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1章
第2話
しおりを挟む僕たちの通う高校は都市部から少し離れた場所に位置しているが故、登校手段が限られている。高校近辺に在来線の駅などというものは存在せず、私鉄の最寄り駅からは徒歩30分ほどと、最寄り駅と呼ぶのもおこがましい。したがって、学校近辺に住んでいる生徒たちは徒歩で通い、それ以外の生徒たちは自転車を漕いで登校するか、バスを利用するしかない。
では、自転車やバスで登校すれば楽できるかというと、そうは問屋が卸さない。自転車であればヒルクライムが如く、激しいアップダウンを繰り返すことになるし、バスならば密集した息苦しい空間の中で30分間、揺られ続けなければならない。
田舎に住んでいる人からすれば、甘えるな、と言われること間違いなしなのだが、それでも映画館やゲームセンターといった娯楽施設が身近にある都市部暮らしの人間からしたら、どう好意的に見繕っても不便なのだ。
「今日は座れそうだな。」
バス停の待機列を見ながら龍司がつぶやく。30分間立ち続けるのは軟弱者の僕は言うに及ばず、体力自慢の彼にとっても愉快なことではないようだ。
「今日は月曜日だけど、部活はあるの?」
八人ほどで形成された列の最後尾に並ぶと、僕は尋ねた。彼は中学生のときからハンドボール部に所属しており、放課後は部活三昧の日々を過ごしている。ただし、月曜日は定休日で彼とともに帰路に就くのが慣例となっている。
「いや、今日はある。昨日休みだったからな。」
苦虫を潰したような顔で、しかし、どこか嬉しそうな声でそう言った。相変わらず思う、彼は部活馬鹿だと。部活の為なら何にでも本気で取り組む。ハンドボールの練習はもちろん全力、それでいて授業は真面目に受け、定期試験の成績も優秀だ。体育でクタクタになるどこぞのモヤシ野郎にその体力をほんの5%でも分けて欲しい。
彼曰く
『赤点で補習になったらその分練習する時間が減るし、成績が悪かったら親に何言われるか分かったもんじゃない』から勉強も手を抜かずに取り組んでいるだそうだ。
なるほど、流石自他共に認める部活馬鹿なだけはある。しかし、赤点云々の話までは理解出来るのだが、彼の家族と面識がある身としてはどうも腑に落ちない所がある。高校進学の際には受かるところに行けばいい、と龍司の母親が言っていたのは聞いたことがあったからだ。つまるところ、彼の成績の善し悪しはそこまで気にしないような気がしていた。
高校に入学してから何らかの心境の変化があったのは違いないだろうが、そこを詮索するほど悪趣味ではない。いずれにせよ、現在の彼は完璧超人に仕上がっており、素直に尊敬している。
「わかった。それなら今日は適当に帰る。」
そんなやり取りをしてからしばらくするとバスがやってきた。
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