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ルクスとエレノアが初めての口付けを交わしたちょうどその頃から、第二側妃リリアンの息子であるルシアンを後継に推す勢力が、力を増し始めた。
その当時の重臣達の中に、リリアンの実家マキシウム公爵家の息がかかった者たちが多くいたため、やがてルシアンを推す声が強くなってきたらしい。
そして事件が起きる。
リリアンが、ルクスの母で第一側妃のカテリーナを毒殺したのだ。
もちろん表向きは病死となっているが、リリアンが命を下したことは明らかである。
子爵家出身であったカテリーナはリリアナと正反対の性格で、跡目争いには一切関与していなかった。
その控えめな性格が前皇帝の庇護欲を誘い、その寵愛を一身に受けていたらしい。
決して皇妃の上に立とうともせず、常に彼女を立てるように接していたため、カテリーナは皇妃からの信頼も厚かったというのに。
リリアンは、以前からそんなカテリーナを疎ましく思っていたのだろうか。
ルクスは母の最期に立ち会う事ができなかった。
知らせが届き城へ戻った時には、既に事切れていたのだ。
ルクスは復讐を誓うが、思いとは裏腹にルシアン派の勢力はさらに勢いを増していく。
そして、ルクスをさらに地獄へ突き落とすような出来事が起きたのだ。
「何!? モンターン公爵家が、ルシアン派に寝返っただと!? 」
「……モンターン公爵家は鉱石の加工で財を成している家系。恐らくはマキシウム公爵家に脅されでもしたのかと……」
ルクスは、つい先日側近として迎えたマイクからの報告に、耳を疑った。
エレノアの実家であるモンターン公爵家が、リリアンの実家であるマキシウム公爵家側についたというではないか。
マキシウム侯爵側につくということは、ルクスとは敵対するも同じ。
側近の言う通り、恐らくマキシウム公爵家から鉱石の供給を停止するとでも脅されたのだろう。
そもそもの鉱石がなければ、加工などもっての外。
モンターン公爵家の領地の経営は、立ち行かなくなってしまう。
エレノアの両親であるモンターン公爵夫妻は、ルクスにとても良くしてくれていた。
それ故に、領民を守り家を守るための、苦渋の決断だったのだろうということは、ルクスにも痛いほどわかる。
「どうするルクス。モンターン公爵夫妻が第二側妃側についた以上、エレノアをお前の妻にすることはできないだろう」
マイクの隣に立ち、その報告を黙って耳にしていたシオンは苦々しくそう告げた。
ルクスと同じく十七歳を迎え、彼の側近となっていたシオンは、今やルクスの右腕としてその名を馳せている。
ルクスはエレノアの名が出た途端、わかりやすいほどに取り乱し狼狽した。
「エレノアはっ! エレノアは関係ないだろう!? 」
「関係無いわけないだろう。彼女はモンターン公爵家の令嬢だ。お前が皇帝になる事を反対している勢力の者を皇妃に迎えるなど、正気の沙汰では無い」
「しかしっ……」
「我々からも、お願い致します。エレノア様を皇妃候補からお外しくださいませ」
後ろに控えていたルクス派の重臣達も皆頭を下げ、懇願する。
「このままお前の婚約者でいても、エレノアだって辛い思いをするだろう。裏切り者と後ろ指を指されながら、生きていかねばならない」
「そんな奴らは俺が殺してやる。エレノアは俺が守る……! 」
「ルクス、お前は皇帝になるのだろう? 私利私欲で大事な決断を間違えるな」
「シオン……」
シオンの言うことは合っている。
結局、ルクスにはどうすることもできなかった。
全て彼らの言う通りだ。
自分が皇帝にならなければ、母カテリーナの復讐を果たすことはできない。
負けを認める事は、リリアン側に命を差し出すということと同じ。
ルクスが死なずして争いは終わらない。
ルクスとエレノアの運命は、別々の方向へと分かれてしまったのだ。
結局それからしばらく後、エレノアはルクスの筆頭皇妃候補から除外された。
