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本編
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家族皆の言葉に甘えて、私は次の日から悠々自適な生活を送るようになった。
たくさんの苦悩から解放された日々は驚くほど快適である。
部屋に帰ればいつでも温かい紅茶と大好物のスコーンが用意してあり、城にいた頃には忙しくて読むことができなかった恋愛小説が全巻揃えて置いてあった。
「こんな風に怠けて過ごしていていいのかとたまに不安になるわ」
「何を言っているんですか、お嬢様。これまで死ぬ気で頑張ってきたんですもの。これくらいの贅沢は許されますわ」
メイフィールドの屋敷に来てから甘やかされ続けた私は、ここ数か月の間の精神的苦痛でやつれた顔もすっかりと元の血色を取り戻し、いくらかふっくらしたように見える。
……もちろんそれでも控えめな胸は変化なしではあるが。
「そういえば、お従兄弟のルシファー様が隣国からお戻りになっているとか。エスメラルダ様がこちらにいらっしゃるのを聞いて、午後にこちらを訪れになるとか」
「ルシファー様が? それはまた懐かしい名前だわ……」
ルシファー様は私の四つ上で、父の弟であるアルモンド侯爵の息子だ。
メイフィールド公爵家を私の父が継いだので、ルシファー様のお父様はアルモンド侯爵家に婿入りしたらしい。
小さい頃はよく一緒に遊んでいたが、物心ついた頃から彼は隣国に留学していたため王太子妃になってからは一度も会っていない。
「ちなみにルシファー様は、まだお独りでいらっしゃるそうですよ」
リリーが意味ありげな表情でこちらを見る。
彼が私と恋仲になるかもしれないと言いたいのだろうが、そんなことはありえない。
「何よ、ルシファー様と結婚しろって言うの? こんな出戻りは向こうからお断りよ」
それにルシファー様と知り合った時には、すでにフィリップ様が私の心にいたのだ。
よってルシファー様を男性として意識したことはこれまでに一度もない。
実家に戻ってきてからというもの確かに気楽な生活を送ってはいるが、ふとした時にフィリップ様のことが頭をよぎる。
長年同じ時間を過ごしてきたというのに、喧嘩別れのような形で城を出てきてしまったことを少し後悔していたのだ。
転移魔法で強引に城を出た後、フィリップ様が後を追ってメイフィールドの屋敷に来てくれるかもしれないと淡い期待を抱いたがそんなこともなく。
やはりフィリップ様にとって私はただの都合のいい王太子妃だったのか。
幼い頃からずっとお互いが特別な存在だと思っていたが、今思えば親たちが無理矢理恋愛結婚に持ち込んだようなものである。
私はフィリップ様しか目に入っていなかったけれど、彼は違ったのかもしれない……
そんなどす黒い気持ちばかりが渦を巻く。
「そういえば少し話は変わりますけれど、お嬢様宛にたくさんお見合いのお話もきているみたいですよ」
「私に? それは初耳だわ……まだ離縁も成立していないというのに」
王太子妃が城を出たという噂が、恐らく社交界中で広がってしまったのだろう。
それも仕方のないことだ。
元々私たち夫婦の間には子どもが生まれず、フィリップ様が側妃を迎えるということは周知の事実だったはずなのだから。
そのことに胸を痛めた私が実家へと戻ってしまったと考えるのが普通だろう。
そしてそのまま離縁するだろうというのが皆の見立てであり、あながち間違いではないのだ。。
「しばらく結婚は懲り懲りだろうと、公爵がお嬢様のお耳には入れないようにとお達ししているそうです」
「でも私は出戻りなのに、お相手の家はそれで大丈夫なのかしら?」
「なんでも、ユーカリ王国の周辺国からのお申込みがほとんどみたいです」
なるほど。周辺国なら離婚歴があっても特に気にならないということか。
ただ、今の私には再婚などという気は全くといっていいほど起きなかった。
「公爵ご夫妻がお嬢様を国外のお相手に……ということは、お許しにならないと思いますけどね」
我が一族は仲が良く結束力も強い。
離縁したばかりの私を行き来しづらい国外へ嫁がせるような真似は、きっとしないだろう。
