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第3章・水と迷宮の守護者編

第31話・ゾディアックストーン

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 1泊銀貨5枚。5000ゴールドの宿屋にチェックインすると、まだ晩ご飯の時間まで、時間があったので風呂で身体についた海水を洗い落とす事にした。ついでに汚れていた服も着替えたかった。

「ふぅ~~、生き返るぅ~♬」

 男女別々の大浴場の湯船に浸かると、身体がすぐにポカポカと温まっていく。クローリカが島にやって来なかったら、こんな風にのんびりと父さんを探す旅が出来たのだろうなと思ってしまう。

「すべてが解決したら、出来るだろうか……」

 正直、強くはなっている。冒険者だった父さんのレベルは確か88と聞いていた。父さんが何年もかかって上げたレベルを、気づけば自分は簡単に超えてしまっていた。

 どう考えても異常な速さでレベルを上げさせているのは分かっていた。

 予想ではウェインの強さは多分ランク5以上。レベル200~250か、それ以上のレベルである可能性が高い。

 デレスを殺して、彼が持っていた腕輪を単独で奪う事は十分に可能な強さだろう。それを踏まえて俺を強くする理由があるとしたら、1つは戦力の増強、もう1つは……デレスの代わり。

 もしも、腕輪を作っているのがクローリカならば、船の上でのウェインの言動にも理由がつく。

「腕輪を持つに相応しい資格か。デレスはその資格がないと判断されて、代わりの人間が用意された。それが俺という事か?」

 強さ? 品格? それだと基準がいまいち分からない。資格と言っても色々あるだろうし。やはり、何かしらの理由があって戦力増強をしていると思った方がいいかもな。もしかすると、俺を強くして魔法使い協会に殴り込みさせようとしているだけかもしれないし。はっは、それはないな。

 風呂からあがると、臨時収入が大量に入ったので、今度は宿屋の近くの店で買い物をする事にした。どう考えても、そろそろ替えの服が必要になる。戦うといつも服が汚れるし、破ける。どう考えて、一度に大量の相手と無理して戦うのが原因である。

 1枚500ゴールドの安物のシャツを2枚。そういえば下着も替え時かな。こっちも1枚500ゴールドとなかなかお手軽価格だった。ズボンぐらいは少し高いのでいいかもと思い、銀貨8枚の丈夫そうなズボンを2着購入した。やっぱり、お金があると安心できる。

「そろそろ晩ご飯の時間だから、戻らないとな」

 一昨日と同じならば、ウェインがテーブルに座って、無銭飲食をしているだろう。もしも一昨日と同じ料理だった場合はさすがに唐揚げと酢魚は飽きてしまった。今日は麺類のスパゲッティか、魚介類が入ったピラフでいいかもしれない。

 宿屋に戻るとちょうど料理人が大皿に入った料理を並べている所だった。もうチラホラと宿泊客がテーブルに座って待っていた。まだ、ウェインはやって来ていなかった。

 ウェインの手紙に『宿屋で連絡を待て』と書いてあったので、今日じゃないのかもしれない。だとしたら、料理を食べてゆっくりしよう。明日の朝にはギルドに行って短時間で出来そうなクエストを受けてみよう。だって、冒険者になったのに、1回もきちんとクエストを受けて、報酬を貰った事がないのだから。

「はじめまして。私はマリー・タリアス。アトラスの代わりよ。早速だけど部屋で話しましょうか」

 モグモグとスパゲッティを食べていたら、知らない女性が話しかけてきた。眼鏡をかけた黒髪ショートカットの可愛い女性だった。可愛いけど、目つきが鋭くて神経質そうな性格に見えた。少し年上かな?

