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第1章・廃棄ダンジョン編

第9話・代償魔法《アンミリテッド・キル》

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 代償魔法《アンミリテッド・キル》は島民1人の命を代償に5分間だけ、レベルが100アップする魔法です。魔法の効果や時間は重ね掛け出来ませんが、その力は強大です。

 今のルインのレベルは《101》です。ゴブリングールの中で1番強いのでも、レベル《48》です。

 …遅い。

 ルインの目にはゴブリングール達の動きがさっきよりも遅く見えます。彼らが巫山戯ている訳でないのなら、倒す事は可能です。左手に持っている白い骨槍をゴブリングールに向かって全力で投げつけました。

「ギャア‼︎」

 ドォス‼︎ドォス‼︎ドォスン‼︎

 白い骨槍が2匹のゴブリングールの胴体を貫通して、3匹目の左胸に突き刺さって止まりました。

「強イ。コイツ、強イ」

 ゴブリングール達は慌てて床に落ちている、ルインに投げつけた骨槍を拾おうとしますが、緩慢な動きです。アイアンダガーが次々とゴブリングールの首や胴体を深く抉っていきます。

 ミシミシ‼︎ミシミシ‼︎

 音を立てて、アイアンダガーのつかが悲鳴を上げています。これ以上は武器の限界のようです。もう壊れるのは時間の問題です。

 思った以上に身体が硬い。いや、アイアンダガーの切れ味が落ちているのか。使えなくなる前に切り替えないと駄目だな。左腰の鞘にアイアンダガーを収めると、右拳を強く握り締めました。

 ドォスン‼︎

 鋭い右拳のパンチがゴブリングールの胴体にメリ込みました。けれども、一撃で殺しきるには足りなかったようです。

「グヴべッッ‼︎…ヒッヒッ…ヒッ…ツ…捕マエタ」

 ゴブリングールの長い2本の手が、力一杯、ルインの身体を押さえ込みました。このチャンスを他のゴブリングールが見逃す訳がありません。白い骨槍をルインの背中に突き刺そうと素早く接近します。

「臭いんだよ、お前ら。これで押さえているつもりかよ?」

 今のルインにとって、ゴブリングールの力は非力なものです。この程度の力では押さえ込む事は不可能です。

 ドォスン‼︎バキバキ‼︎

「ゴヴッフ‼︎…ヒッ…ヒッ…」

 もう一度、同じ場所を右拳で思い切り殴りつけました。折れた骨が身体を突き破って飛び出していますが、まだまだゴブリングールは死にません。

 あっあ‼︎しぶとい‼︎

 普通のゴブリンならば死ぬような致命傷でも、アンデッドのゴブリングールならば簡単には死にません。確実に殺したいのならば、胴体から首を引き千切るしかありません。

 ルインはゴブリングールの腰に両腕を回すと力を込めます。それだけで背骨がメキメキと折れそうですが、狙いは違います。そのままゴブリングールを抱えて前に向かって走り出しました。

 …潰れろ。

 グゥシャ‼︎

 古城といっても、造りはしっかりとしているようです。力一杯、石壁にゴブリングールを打つけても壊れるどころか、ビクッともしません。石壁に打つけられた衝撃でゴブリングールは背骨が折れてしまったようです。それでも、まだ生きているようです。呼吸があります。

「チッ‼︎」

 ドォン‼︎バァキィン‼︎

 ルインは乱暴にゴブリングールを地面に叩きつけると、首の骨を右足で踏み付けて砕きました。さらに頭部を思い切り蹴り飛ばしました。ここまでされれば、さすがに死んでしまいます。

「さっさと死ねよ‼︎こっちは時間がないんだよ」

 残り時間はまだ3分以上ありますが、それでも生きているゴブリングールの数はまだ15匹はいそうです。生命力の強さが異常なので、簡単には殺せません。この廃棄ダンジョンが放置されていた理由はこの点かもしれません。

「投ゲルゾ。投ゲルゾ」

 骨槍を頭上に抱えて、ゴブリングール達がルインに狙いを定めています。最初にルインを殺した骨槍の集中砲火です。

 来る‼︎右…左、いや上だ‼︎

 ルインは両足に力を入れて2階に向かって飛び上がりました。5mはジャンプしないと、とても2階には上がれませんが、今のルインならば可能なようです。5mを楽々と超えて、10m近く飛び上がりました。高い天井なので頭を打つけずに助かりました。

