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本編
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しおりを挟む「あまりにドレスがありすぎて、どれにしようか迷ってしまいますねぇ、カリーナ様」
夕食会に向けて、メアリーがカリーナの身支度へと取り掛かる。
「そうねぇ。今日は大切な日だから、余り華美ではなく、体のラインも強調しすぎないデザインがいいわ」
「それではこれはいかがです? 」
そう言ってメアリーが取り出したのは、琥珀色のドレスだ。
胸元にはレースが縁取られており、ウエストの部分は焦茶色のリボンで絞るようなデザインになっている。
上品で、カリーナの魅力をより一層引き立てるだろう。
「素敵なドレスね。それにするわ」
メアリーは手慣れた様子で、カリーナの髪を編み込んでいく。
珍しく今日の化粧は控えめだ。
いつもは真っ赤な紅をさす唇も、薄桃色の紅に変えれば雰囲気も一変する。
「首飾りはいかがしますか? 」
カリーナは宝箱を開ける。
母の形見のエメラルドの首飾りを取り出して、考えた。
エメラルドの首飾りの存在は既にアレックスも存じており、気にせずに身に付けるようにとの許可も得ている。
彼とは結婚の約束をしている関係であり、アレックスの瞳の色であるエメラルドの首飾りはその場にふさわしいものになるだろう。
というより、むしろこの場でエメラルドを身に付けることは必然のように思えた。
『エメラルドは俺の瞳の色なのだ』
だが、突然かつてのリンドの言葉が蘇った。
なぜ今になってそんなことを思い出してしまったのかカリーナにもわからないが、なぜか胸の中が苦しくなった。
「……いやね、私ったら。リンド様を忘れるためにお城へ行く決心をしたというのに…」
カリーナは首を振って呟くと、エメラルドの首飾りを宝箱に戻した。
「メアリー、アレックス様から頂いたパールの首飾りを出してちょうだい」
「かしこまりました」
パールがニ重になった首飾りは、とてもシンプルだ。
カリーナの雑な感情を無にしてくれるような首飾りを、メアリーはそっと首元につけた。
「いつも通りのカリーナ様で、いってらっしゃいませ」
そう言ってメアリーは微笑んだ。
ーーその夜、王城では非常に和やかな雰囲気で食事会が催されていた。
食堂へと向かうためにアレックスと落ち合った際、アレックスの目線が首飾りに向いている様な気がしたが、カリーナは気付かないふりをした。
「そなたがカリーナ嬢か。アレックスから話は聞いておるぞ。先の戦争では、我が国がそなたの国とご両親を……申し訳なかった」
バルサミアの前国王に頭を下げられ、カリーナは衝撃を受けた。
「そのような、私の様な者にもったいないです……頭をあげてくださいませ。私の方こそ、バルサミア国の王妃となる者が、敗戦国の侍女出身でよろしいのでしょうか……? 祖国アルハンブラでは確かに侯爵令嬢ではありましたが、それも過去の話です」
「私はね、カリーナ嬢。アレックスが誰かに関心を寄せてくれたことが嬉しいのよ」
アレックスによく似た面持ちの前王妃、アレクサンドラがワインを傾けながら微笑む。
「やめてください、母上」
珍しくアレックスが恥ずかしそうに俯く。
その様子を見て、ふふっと笑みを浮かべながらアレクサンドラが続ける。
「これまでどんなに美しい令嬢や、どんなに頭の良い娘をあてがっても、全く興味を示さなかったこの息子が。あなたに出会って初めて恋という感情を知ったのよ。我が国には一生後継者が生まれぬものと諦めかけていたところを……本当に感謝しています」
「そなたに出会ってからというもの、アレックスは何かが変わったのだ。人生に色がついたというのであろうかの。カリーナ嬢、アレックスをよろしく頼む」
前国王夫妻にこのような待遇で迎えられるとは、予想だにしていなかった。
それと共に、この2人の人柄を見て、なぜアレックスが太陽の様な性格なのかが、わかった様な気がした。
「はい。こちらこそ、よろしくお願い致します」
カリーナは深く頭を下げた。
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