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第1章・廃棄ダンジョン編

第17話・迫る火の海

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(これで4匹。ゴブリングールの数は予想では最大で50匹ぐらい。さすがにゴブリンの数は5倍の250匹程度ぐらいだろうな)

 ズボォ!

 ルインはゴブリンの胸に突き刺さっている骨槍を一気に引き抜きます。残り6日しかないのに、古城の周囲を好き勝手に繁殖しているゴブリンの数は不明のままです。

 おそらくはゴブリン達はこの茶色の草を食べて飢えを凌いでいるようです。目の前にはガリガリに痩せているゴブリンが死んでいます。

(レベルが高い、太ったゴブリン達は、おそらくは共喰いしているな。そのゴブリンをゴブリングールが食べるという仕組みか)

 つまりはゴブリンを全滅させれば、ゴブリングールが飢えて死ぬか、共喰いを始めます。最後のゴブリングールの1匹が、痩せたゴブリンのように、茶色の草を食べて生きながらえている光景が目に浮かびます。

 でも、そうなるには時間がかかります。もっと早く全滅させる方法を見つけないといけません。

(さてと、やるか…)

「…殺シタ。俺ガ殺シタ。コノ餌、俺ガ全部食ベル!食ベル!」

 ルインはゴブリンの真似をして片言で喋ります。こんな罠にゴブリン達が簡単に引っかかるとは思えませんが、骨槍で草を豪快に揺らして、そこに喜んでいるゴブリンがいると思わせます。

(騙されて近づいて来た奴を、1匹ずつ始末する。さっさと来いよ)

「駄目ダ!餌、分ケル!1人、ダメ!」

「何処?餌、何処?」

 早速、反応がありました。でも、次の瞬間には多数の骨槍の雨がルインの目の前に降り注いで来ました。

 ヒューン! ドォス!ドォス!ドォス!

(危ねぇ‼︎どういう事だ?)

 目の前の地面に突き刺さっている骨槍は少なくとも16本以上はあります。独り占めひとりじめしようとしたゴブリンへの制裁だとしたら、やり過ぎです。死んでしまいます。

「コイツ、バカ。俺達、餌、手に入レタラ、誰ニモ教エナイ。コイツ、バカ!」

 ゴブリン達の馬鹿笑いが近づいて来ます。確かに誰にも教えなければ、餌は独り占め出来ます。空腹状態の時にわざわざ食べ物があると教える馬鹿はいないでしょう。取り合いになるだけです。

 ルインは馬鹿だと思っていた相手に、逆に馬鹿にされてしまいました。今すぐに飛び出して、殴って、刺して、酷い目に遭わせたいですが、まだ我慢です。

(クッ!武器を失ったお前達の方が馬鹿だ!さっさと来い。皆殺しにしてやる!)

 戦闘では感情的になった方が負けるらしいです。今のルインの感情は恥ずかしさと怒りでしょうか?右手に握る特殊短剣を早くゴブリン達に突き刺したくてウズウズしています。

「気ヲ付ケロ。この餌、城から逃ゲタ。油断スルト危険!」

 どうやら、地面に突き刺さっている槍以上のゴブリンがいるようです。ルインの目には沢山の宙に浮かぶ赤文字達が近づいて来るのが見えます。

(扇状の包囲網か……前には逃げられないし、後ろに後退するしかないけど、それが狙いかもしれない。多勢に無勢、ここは少し後退して様子を見たいけど……)

 近づいて来る赤文字の中で一番大きいのは《23》です。1対1ならば勝てるはずです。でも、戦いとはちょっとした油断で形勢が逆転してしまいます。後方には赤文字が見えません。見えないだけかもしれません。目に見えるものだけを信じるのは命取りになります。もしもの場合も考えないといけません。

(よし!右旋回して右翼側のゴブリンを気付かれないように少しずつ倒そう。気付かれた場合は一気に左翼に移動して、同じように少しずつ……)

 死なないようにルインは慎重に行動と選択を繰り返していきます。着実にゴブリンの数は減ってきていますが、ダンジョンに入ってから50分、殺したゴブリンの数は12匹です。昨日のように隠れて戦いを観察してウェインの我慢は限界のようです。