「アトラス? そんな人知らないと思いますが、人違いじゃありませんか?」

「知らない? そんなはずはないと思うのだけど、ウェイン・アトラスの事よ。本当に知らないの」

 そういえば一度も下の名前を聞いた事がありませんでした。アトラスとはまた大層な名前です。神々の戦いに敗れた巨人の一族と一緒です。

「そいつなら知ってるよ。ちょっと待って、すぐに食べ終わるから」

 小皿一杯のスパゲッティを急いで食べると、泊まっている2階の部屋に案内する。今日会ったばかりの知らない女性と部屋で2人きりになると想像すると、ちょっとだけドキドキと鼓動が速くなってしまった。

 部屋の扉を開けると、マリーがルインを押し退けて先に部屋の中に入っていきました。そして、一つしかない椅子にドカッと座ると早速用件を話し始めました。

「まずは仲間入りおめでとう。《ゾディアックストーン》を手に入れた事で、あなたは超人的な力を操れるようになった。でも、あなたが手に入れたパイシーズはゾディアックストーンの中でも最下層の格下よ。自惚れない事ね」

 マリーは赤色のローブを捲ると、白くて細い右腕を見せてきました。その右腕には黄緑色に輝く宝石が嵌め込まれた腕輪がつけられていました。

「ゾディアックストーン……それがこの宝石の名前なんですね。あなたも、マリーさんもクローリカやウェインに無理矢理にこんな事をやらさせているんですか? クローリカの目的を知っていたら教えてください! こんな馬鹿げた事は早くやめさせた方がいいです」

「ハァッ⁇ 何か勘違いしているようだけど、私は脅されて協力している訳じゃないわ。それに馬鹿げた事とは私には思えないわ。むしろ、感謝しているぐらいよ」

 マリーの顔を明らかに不快感を表しています。彼女からしたら、ルインの考えの方が馬鹿げているのでしょう。どう見ても、一緒にクローリカを倒そうとは言い出せません。

「さてと、こっちはあなたの質問に答えるつもりはないわ。あなたにはまずはコイツを殺してもらうわ」

「この格好は教会の神父ですか?」

 マリーは1枚の写真を取り出すと、ルインに向かって投げました。それを拾うとそこには紺色の神父服を着た男が写っていました。

「はぁ~~、実際には神父じゃないわ。偽神父よ。神々の代行者と偽って信者を集めて、寄付という名目で金を集めているだけの小悪党ね。そいつから《アクエリアス》のゾディアックストーンを奪ってくるの。あんたと同じ水属性だから相性は悪くはないはずよ。場所はここ。この町の小さな教会にいるわ。3日もあれば手に入れて、ここに戻って来れるわ。せいぜい頑張るのね」

 用件を話し終えると、椅子から立ち上がり、マリーは部屋から出ていこうとしました。慌ててルインは止めようとしましたが、マリーに片手で押し退けられてしまいました。ウェインと違い、余計な事は話さず、最低限の事しか話しません。これなら、まだウェインの方がマシだったかもしれません。

「イテテ……あの力でレベル26はありえないか。マリーもウェインと同じで、レベルを偽装していると見た方がいいな。下手に手出しをすると無駄に殺されるだけか」

 マリーを捕まえられるのなら、1、2回は死んでもいいと思ったものの、成功しても、失敗してもリスクがあるはずです。最終目的は囚われたセルカ島の人達の解放です。下手に反抗しただけで制裁と称して何人も殺されるのは避けたいものです。

「エリアス・ノアねぇ……」

 マリーが置いていった地図には赤い丸印が書かれていました。ダリアの街から北西に位置する人口3000人程度の小さな町《デルニ》のようです。距離は約110㎞なので、今日宿屋でしっかりと休んで明日の朝に出発すれば、その日のうちに到着するでしょう。

 ただ徒歩にするか、馬車にするか。鍛えるつもりならば、やっぱり移動のついでに達成できそうなクエストを探してみるのも1つの手です。

「とりあえず今日はしっかりと休んで、明日出発だな。ついでにギルドでクエストを受ければ鍛えられるし、少しは旅費の足しにもなる。ちょっと早いけど、回復薬を飲んで寝ようかな」

 まだ、午後7時ですがルインは眠る事にしました。

 ❇︎

 

 
 
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