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第1章・廃棄ダンジョン編

第13話・レベルアップ

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 まだ朝早い方なのに、結構な人数が冒険者ギルドの建物に既に入っていた。おそらくは依頼人とクエストを受けに来た冒険者だろう。達成したクエストの報告をするのなら夕方の方が多いと思う。

(おや?あれは昨日、登録したばかりの冒険者でしたね。聞きたい事でもあるのでしょうか?)

「おはようございます。ルインさん。今日はどのようなご用件ですか?」

 あっ!昨日の目薬の人か。よく名前を覚えていたな。えっ~と、《ゴルベット》さんか。

「おはようございます。ゴルベットさん。モンスターを倒して来たので経験値を貰いに来ました。少し待てば出来るでしょうか?」

 男性職員の左胸に付いている名札を見てから、ルインは挨拶しました。これからギルド職員とは長い付き合いになるかもしれません。名前ぐらいは覚えていた方が良さそうです。

「ええ、それならばすぐに出来ますよ。専用の部屋まで案内しましょう。クエストを受けるのならば、もうしばらくは待つ事になります。この時間帯は依頼人と冒険者でいつも混んでいるんですよ」

「そうなんですか…」

 こっちはお金がないから簡単なクエストでもいいからすぐに受けたいのに。昨日と一緒なら昼前は空いているかもしれないな。武器を買ってからもう一度来るしかないか。

 昨日とは違う部屋に向かうようです。どうやら、レベルアップは冒険者が各自でやる事で、ギルド職員の立ち会いも許可も必要ないようです。

「こちらです。その床の魔法陣の上に立って、創造神に祈れば経験値が与えられます。レベルアップに必要な経験値が集まれば、レベルアップ完了です。さあ、論より証拠です。どうぞ、試してください」

「はい」

 ゴルベットに案内された部屋には、床や壁に黒の魔法陣が5つ描かれていました。ルインはゆっくりと床に描かれた魔法陣の上に乗ると、創造神テロスに向かって祈り始めました。

(レベル2ぐらいでしょうか。時間的にもそのぐらいが妥当ですね)

 ゴルベットは安全な人口ダンジョンでルインがお金を払って、モンスターを倒して経験値を集めて来たと思っているようです。ルインの祈りに反応して、黒の魔法陣が次々と赤い輝きを放ち始めました。

(レベル2…3…4…んんっ?5…6…7…どういう事ですか?まだ、上昇している。昨日の今日でこれは…)

 ゴルベットは魔眼でルインのレベル変化を確認していました。けれども、予想した所では止まらず、ドンドン上がり続けています。長い事、冒険者ギルドに勤めていてこんな事は初めてです。

「凄い‼︎凄い‼︎レベルがどんどん上がって行く!」

 ルインは魔眼で自分の身体を見ていました。目的のレベル10はとっくに超えました。あとは何処まで上がるか確認するだけです。

「君は一体何を倒してきたんだ?」

 普通は数十秒で魔法陣は赤く輝くのを止めてしまいます。ルインのレベルアップが完了したのは数分後、ルインのレベルが《26》になった時でした。

「ルイン君…いや、何でもない。レベルアップ、おめでとう。随分と頑張ったようだね」

(不正が出来る訳がない。神の目を誤魔化す事は何人たりとも不可能だ。彼を疑う事は神を疑う事と同じ事だ)

「ありがとうございます。ゴルベットさん。それとギルドとは関係ない話なのですが、武器を壊してしまって、安くて品揃えが良いお店を知っていたら教えて欲しいのですが…」

 普通に新品の武器を買うのなら最低でも10万ゴールドは必要です。今のルインに買えるのは中古の武器だけです。それでも2~3万ゴールドはするはずです。まずはクエストでお金を稼ぐしかありません。

「そうですねぇ…予算は1万ゴールドですか?でしたら、武器を買うよりは生活費に回した方がいいと思いますよ。もちろん、戦闘専門の冒険者を目指すのであれば、武器を買うのもよろしいと思います。ですが、その予算では街の武器屋で買える武器はないと思いますよ。採取系のクエストも多いので、今はそちらに専念してお金を稼ぐ方が無難なはずですよ」

「そうですねよね。ありがとうございます。また来ます」

「お待ちしております」

 当たり前の事を当たり前のように言われてしまった。事情を知らなければ普通はそうするだろう。でも、こっちは時間がない。クローリカに言われた目標のレベル10よりもかなり上のレベル26になった。あとはクローリカからの連絡を待つだけだった。

 今日来るのか、明日なのか、それとも1週間後なのか、それは分からない。ただ待つだけにもお金はかかる。今、俺に出来る事はお金を稼ぎながら強くなる事だけだろう。ギルドのクエストを参考にするのなら、一般的な魔法使いを倒すにはレベル260は必要になるらしい。まだ全然足りない。もっと強くならなければならない。お前を殺す程度には。

 今、ルインが頭の中で考えている事は当然のように、クローリカに伝わっています。それを承知でルインは考え伝えています。少しは怒りを打つけないと気が済みません。そんなルインの前に1人の見知らぬ男が現れました。

「レベル26か…予想よりも随分と早いな」

「……誰ですか?」

 予想より?蒼い透き通るような髪に黒の服の上に銀の鎧、左腰には長剣を携えている。冒険者のようだけど、年齢は23ぐらいか。知らない人のはずだ。

「お前、ルイン・バンクスだろう。クローリカの伝言を伝えに来た。『昨日の城を残り6日で人が住めるようにしろ』だそうだ。意味は分かるな?」

 この男、クローリカの仲間か!レベル53。強い。強いけど倒せないレベルじゃない。人質、いや、拷問すればクローリカの居場所を吐かせられるかも。近くにギルドもある。何とかなるかもしれない

「どうした返事はなしか?一応は伝言は伝えたからな。従うも逆らうもお前の好きにすればいい。じゃあな…」

「待ってください!あの城を人が住めるようにするのと、クローリカと何が関係あるんですか!それにあなたは誰なんですか。クローリカの仲間ですか?」

 逃がさない!街中で戦闘になると被害者が出てしまうけど、騒ぎを聞きつけて街の警備の人が来るかもしれない。そうなれば逃げる事は出来ないはずだ。

「そうだな。お前次第でこれから長い付き合いになるかもしれない。私の名前は《ウェイン》。あの古城のモンスターを全て排除しろ。そうすれば、あの城に島の人間を全て移す。残り6日だ。せいぜい頑張るんだな」

「島の人を移す?解放するという事ですか?」

 ❇︎

 






 
 



 


 

 




 
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