。仕方ありませんわ」

 朝食を終えた私の身支度を整えている時に、唐突にリリーが切り出した。

 ルシファー様とは……これまた懐かしい名前である。
 私がまだお世継ぎ問題で頭を抱えていた時に会ったのが最後だろう。
 ザリアン元侯爵令嬢から、自分がフィリップ様の側室になる予定だと伝えられ、頭が真っ白になってしまい実家へ戻ってきたのだった。

 あの時ルシファー様から想いを寄せていると伝えられかけたのだが……
 途中で駆け付けたフィリップ様によってその告白は中断された。

 私とルシファー様の仲を邪推したフィリップ様の誤解を解いているうちに、いつの間にかお帰りになっていたのだわ。

 フィリップ様が唯一脅威に感じているお方は、恐らくルシファー様だろう。

 そんな彼も、私のお父様の紹介で遠縁の貴族令嬢と結婚して幸せに暮らしていると噂に聞いていた。
 もちろん私はルシファー様に対して何の思いも抱いていないし、今更彼と会ったところで何か起こる訳がない。

 お父様やお母様もその事をよくわかっているので、ルシファー様が屋敷を訪れることをお許しになったのだろう。

 「ルシファー様の結婚生活などを聞くのが楽しみだわ。奥方様はどんなお方なのかしら」

 「ともに留学された経験をお持ちだとか。面白いお話をたくさんしてくださりそうですね」



 その日の午後、約束通りルシファー様は我がメイフィールドの屋敷を訪れた。
 温室でリリーの淹れてくれたお茶と特性スコーンを頂きながら、私たちは久方ぶりの対面を果たしたのだ。

 「王太子妃殿下におきましては、ご機嫌麗しく……」

 「もう、やめてくださいな。そんなに他人行儀ではなかったでしょう? 」

 久しぶりに会うルシファー様は、以前と変わらぬ美丈夫であった。
 いやむしろ、結婚したことにより大人の男性の落ち着きが加わったように見える。

 「それでは……失礼ながら。エシー、久しぶりだな。子が出来たと聞いたが、体調は大丈夫か?」

 「お久しぶりです、ルシファー様。体調はまずまずですわね」

 「無理はするなよ」

 「ふふふ。ありがとうございます。ルシファー様の方こそ、ご結婚おめでとうございます。お元気でしたか? 」

 少し表情を緩めたルシファー様は、奥方との馴れ初めや留学での経験など様々なお話をしてくださった。
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