笑ってはいけない悪役令嬢

小川コタ

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笑12

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「はぁ。僕の眼帯も駄目かもなあ。」
 ため息をつくフラリス・ブリストンに強制されるのは眼帯である。
 ブリストン一族は目が見えなかったり左右の瞳の色が違う訳でもないのに、眼帯をつけなければならない。片目で3年間、学生生活を送るのは、想像以上にきついらしい。

「イコリス、サイナス・・・気を引き締めておけ。」
 突然、トゥランが俺達に警告してきた。
 ブリストンの眼帯は、額に巻く鉢巻きの紐に付けた逆様の山型の布を、片目に当てる形状となっている。逆様の山型の布は顔の約4分の1の大きさがあり、眼帯をした容貌はそれなりに格好良くなるのだ。
 なのにトゥランが警告を出すとは、これは何かある。

「フラリス、眼帯に何かしたのか?」
「うん。付けていても透けて見える眼帯を、お母さんが手作りしてくれたんだ。視力に難がある訳じゃないからさ。」

 そう言ってフラリスが俺に見せた眼帯は、レースだった。
 山型の透けた極薄の平織生地に、花模様の繊細なレースが全面にあしらわれ、鉢巻の紐はレースリボンだった。
 なお、眼帯の色は黒かった。

 俺は眩暈がした。
 はっきり言って紐パンに見える。官能的なスケスケの黒い女性下着だ。

「私も今日知ったんだ。別の眼帯にした方が良いと説得したが、これしか持ってきてないらしい。・・・母親の手作りだしな。」
 トゥランとフラリスがベンチにいたのは、眼帯の話をしていたからみたいだ。
「そう言えば、フラリスのお母さんはレース編みの名手だったね・・・。」
 作成したレースの展覧会を催す程の腕前を息子の為に発揮したのだろうが、誰もスケスケパンツに見えると指摘しなかったのだろうか。
 フラリス自身に官能的女性下着の知見さえあればとも思ったが、若い女性との接点がない環境だと酷な事かもしれない。

「先人は布越しに見えるように、たくさん小さい穴を空けたり布を網目にしたりしたんだけど、強制力に認められなくて穴や網目が埋まってしまったんだって。で、お母さんが考えたのが、レースにしたらそういう模様の眼帯だと認められるかもしれないって。」
「・・・素敵なお母様ね。」
 子を思う親心を称賛するイコリスの扇子を持つ手は、ぶるぶる震えていた。
「あ、ありがと・・・。でも、ラビネ見たら、やっぱり無理っぽい気がするんだよね・・・」
 フラリスは照れ隠しに、左目にパンツ・・眼帯を当て後頭部でレースリボンを結び、括っていた髪をほどいて前髪を下ろしたので、イコリスの震えには気づいていないようだ。

「僕、先で良いよね。」
「ああ。そうしてくれ。」
 フラリスにトゥランは同意し、俺達と校門前に残る事となった。
 この苦境でとても頼もしく感じていると、トゥランは校門へ赴くフラリスを見つめながら俺達に言った。
「よく耐えたな。峠は超えたぞ。」
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