今日オススメするVRゲームは【娘っち】です。母親になって、娘を産んで育てて、立派なS級冒険者にするゲームです。

もう書かないって言ったよね?

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第10話

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「サクラちゃん。もうお母さんに教えられる事は全て教えたわ。よく今まで頑張りましたね。あとは立派なS級冒険者になるだけよ」

 30日間の訓練なのか、修行なのか分からない日々を終えて、サクラちゃんが冒険の旅に出発する日がやって来ました。もう娘を送り出すのは3回目です。お母さんは涙は見せません。

「お母さん………お母さんは私がいない間、寂しくない? もしも、お母さんが寂しいのなら…」

(ふっふ、本当にどの娘達も良い娘に育ったわね。私の子供だなんて信じられないぐらいに…)

「サクラちゃん。お母さんの事はいいの。あなたはあなたに与えられた事を精一杯頑張ればいいのよ。あなたなら絶対に大丈夫よ」

「絶対に大丈夫……うん! 私、頑張る!」

 絶対に大丈夫は魔法の言葉です。これさえ覚えておけば、絶対に大丈夫です。

「ええっ、その調子よ。もう一度言うけど、ドラゴンには気をつけるのよ。倒したと思っても、不用意に近づいたら駄目よ。死んだフリかもしれないから、念の為に攻撃するのよ」

「もうお母さんは心配症なんだから。その話は何百回も聞いたよ。じゃあ、行ってきます」

 元気に手を振って出発したサクラちゃんを、お母さんは笑顔で送り出します。サクラちゃんの推定レベルは《75》です。クエスト7をクリアする為に必要な推奨レベルは60です。絶対に大丈夫です。

 ★

「お母さんが言ってたようにドラゴンの卵は4つある。この霊峰には風竜と地竜しか住んでいないから。緑色と黄色の卵以外はエッグミミックなんだよね」

 ドラゴンの巣に到着したサクラちゃんの目の前には赤、青、緑、黄色のドラゴンの卵があります。当たりは2個、ハズレも2個です。ルナマリアは本当に運が悪かったようです。

(黄色の卵でいいかな)

「よいしょ。あとは滑って山を下りればクエストクリアだね」

 ドラゴンの卵を背負うと、サクラちゃんは靴底に車輪が付いたローラスケートに履き替えます。あとは転ばないように険しい山道を下りるだけです。

 バサバサ、バサバサ、ゴォーー。

「わぁ~~、まるで風になったみたい♬」

 サクラちゃんは途中から道ではなく、崖を滑り落ちて、ショートカットしています。スピードは現実世界ならば法定速度違反ですが、ここはゲーム世界です。これならば街まですぐに帰れそうです。

 ★

「ご苦労様です。確かにドラゴンの卵です。たまに卵に擬態したエッグミミックを持って来る人もいるんですよ。では、次のクエストを紹介しますね」

 無事にクエスト4をクリアしたサクラちゃんに、冒険者組合のお姉さんから次のクエストが紹介されました。

「《カオス・グリズリー》の討伐ですか?」

「はい、闇のエネルギーによって凶暴化した熊を倒してもらいます。とても危険なので細心の注意が必要ですよ」

《カオス・グリズリー》は、体長4mの途轍もなく大きな熊です。森の大木さえも、二本の太い腕でへし折る事が出来る怪力の持ち主です。好物はハチミツではなく、生肉です。

(お母さんの言ってたクエストがまた来た。お母さんはもしかすると未来を予知する事が出来るのかな?)

 クエストの注意点を冒険者組合のお姉さんが詳しい説明します。けれども、お母さんの説明の方がもっと詳しかったです。どの辺にいるのか、どこが弱点なのか、倒し方さえも訓練の中で経験しているぐらいです。サクラちゃんが負ける要素は何処にもありません。

 トテトテトテと、カオス・グリズリーが暴れ回っている村に向かいます。村の人達は全員避難しているので、今のところの大きな被害は建物だけです。建物が全部壊される前に倒さないと、村人が帰って来ても暮らせる場所はありません。

『ガオオ‼︎ ガオオ‼︎』

 バキバキ、バァギン‼︎

「なんて酷い事を…」

 村に到着したサクラちゃんが見たのは、建物の壁を爪で抉り壊しているカオス・グリズリーでした。これ以上、見るも無残な村の光景を、戻って来た村人に見せる訳にはいきません。さっさと倒して被害を最小限に抑えましょう。

「そこまでです。もうこれ以上、村を壊すのは許しません! 私が相手になります。かかって来なさい!」

『ガルル⁇』

 カオス・グリズリーは声が聞こえた方向を見ます。そこには先端に大きな星が付いた杖を掲げる魔法使いの少女が立っていました。

『ガルグウゥ‼︎ ガア‼︎』

 久し振りに獲物を見つけて、カオス・グリズリーは興奮して一直線に向かって来ました。けれども、それは無意味です。もう対策はバッチリです。

「大地に大きな穴を開けよ《アース・ホール》‼︎」

『ゴォル⁉︎』

 ボコボコ、ゴボォ! 一瞬で地面に大穴が空いて、その中にカオス・グリズリーは落下していきました。レベル次第で穴の大きさは変化します。レベル75のサクラちゃんならば、大きなカオス・グリズリーの巨体も簡単に拘束できます。

『ガオオ‼︎ ガオオ‼︎』と穴の壁に爪を突き立てて、カオス・グリズリーは脱出しようと試みますが、その前にサクラちゃんの魔法が完成しました。

「トドメです。大地を貫け《アース・パイル》‼︎」

 空中にカオス・グリズリーが暴れる落とし穴とほとんど同じ大きさの、巨大な1本の岩杭が作られていました。サクラちゃんが杖を勢いよく地面に向かって振り下ろすと、同じように巨大な岩杭も落下していきました。カオス・グリズリーがいる落とし穴へと。

『ガルグウゥ‼︎』と、落ちてくる巨大な岩杭を受け止めようと、巨木さえもへし折る逞しい2本の腕を空に伸ばします。もしかすると、もしかするかもしれません。

 プチィ、ドォーン‼︎ 残念ながら、受け止めるのは失敗しました。カオス・グリズリーは呆気なく、ペシャンコにされてしまいました。力の差は当然ありましたが、それ以前にサクラちゃんは、お母さんとの訓練で落とし穴と杭を散々作らされました。この程度のクエストでは苦戦しません。

「わぁーい♬ お母さんの言う通りにしたら簡単に倒せたよ。お母さんはやっぱり凄いなぁ~」

 本当に凄いのは最速攻略者の大ちゃんですが、手柄は全てお母さんに持っていかれます。純粋なサクラちゃんは現実世界の悲しい真実は知らなくてもいいのです。

「さてと、街に戻って報告しないとね。お母さんの話なら、次は《メタルゴーレム》だったよね。本当かな?」

 トタトタトタと街に向かって歩き出します。残るクエストは2個だけです。サクラちゃんは無事にS級冒険者になれるのでしょうか?

 ★





 









 

 
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