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 やがて出産から数日が経ち、私は意識を取り戻した。
 その知らせはすぐにフィリップ様への元へも届けられる。
 すると次の瞬間、フィリップ様は転移魔法で私のいる寝室へと転移したのだ。
 あれほどもぬけの殻のように動かなかった王太子は、こうも俊敏に動くことができるのかと皆驚いたらしい。

 「フィリップ様……? 」

 私はまだ完全に働いていない頭でぼうっとしながら、愛しい人の姿を見つめた。
 私の隣にはモゾモゾと動く息子の姿が。
 そしてフィリップ様は、私たち二人を一目見た途端に大号泣した。

 「将来の国王陛下ですよ、しっかりなさってくださいませ」

 「君がいてこその僕なんだ。君がいなければ国王にもなれない」

 「私が先に死んだらどうなさるおつもりですか」

 「大丈夫、絶対に死なせないから。君が死んだら僕は……僕は……ああ、命が助かって本当によかった、エスメラルダ……」

 そう言って大声で泣き続けるので、静かに眠っていたジェラルドもつられて大泣きに。
 そんな二人の様子を私とリリーは呆れて見つめていた。
 でも何はともあれ、私は無事にユーカリ国のお世継ぎをこの世に生み出すことができたのだ。



 育児は大変な事も多いけれど、ジェラルドは日に日に愛らしく可愛らしく育つので、そんなことは苦にはならなかった。
 そして意外だったことは、あのフィリップ様がかなりの親ば……子煩悩になったこと。
 あれほど子どもができて私たちの関係性が変化する事を恐れていたというのに。
 暇さえあればジェラルドと触れ合いたがるので、ジェラルドもそんなお父様の事が大好きのようだ。


 ちなみに産後体が落ち着いた後に、フィリップ様と隣国を訪問する機会があった。
 例の王女殿下は私とフィリップ様の様子を見て、拗ねたようにお部屋に引き篭もってしまったらしい。
 やはり彼女は、フィリップ様のことを好きだったのだろう。
 当のフィリップ様はそのことに全く気付いていない様子だが。



 「エスメラルダ、そろそろ二人目を……」

 フィリップ様がそんな事を言い出したのは、ジェラルドを出産してから半年が経過した頃だっただろうか。

 「君との子どもなら何人だって欲しい」

 まるで別人のようなそのセリフだが、私はまだ根に持っている事があったのだ。
 それは、避妊魔法を三年間にわたってかけられ続けていた事。

 もちろん根に持っていると言ってもほんの少しだけなのだけれど。
 だから私はささやかにこんな抵抗をしてみた。

 「ようやく出産後の夫婦の時間が解禁されたんですもの。もう少し避妊魔法を続けてくださいませ」

 私の言葉に、フィリップ様は明らかにショックを受けたような表情を浮かべる。

 「……まさか以前とは逆の立場になるとは」
 「ふふふ。今度はフィリップ様が我慢する番ですわよ」

 フィリップ様はぐぬぬ……とショックを受けたような表情を浮かべたが、私はそのまま気付かぬふりをした。
 だって私が感じていた苦しみは、こんな程度じゃ無かったんですもの。

 でもそんなお預け状態のフィリップ様とて、黙って待つだけでは無かった。
 毎日のように、我が子の可愛さや私をどれほど愛おしく思っているか、どれだけ子どもが欲しいか、などを懇々と説いてくるのである。
 ついに私は根負けした。
 ……三年間も粘った自分を褒めてあげたいほどだ。
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