【R-18】世継ぎのできない王太子妃は、離縁を希望します

桜百合

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「あらあら、まあまあ」

 突然屋敷のサロンに現れた私を見て、母であるメイフィールド公爵夫人は編み物をしていた手を止めて驚いている。
 お母様は急いで立ち上がると、私の元へと駆け寄ってきた。

 驚きのあまり悲鳴をあげて飛び上がるような真似はしない。
 さすが公爵夫人といったところだ。
 
 一方私はというと、身の回りのものは何も持たず身一つで転移したので普段着のまま、そして涙でぐちゃぐちゃの顔であった。
 王太子妃どころか、元公爵令嬢のかけらもない姿である。

「とりあえず、まずはそのお顔を綺麗にしてきなさい。お話は後でゆっくり聞くわ」

「お母様……」

 懐かしいお母様の顔を見ると、自然に涙が込み上げてくる。
 いつの間にかお母様が転移魔法で呼び寄せたリリーが、部屋の入り口に待機していた。
 リリーにも驚いている様子は全くないところがさすがである。

 リリーに連れられて、懐かしい実家の自室に入る。
 すぐに温かいタオルで顔を拭かれ、涙で濡れたドレスを新しい物に変えられた。
 ふわりと懐かしい香りが鼻をくすぐる。
 ボサボサの髪は一旦解かれ、櫛で軽くとかして再び1本の三つ編みにされた。

「本当でしたら湯浴みをなさるのが一番なんですけどね、もう時間も遅いですし今日は簡単に済ませてしまいましょう」

「丁度いいわ。なんだか今日は疲れたし、お湯に浸かる元気はなさそうよ」

 身だしなみを整え終えると、私は再びサロンに呼ばれた。
 そこには懐かしい家族の顔がたくさん。

「お父様……お母様……お兄様達も」

「エシーや、さぞ辛かったであろう。何もかも忘れてゆっくり休みなさい」

「そうよ、今は何も考えずに休みなさい」

 エシーとは、メイフィールドの家族のみが呼ぶ私の愛称である。
 この名前で呼ばれると、実家に帰って来たのだということを実感する。
 お父様もお母様も、みな眉を下げて心配そうな顔をして私を抱きしめてくれた。
 この時ばかりは子どもに戻ったような気分だ。

「エシー、久しぶりだなぁ。少し痩せてしまったんじゃないか? ダメだぞ、お前は元々細いんだから。今スコーンを焼かせているから、たくさん食べるんだぞ!」

「エシー、僕の可愛い妹がなんてことに……」

 私には四人の兄がいる。
 メイフィールド公爵家の血を引くだけあって、みなそれぞれかなり強力な魔力の持ち主だ。
 上の二人は隣国に留学中で不在のため、今公爵家に残っているのは二人の兄のみ。
 この兄達がまたものすごく甘い。
 私のやりたいことは全て叶えてくれ、常に私のことを優先してくれた。
 そしてもれなく過保護で、私のこととなると怒りの制御がつかなくなる。

「クソ、あのお人好し王太子め……僕たちのエシーをこんな酷い目に遭わせやがって……。魔法で二度と勃たないようにしてやろうか……」

 三番目の兄リュシーが何やら際どい発言をしている。
 そんなことしなくても、元々王太子様は淡白なのよ……と言いかけて口をつぐむ。
 それにそんなことをされては、尚更お世継ぎが生まれないではないか。
 お兄様達はユーカリ国を滅ぼす気なのだろうか。

「こら、リュシー。口を慎みなさい。仮にもエシーの前ですよ。それに王太子様にもご無礼です」

 お母様がお兄様を嗜めた。

「とりあえず、あなたはお部屋に戻ってゆっくり甘い物でも食べて休みなさい。後のことはお母様達に任せて?」

「あの、私はここにいても良いのでしょうか……? 王家からの出戻り娘など、メイフィールドの名に恥をかかせるのではと……」

 私のせいで家族に迷惑がかかるような真似は絶対にしたくない。
 それならば修道院に入った方がずっと良い。

「何を言ってるんだ、エシー」

 呆れたように立ち上がったのは、公爵であるお父様だ。

「お前は私たち家族にとって宝のように大事な娘であり、妹なんだよ。そのような悲しいことを言わないでおくれ」

「そうだよ、お前が望むならいつまでもこの屋敷にいればいいさ。上の兄様達が戻って来ても同じことを言うはずだ」

 お父様はそう言って私を抱きしめ、リュシーお兄様は小さい頃によくしてくれたように、頭をポンポンと撫でてくれた。
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