代償魔法《デッド・オア・キル》〜260人の命を背負う不死身の冒険者〜

もう書かないって言ったよね?

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第1章・廃棄ダンジョン編

第12話・街への帰還

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「ヤバイ‼︎逃ゲナイ‼︎コッチに来タ‼︎」

 3匹のゴブリンは掲げていた骨槍を放り捨てて、草むらの中に慌てて逃げ込みました。どうやら、城の中に閉じ込めた冒険者が、力尽くで城から脱出したと勘違いしたようです。

 逃げた?…俺が強いと勘違いしたのか。どちらにしても今が絶好のチャンスにかわりない。

 警戒していたゴブリン達がいなくなりました。ルインは走るスピードを落とさず、そのまま真っ直ぐに出口に突き進みます。

(アイツ、生キテル。強イ。強イの駄目)

 ゴブリンに追われて、城の中に逃げ込んだルインが今度は恐れずに向かって来ます。強いのか、弱いのか、ゴブリン達にはレベルが見えないので分かりません。それでも、今まで城に入った冒険者で、ここまで逃げて来られた冒険者はいません。強いのか、弱いのか分からない相手と戦う命知らずの馬鹿は、ゴブリンにはいません。

 よし…もう大丈夫だ…もう戦わなくていい。

 ゴブリン達がいなくなった事で、簡単にダンジョンを脱出する事が出来ました。ルインは結界を通り抜けました。

「ハァハァ…ハァハァ…」

「逃ゲタ?逃ゲルの弱イ。弱イの殺ス」

 ダンジョンの前で走るのを止めると、立ったまま少し休憩します。乱れた呼吸を急いで整えます。ルインにとっては何もない空間を通り抜けただけですが、ゴブリン達にとっては透明な壁が立ちはだかるようです。外にいるルインに向かって、ゴブリン達が中から喚き散らしています。ルインが拳を上げて向かって行けば、ゴブリン達は蜘蛛の子を散らすように慌てて逃げるでしょう。負け犬の遠吠えです。

 まずは目的達成と思っていいと思う。街に戻ってギルドに報告したら、今日はもう寝よう。今日はすごく疲れたよ。

 ルインが疲れるのは当たり前です。今日の朝にセルカ島から、このアルビナ大陸に飛ばされて、レベル40のゴブリングール達を1人で倒したのです。疲れないはずがありません。

 ゆっくりとゆっくりとルカテリナの街に歩いて向かいます。長い長い戦いの後のように身体も心も疲労しています。でも、実際はたったの数十分の戦いです。その数十分の戦いで4人もの住民が死にました。

 ルインは島民4人の命の代償に、16匹のゴブリングールを殺しました。島の人間1人の命はゴブリングール4匹分なのでしょうか。

 そんなはずはない…そんな訳がない‼︎俺にもっと力があれば、俺がもっと慎重に行動すれば良かったんだ‼︎もしかしたら、誰も死なずに済んだかもしれない。俺が殺したんだ…。

 どんなに自分を責めても死んだ人間は生き返りません。自分を責める無駄な時間があるのならば、どうすればこれ以上誰も死なせずに済むか、それをしっかりと考えるべきです。でも、子供のルインにそれを言っても仕方ありません。誰もルインを責める事は出来ません。

 街までの帰り道も警戒を怠る訳にはいきません。モンスターが現れる可能性は低いですが、0ではありません。しかも、今は武器の1つも持っていません。全てが足りません。予備の武器も必要です。大穴が空いた服も買い替える必要があります。そして、何よりもお金が必要でした。

 ❇︎

 ❇︎

 ❇︎

 ルカテリナの街に無事に到着すると、冒険者ギルドに向かう前に服を買い替える必要があります。自分の血にゴブリングールの血や体液、それ以外にも城内の悪臭が服にも身体にも染み付いています。

 ああっ…身体も洗わないと駄目だな。やっぱり今日は宿屋に泊まって、明日の朝にギルドに向かおう。

 ルカテリナの住民達がルインを見て、嫌な顔をしています。どう考えても、臭いのでしょう。それほど広くないみちをルインを大きく避けて通っていきます。

「…やっぱり、島とは違うな」

 セルカ島でこんな格好で歩いていたら、すぐに誰かが声をかけて助けてくれた。人が多過ぎる街はこういうものなのかもしれないな。それとも、この街だけなのだろうか…。

「そういえば…今日は1人か。いつも母さんとルルカと家で一緒だったから、1人になるのは生まれて初めてかもしれない。これが島を出て冒険者になるって事か…母さん、ごめん」