「なっ⁉︎」

 ぐっ‼︎予想以上に身体能力がアップしている。それに滞空時間も長い。第二射があれば避けきるのは難しい。つ…やっぱりか。

 ルインの予想通り、1階では骨槍を構えた2匹のゴブリングールが狙いを定めています。

 どっちだ?空中、それとも着地の瞬間を狙うのか。

 1階に向かって身体は落下を始めましたが、以前とゆっくりと時間は流れて見えます。2階の木の手摺てすりに掴まる事は可能ですが、腐っている可能性も高そうです。だとしたら、木の手摺りよりも、2階の石の床を掴んだ方がマシです。

 1階、2階、どちらを選んでも僅かな隙は作ってしまう。だとしたら…。

 考えが決まると、急いで左腰の鞘に収めていたアイアンダガーを右手で抜きます。1匹のゴブリングールに向かって、全力で投げつけました。

 アイアンダガーは凄い速さで飛んで行きます。避けられるはずはありませんが、練習もした事がない投剣が狙った場所に当たる訳がありません。

 ガァン‼︎

「痛イ」

 頭を狙ったはずが、胸の中心にアイアンダガーは命中しました。身体に刺さらず、ただ、当たっただけです。それでも、片方のゴブリングールを怯ませる事に成功しました。ルインは無事に1階に着地すると、飛んで来た骨槍の1本を軽々と横に少し移動して避けました。

 少し速い程度なら避ける事は出来る。次はこっちの番だ‼︎

 ルインは床に落ちている骨槍を素早く拾い上げます。狙いを定める必要はありません。ゴブリングール達は馬鹿みたいに横になって並んでくれています。投げればどれかに当たります。

 ブーン‼︎ドォスン‼︎

「グゥベ‼︎痛イ。痛イ。痛イのヤダ」

 飛んで来た骨槍が胸に刺さります。でも、ゴブリングール達は心臓や臓器が破壊されても、数日間は平気で生き続けます。この程度の攻撃では駄目です。

 遠距離では駄目か。やっぱり頭部破壊が1番効果的だろうな。だとしたら、接近して眼球に槍を突き刺した方が確実だろう。ヒットアンドアウェイ…素早く刺して、素早く退がる。俺の命じゃない。死ぬのは必要最小限でいい。

 ゴブリングール達の足元には、喉から血を流す、セルカ島の住民《ベン・フレミングス》が死んでいます。

 もしかしたら、助けられたかもしれません。もしかしたら、助けても代償魔法によってすぐに死ぬのかもしれません。それはまだ分かりません。でも、目の前には確実にベンを殺した犯人がいます。城を逃げるにしても、まずはここにいる全員を殺してからです。

 ゴブリングールの誰も白い骨槍を持っていません。無手の相手に武器で襲い掛かるのは普通は心が痛むものです。人間相手ならばそうかもしれませんが、相手は人殺しのモンスター達です。殺す理由はそれで十分です。

「セイヤッ‼︎」

 ドォスン‼︎

「ガァ…‼︎ギィ…‼︎」

 しっかりと右手で骨槍を握ると、ジャンプしてゴブリングールの左眼奥深くに突き刺して殺します。まだ声ぐらいは出せるようです。やはり、即死させるのは難しいようです。

 ゴブリングール達の身長は平均180㎝前後はあります。普通のゴブリンが130㎝程度なので、ルインの身長よりは少し高いです。頭部だけを狙っていては、すぐにゴブリングール達に何処を狙うか勘付かんづかれてしまうでしょう。ルインもそれは分かっていました。

 ルインが細くて長い足を蹴りつければ骨が折れました。腕を掴むと力一杯、床に頭部を打つけて粉砕しました。ルインが激しく動くたびに呼吸が急激に苦しくなります。モンスターを圧倒して倒しているはずが、少しずつ身体に力が入らなくなっていきます。

 ぐうっっ⁉︎頭が痛む。おかしい、時間切れか?

 自分の身体を見ても、レベルは《101》のままです。原因は他にあるようです。残り時間は、まだ1分弱はあるはずです。だとしたら、原因はこの場所にあります。

「ハァハァ…ハァハァ…毒か⁉︎」

 一度死んだのものの、生き返ってから約3分以上経過しました。この城内は完全にアンデットに有利な毒環境です。空気は汚染されています。毒の対策も無しに入るのは命知らずの馬鹿がする事です。

 なるほどな。短時間での短期戦もここだと通用しない手なのか。おそらくは呼吸器系のほとんどが空気毒でやられて異常状態だな。回復薬と解毒薬は一応は持っているけど、効果は期待出来ない。残りの短時間でやるなら、あの大きな木扉を破壊して逃げるしかないな。

 まだ、殺すべきゴブリングール達は半分近く残っています。9~10匹程度は殺したはずですが、城の奥の方にはまだ姿を見せていないゴブリングールが潜んでいるかもしれません。今は感情を押し殺して、《ルカテリナ》の街に逃げる事をルインは決断しました。

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