 ❇︎

「…全く、昨日と同じでノロノロと。見ているだけで、これ程に苛々させられるとはな…」

(…おそらくは神の目を気にして、火が使えないのが手間取っている原因だろうな。この草に油を撒いて火を付けるだけで、害虫共は1匹残らず駆除出来るだろう。まあ、それをやった場合は一発で冒険者登録を剥奪されるだろうな)

 そもそもレベルアップは必要ありません。人が住めるようにモンスターを殲滅する事がウェインがルインに与えた指示です。ルインが代償魔法を使わないように大量にいるゴブリンを倒して、ゆっくりと着実にレベルアップしようとするのが問題なのです。

 パチパチ! メラメラ!

 ウェインの右手には火の付いた松明が5本握られています。

「お前に出来ない事を代わりにやってやろう。大丈夫だ。お前は簡単には死なないのだからな」

 ブン! ブン! ブン! ボォォー‼︎

 次々と松明を草むらの中に投げ入れいきます。すぐにパチパチと火が草に燃え移って広がって行きました。大量の白煙が空に向かって伸びていきます。

「さあ、これで少しはやり易くなっただろう。くっくく、焼け死にたくないのなら、早く城の中に避難するんだな」

 火の手は古城に向かって、ゆっくり前進して行きます。こんな簡単な方法があるのに、誰も使おうとしません。古城と結界に被害が出る事を恐れているのです。そんな事は気にせずに多少の破損は受け入れるべきです。壊れたら修理すればいい。ただそれだけです。人と違って物は直す事が出来るのですから。

 ❇︎

「逃ゲロ!逃ゲロ!変ナノが襲って来タ!」

 ルインの後方、ダンジョンの出入り口の方から大量のゴブリンが慌てて走ってきます。

(変なの?あっ‼︎)

 後ろを振り返ったルインの目にはモクモクと空に昇る白煙と、草の絨毯をゆっくりと燃え進む炎の海が見えました。

(何処の馬鹿だ!火を付けやがったのは!)

 もしかすると他の冒険者がこのダンジョンに挑戦しに来たのか?でも、こんな場所で広範囲に燃え広がる火を使ったら、結界が保たない。冒険者がそんな常識も知らないとは思えないけど……。

 結界にも耐久力があります。限界を超える衝撃や負荷を加えると壊れてしまいます。当然、壊れたら中のモンスターが外に逃げ出す事になります。冒険者ギルドの禁則事項にしっかりと、『結界を破壊する恐れのある行為を意図的に行った冒険者は登録を永久剥奪する』と書かれています。

「走レ、走レ!家に入レ!」

 ゴブリン達は我先にと古城を目指して走って行きます。普段は絶対に中には入りません。入れば餌として食べられてしまいます。今は緊急事態です。皆んなで入れば、ゴブリングールが食べきれる量を軽く超えています。火と煙で焼け死ぬよりはマシです。

 ドタドタ! ドタドタ!

 草の茂みに隠れているルインを置き去りに、目の前をゴブリン達は走って行きます。もう、ルインの後ろには誰もいません。パチパチと音を立てて火の海が近づいて来るだけです。

(あぁ、絶好のボーナスステージだと本当は喜ぶべきなんだろうな。代償が無ければ、そうだっただろうな)

 古城の扉が開いた事で、ルインの所までガランガランと侵入者を知らせる音が鳴り響いています。どうやら、あの音が聞こえたら、通常はゴブリン達は外から扉を押さえて、入った餌が逃げられないようにするのでしょう。今は左右の扉が完全に開いています。沢山のゴブリンが城内に雪崩れ込んで行くのが見えます。

(150匹…175匹ぐらいか。1匹残らず城の中に入ったら絶対に逃さないようにしないとな)

 ゆっくりと立ち上がると古城へと続く砂利道を歩いて行きます。今、最後のゴブリンが城の中に避難したようです。木製の大扉をゴブリン達が閉め始めました。

「5分で皆殺しにしてやる…代償魔法《アンミリテッド・キル》‼︎」

 代償魔法《アンミリテッド・キル》発動‼︎

 残り253人……。

 ❇︎

 

 








 
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