「それは確かにそうね。私も当分結婚はしたくないわ。今のこの静かな暮らしで十分……もう色々なことに煩わされたくないの」
たくさんの苦悩から解放された日々は驚くほど快適である。
部屋に帰ればいつでも温かい紅茶と大好物のスコーンが用意してあり、城にいた頃には忙しくて読むことができなかった恋愛小説が全巻揃えて置いてあった。
「こんな風に怠けて過ごしていていいのかとたまに不安になるわ」
「何を言っているんですか、お嬢様。これまで死ぬ気で頑張ってきたんですもの。これくらいの贅沢は許されますわ」
メイフィールドの屋敷に来てから甘やかされ続けた私は、ここ数か月の間の精神的苦痛でやつれた顔もすっかりと元の血色を取り戻し、いくらかふっくらしたように見える。
……もちろんそれでも控えめな胸は変化なしではあるが。
「そういえば、お従兄弟のルシファー様が隣国からお戻りになっているとか。エスメラルダ様がこちらにいらっしゃるのを聞いて、午後にこちらを訪れになるとか」
「ルシファー様が? それはまた懐かしい名前だわ……」
ルシファー様は私の四つ上で、父の弟であるアルモンド侯爵の息子だ。
メイフィールド公爵家を私の父が継いだので、ルシファー様のお父様はアルモンド侯爵家に婿入りしたらしい。
小さい頃はよく一緒に遊んでいたが、物心ついた頃から彼は隣国に留学していたため王太子妃になってからは一度も会っていない。
「ちなみにルシファー様は、まだお独りでいらっしゃるそうですよ」
リリーが意味ありげな表情でこちらを見る。
彼が私と恋仲になるかもしれないと言いたいのだろうが、そんなことはありえない。
「何よ、ルシファー様と結婚しろって言うの? こんな出戻りは向こうからお断りよ」
それにルシファー様と知り合った時には、すでにフィリップ様が私の心にいたのだ。
よってルシファー様を男性として意識したことはこれまでに一度もない。
実家に戻ってきてからというもの確かに気楽な生活を送ってはいるが、ふとした時にフィリップ様のことが頭をよぎる。
長年同じ時間を過ごしてきたというのに、喧嘩別れのような形で城を出てきてしまったことを少し後悔していたのだ。
転移魔法で強引に城を出た後、フィリップ様が後を追ってメイフィールドの屋敷に来てくれるかもしれないと淡い期待を抱いたがそんなこともなく。
やはりフィリップ様にとって私はただの都合のいい王太子妃だったのか。
幼い頃からずっとお互いが特別な存在だと思っていたが、今思えば親たちが無理矢理恋愛結婚に持ち込んだようなものである。
私はフィリップ様しか目に入っていなかったけれど、彼は違ったのかもしれない……
そんなどす黒い気持ちばかりが渦を巻く。
「そういえば少し話は変わりますけれど、お嬢様宛にたくさんお見合いのお話もきているみたいですよ」
「私に? それは初耳だわ……まだ離縁も成立していないというのに」
王太子妃が城を出たという噂が、恐らく社交界中で広がってしまったのだろう。
それも仕方のないことだ。
元々私たち夫婦の間には子どもが生まれず、フィリップ様が側妃を迎えるということは周知の事実だったはずなのだから。
そのことに胸を痛めた私が実家へと戻ってしまったと考えるのが普通だろう。
そしてそのまま離縁するだろうというのが皆の見立てであり、あながち間違いではないのだ。。
「しばらく結婚は懲り懲りだろうと、公爵がお嬢様のお耳には入れないようにとお達ししているそうです」
「でも私は出戻りなのに、お相手の家はそれで大丈夫なのかしら?」
「なんでも、ユーカリ王国の周辺国からのお申込みがほとんどみたいです」
なるほど。周辺国なら離婚歴があっても特に気にならないということか。
ただ、今の私には再婚などという気は全くといっていいほど起きなかった。
「公爵ご夫妻がお嬢様を国外のお相手に……ということは、お許しにならないと思いますけどね」
我が一族は仲が良く結束力も強い。
離縁したばかりの私を行き来しづらい国外へ嫁がせるような真似は、きっとしないだろう。
「それは確かにそうね。私も当分結婚はしたくないわ。今のこの静かな暮らしで十分……もう色々なことに煩わされたくないの」
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