13 / 40
本編
13
しおりを挟む
家族皆の言葉に甘えて、私は次の日から悠々自適でノンストレスな生活を実家で送るようになった。
自分の部屋に帰れば、いつでも温かい紅茶と大好物のスコーンが用意してある。
王城にいた時は読みたくとも忙しくて読めなかった恋愛小説が、全巻揃って置いてあった。
「あぁリリー、このままダラダラと過ごして良いのかとたまに不安になるわ」
今日も私は長椅子に身を横たえお菓子を食べては本を読むという、王太子妃らしからぬ生活を送っている。
……ああ、もう王太子妃ではなくなるのだったわ。
「何をおっしゃっているんですか、お嬢様。これまで死ぬ気で頑張ってきたんですもの。これくらいの贅沢は許されますわ」
そう言ってリリーもせっせとスコーンを運んでくるのだから、困ったものだ。
すっかり甘やかされた私は、ここ数ヶ月の間のストレスでやつれた顔も血色が良くなり、いくらかふっくらしたように見える。
……もちろん控えめな胸に限っては変化なしだ。
「そういえば、従兄弟のルシファー様が隣国からお戻りになっているとか。エスメラルダ様がこちらにいらっしゃるとお耳にしたらしく、午後にお顔を出すそうですよ」
「ルシファー様が? それはまた懐かしいお人だわ……」
ルシファー様は私の四つ上で、お父様の弟であるアルモンド侯爵様の次男だ。
メイフィールド公爵家をお父様が継いだので、ルシファー様のお父様はアルモンド侯爵家に婿入りしたらしい。
小さい頃はよく一緒に遊んだが、物心ついた頃から彼は隣国に留学していたため、王太子妃になってからは一度も会っていない。
「ちなみにルシファー様は、まだおひとりでいらっしゃるようですよ」
リリーがそんなことを言いながら、何やら意味深な表情でこちらを見る。
「何よ、ルシファー様と結婚しろって言うの? こんな出戻り娘、向こうからお断りでしょうよ」
それに、ルシファー様と知り合った時にはすでにフィリップ様が私の心にいたのだ。
ルシファー様を男性として意識したことは一度もない。
実家に戻ってきてからというもの、確かにノンストレスな生活を送ってはいるが、ふとした時にフィリップ様のことが頭をよぎる。
喧嘩別れのような形で出てきてしまったことを少し後悔していた。
転移魔法で強引に城を出た後、フィリップ様がすぐに後を追ってメイフィールドの屋敷に来てくれるのでは? と淡い期待を抱いたがそんなこともなく。
やはりフィリップ様にとって私はただの王太子妃だったのかしら……
幼い頃からずっとお互いが特別な存在だと思っていたが、今思えば親達が無理矢理恋愛結婚に持ち込んだようなものである。
私はフィリップ様しか目に入らなかったけれど、彼にとっては違ったのかもしれない……。
「少し話は変わりますけれど、お嬢様宛にお見合いのお話もきているみたいですよ」
「ええっ?! それは初耳だわ……」
「しばらく結婚は懲り懲りだろうと、公爵様達がお嬢様のお耳には入れないようにとお達ししているそうです」
「でも私は出戻りなのに、お相手の家はそれで大丈夫なのかしら?」
「なんでも、ユーカリ王国の周辺国からのお申込みがほとんどみたいです」
なるほど。
周辺国なら離婚歴があっても特に気にならないと言うことか。
ただ、今の私には再婚などという気は起きない。
「お嬢様を国外へ手放すようなことは、公爵夫妻がお許しにならないと思いますけどね」
兄たちにも負けず、お父様とお母様の過保護ぶりはユーカリ国でも有名なほどである。
私に王太子妃の打診が来た際も、お父様は最後まで渋っておられたとか。
今思えばお父様の憂いは正しかったのかもしれない。
結局三年経って娘は出戻りになってしまったのだから。
「それは確かにそうね。でも私ももう当分結婚はしたくないわ。周りの噂話や嫌味に振り回されるのはうんざり。今のこの静かな暮らしで十分幸せよ」
自分の部屋に帰れば、いつでも温かい紅茶と大好物のスコーンが用意してある。
王城にいた時は読みたくとも忙しくて読めなかった恋愛小説が、全巻揃って置いてあった。
「あぁリリー、このままダラダラと過ごして良いのかとたまに不安になるわ」
今日も私は長椅子に身を横たえお菓子を食べては本を読むという、王太子妃らしからぬ生活を送っている。
……ああ、もう王太子妃ではなくなるのだったわ。
「何をおっしゃっているんですか、お嬢様。これまで死ぬ気で頑張ってきたんですもの。これくらいの贅沢は許されますわ」
そう言ってリリーもせっせとスコーンを運んでくるのだから、困ったものだ。
すっかり甘やかされた私は、ここ数ヶ月の間のストレスでやつれた顔も血色が良くなり、いくらかふっくらしたように見える。
……もちろん控えめな胸に限っては変化なしだ。
「そういえば、従兄弟のルシファー様が隣国からお戻りになっているとか。エスメラルダ様がこちらにいらっしゃるとお耳にしたらしく、午後にお顔を出すそうですよ」
「ルシファー様が? それはまた懐かしいお人だわ……」
ルシファー様は私の四つ上で、お父様の弟であるアルモンド侯爵様の次男だ。
メイフィールド公爵家をお父様が継いだので、ルシファー様のお父様はアルモンド侯爵家に婿入りしたらしい。
小さい頃はよく一緒に遊んだが、物心ついた頃から彼は隣国に留学していたため、王太子妃になってからは一度も会っていない。
「ちなみにルシファー様は、まだおひとりでいらっしゃるようですよ」