そして一月も経たないうちに、第一皇子派であるハルン侯爵家の娘サリアナを、婚約者と定めたのである。
その当時の重臣達の中に、リリアンの実家マキシウム公爵家の息がかかった者たちが多くいたため、やがてルシアンを推す声が強くなってきたらしい。
そして事件が起きる。
リリアンが、ルクスの母で第一側妃のカテリーナを毒殺したのだ。
もちろん表向きは病死となっているが、リリアンが命を下したことは明らかである。
子爵家出身であったカテリーナはリリアナと正反対の性格で、跡目争いには一切関与していなかった。
その控えめな性格が前皇帝の庇護欲を誘い、その寵愛を一身に受けていたらしい。
決して皇妃の上に立とうともせず、常に彼女を立てるように接していたため、カテリーナは皇妃からの信頼も厚かったというのに。
リリアンは、以前からそんなカテリーナを疎ましく思っていたのだろうか。
ルクスは母の最期に立ち会う事ができなかった。
知らせが届き城へ戻った時には、既に事切れていたのだ。
ルクスは復讐を誓うが、思いとは裏腹にルシアン派の勢力はさらに勢いを増していく。
そして、ルクスをさらに地獄へ突き落とすような出来事が起きたのだ。
「何!? モンターン公爵家が、ルシアン派に寝返っただと!? 」
「……モンターン公爵家は鉱石の加工で財を成している家系。恐らくはマキシウム公爵家に脅されでもしたのかと……」
ルクスは、つい先日側近として迎えたマイクからの報告に、耳を疑った。
エレノアの実家であるモンターン公爵家が、リリアンの実家であるマキシウム公爵家側についたというではないか。
マキシウム侯爵側につくということは、ルクスとは敵対するも同じ。
側近の言う通り、恐らくマキシウム公爵家から鉱石の供給を停止するとでも脅されたのだろう。
そもそもの鉱石がなければ、加工などもっての外。
モンターン公爵家の領地の経営は、立ち行かなくなってしまう。
エレノアの両親であるモンターン公爵夫妻は、ルクスにとても良くしてくれていた。
それ故に、領民を守り家を守るための、苦渋の決断だったのだろうということは、ルクスにも痛いほどわかる。
「どうするルクス。モンターン公爵夫妻が第二側妃側についた以上、エレノアをお前の妻にすることはできないだろう」
マイクの隣に立ち、その報告を黙って耳にしていたシオンは苦々しくそう告げた。
ルクスと同じく十七歳を迎え、彼の側近となっていたシオンは、今やルクスの右腕としてその名を馳せている。
ルクスはエレノアの名が出た途端、わかりやすいほどに取り乱し狼狽した。
「エレノアはっ! エレノアは関係ないだろう!? 」
「関係無いわけないだろう。彼女はモンターン公爵家の令嬢だ。お前が皇帝になる事を反対している勢力の者を皇妃に迎えるなど、正気の沙汰では無い」
「しかしっ……」
「我々からも、お願い致します。エレノア様を皇妃候補からお外しくださいませ」
後ろに控えていたルクス派の重臣達も皆頭を下げ、懇願する。
「このままお前の婚約者でいても、エレノアだって辛い思いをするだろう。裏切り者と後ろ指を指されながら、生きていかねばならない」
「そんな奴らは俺が殺してやる。エレノアは俺が守る……! 」
「ルクス、お前は皇帝になるのだろう? 私利私欲で大事な決断を間違えるな」
「シオン……」
シオンの言うことは合っている。
結局、ルクスにはどうすることもできなかった。
全て彼らの言う通りだ。
自分が皇帝にならなければ、母カテリーナの復讐を果たすことはできない。
負けを認める事は、リリアン側に命を差し出すということと同じ。
ルクスが死なずして争いは終わらない。
ルクスとエレノアの運命は、別々の方向へと分かれてしまったのだ。
結局それからしばらく後、エレノアはルクスの筆頭皇妃候補から除外された。
そして一月も経たないうちに、第一皇子派であるハルン侯爵家の娘サリアナを、婚約者と定めたのである。
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