 街では屋根のある場所に寝るだけでお金が必要になります。島の中ならタダで出来る事が、この街では全てお金が必要になります。島で頑張って貯めたお金が、あっという間に減っていきます。お金と共に島の思いでも消えてしまいそうな気がします。これ以上は何も奪われたくないと、ルインは沢山ある宿屋の中で、1番安い宿屋で眠る事にしました。

 ❇︎

 翌日の朝、宿屋代3000ゴールドを支払うと、飲食店を探します。こんな状態でもお腹は減ってしまいます。昨日は昼ご飯以外は何も食べていません。せっかく食べた物も城の中で吐いてしまいました。手持ちのお金は《1万5000ゴールド》程度です。安くて、量が多ければ味は気にしてはいけません。

 朝から開店している飲食店は少ないようです。あちこちと探し回って、やっと10人ぐらいしか入れないような狭い店を見つけて入りました。中にはお客は誰もいないようです。

 500ゴールドでパン2個、目玉焼き、ハム、スープ付きか…贅沢は出来ない。これにしよう。

 メニュー表の中から1番安くて良さそうな料理を選ぶと、店のカウンターで暇そうに新聞を広げて読んでいる店主を呼びました。

「すみません。これをお願いします」

「はい。モーニングセットね。2、3分待っててくださいよ」

(腕と顔に擦り傷が出来てやがる。新米冒険者か…若いな)

 どうやら男の店主が1人で店を切り盛りしているようです。もしかすると本格的な料理の店ではなく、趣味のような店かもしれません。ガラガラの店内です。味はあまり期待しない方が良さそうです。

「はい。サービスしておいたよ」

「すみません。ありがとうございます」

 この店は初めて来た店なので、いつもとどう違うのか正直分かりません。とりあえずはお礼を言うぐらいしか出来ません。

 丸パン2個。目玉焼き2枚。焼いたハム3枚。ジャガイモとタマネギが入ったコンソメスープか…ハムが1枚多いのか?それとも、コンソメスープの野菜の量が多いのだろうか?

 とりあえずコンソメスープから飲む事にしました。このスープの味ぐらいしか、店主の料理人としての腕を評価する事は出来そうにありません。

 ズッズッ…。

 あっ~、味が濃い過ぎる。多分、店主の好みだろうな。よく見たら目玉焼きとハムに塩、胡椒が多く振りかけられているし…。

 店主のお腹も結構でっぷりとしています。どう考えても食べるのが好き過ぎて、料理の店を始めた感じです。潰れるのは時間の問題だと思います。

「ご馳走様でした。お金はテーブルの上に置いておきますね」

「ちょっと待ちな。パンが余っているんだ。少し持ってけ」

「ありがとうございます。助かります」

「気にするな」

(頑張れよ、若造)

 渡された紙袋の中には丸パンが5個入っていました。丸パンはカチカチです。どう考えても昨日の売れ残りのようです。食べられそうですが、この店が潰れるのは確実でしょう。

 ガリガリ‼︎ガリガリ‼︎

「あの店には二度と行かないだろうな」

 固い丸パンを齧りながら、冒険者ギルドに向かいます。ルインの今の格好はズボンに薄茶色の半袖シャツだけです。昨日着ていた服は、破れた部分を糸で無理矢理に縫えば使えそうですが、サイズがかなり小さくなってしまいます。子供用ならばピッタリかもしれません。

 替えの着替えもこれだけだし、服を買うよりは丈夫な防具を買った方が経済的かもしれないな。冒険者達がわざわざ重い防具を装備する訳だ。戦闘で服が破れたら服代が勿体ないよな。

 防具は身体を守る為だけではなく、着ている服も守ります。命だけではなく、服代も守ってくれます。出来るだけ、お金に余裕がある時は買うべきです。

 さてと、どのぐらいレベルアップするだろうな。

 冒険者ギルドの前でルインは考えます。昨日の今日でレベルアップするのが自然な事なのか正直分かりません。一般的な冒険者はもっと時間をかけて、少しずつレベルアップするものかもしれません。少し緊張しながら、冒険者ギルドに入って行きました。

 ❇︎



 

 

 

 

 

 

 
 
 

 

 

 
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