リリーがそんなことを言いながら、何やら意味深な表情でこちらを見る。
「何よ、ルシファー様と結婚しろって言うの? こんな出戻り娘、向こうからお断りでしょうよ」
それに、ルシファー様と知り合った時にはすでにフィリップ様が私の心にいたのだ。
ルシファー様を男性として意識したことは一度もない。
実家に戻ってきてからというもの、確かにノンストレスな生活を送ってはいるが、ふとした時にフィリップ様のことが頭をよぎる。
喧嘩別れのような形で出てきてしまったことを少し後悔していた。
転移魔法で強引に城を出た後、フィリップ様がすぐに後を追ってメイフィールドの屋敷に来てくれるのでは? と淡い期待を抱いたがそんなこともなく。
やはりフィリップ様にとって私はただの王太子妃だったのかしら……
幼い頃からずっとお互いが特別な存在だと思っていたが、今思えば親達が無理矢理恋愛結婚に持ち込んだようなものである。
私はフィリップ様しか目に入らなかったけれど、彼にとっては違ったのかもしれない……。
「少し話は変わりますけれど、お嬢様宛にお見合いのお話もきているみたいですよ」
「ええっ?! それは初耳だわ……」
「しばらく結婚は懲り懲りだろうと、公爵様達がお嬢様のお耳には入れないようにとお達ししているそうです」
「でも私は出戻りなのに、お相手の家はそれで大丈夫なのかしら?」
「なんでも、ユーカリ王国の周辺国からのお申込みがほとんどみたいです」
なるほど。
周辺国なら離婚歴があっても特に気にならないと言うことか。
ただ、今の私には再婚などという気は起きない。
「お嬢様を国外へ手放すようなことは、公爵夫妻がお許しにならないと思いますけどね」
兄たちにも負けず、お父様とお母様の過保護ぶりはユーカリ国でも有名なほどである。
私に王太子妃の打診が来た際も、お父様は最後まで渋っておられたとか。
今思えばお父様の憂いは正しかったのかもしれない。
結局三年経って娘は出戻りになってしまったのだから。
「それは確かにそうね。でも私ももう当分結婚はしたくないわ。周りの噂話や嫌味に振り回されるのはうんざり。今のこの静かな暮らしで十分幸せよ」
318
あなたにおすすめの小説
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。
アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。
今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。
私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。
これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
【完結】側妃は愛されるのをやめました
なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」
私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。
なのに……彼は。
「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」
私のため。
そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。
このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?
否。
そのような恥を晒す気は無い。
「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」
側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。
今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。
「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」
これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。
華々しく、私の人生を謳歌しよう。
全ては、廃妃となるために。
◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです!
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi(がっち)
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】愛していないと王子が言った
miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。
「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」
ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。
※合わない場合はそっ閉じお願いします。
※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる