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第二章 無人島で処女を奪われる

第19話 暗闇の光る木【リュドミラ視点】

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「それだけでいいんですか?」
「はい。でも、台座の上に置かないと駄目だと思います。だから……」
「はぁ……分かりました。私が登ります。リンゴを貸してください」

 リンゴを柱にくっ付けるだけでいいなら簡単ですが、そうじゃないみたいです。
 アーニャは柱の天辺を見ています。アーニャの力じゃ登れそうにないです。
 どうやら私が登るしかないようです。リンゴを預かると、痛む身体で柱をよじ登っていきます。

「ハァハァ、本当にこれで助かるのでしょうか?」

 頑張って登った柱の天辺には穴が開いていた。
 その穴にリンゴを落とすと、柱の中をリンゴが転がり落ちていく。
 何が起こるのか分からないけど、アーニャの言う通りならこれで助かるはずです。

「リュドミラ様! リュドミラ様! 地面が光っています。早く下りてください!」
「くっ、そんなに簡単に下りれません」

 パァッと柱の下の地面が青色に輝き始めた。
 アーニャが早く下りるように急かしてくる。
 だけど、身長の二倍もある柱の天辺から急には下りられない。

「リュドミラ様、これで助かりますね」
「どこに行くのか分からないのに油断し過ぎです」

 地面に下りると、アーニャと手を繋いで光の中に飛び込んだ。
 まだ油断しない方がいい。そんなに上手くいくとは思わない方がいい。
 また変な所に飛ばされてしまうかもしれない。

 パアアアアッッ——‼︎

「うっ……!」

 強烈な真っ白な光に頭の中が染まっていく。
 次に目を開けたら別の場所に移動しているはずです。

「んっ……ここは……いったい……?」

 目を開けると真っ暗な空間、暗闇の世界に私とノーラは立っていた。
 でも、暗闇の中に青白く綺麗に光っている木が一本だけ見える。

「まさか本当にあったなんて……リュドミラ様、絶対に手を離さないでくださいね。村長の指輪を持ってない者は暗闇の中に永遠に落ち続けるそうです」

 アーニャは光る木を驚いた顔で見ている。
 私は来たこともない場所のことを知っている、あなたの方に驚いてしまいます。

「アーニャ……? 何でそんなことを知っているんですか? ちょっと詳し過ぎますよ。私に何か隠しているんじゃないですか?」
「はい? 前に言ったじゃないですか。本に書いてあったんです。リュドミラ様のお爺様も読んでいなかった本にです。きっと大昔の人が島のことを本に書いたんです」
「ああ、あの本ですか……」

 ちょっと疑われて、アーニャは怒っているようです。
 あの本には瞬間移動、魔法、異空間、エルフとか意味不明な言葉が並んでいたのだけは覚えています。
 あまりにも意味不明で面白くなかったので、3ページで読むのをやめてしまいました。
 あんな妄想小説を読む時間があるなら、仕事する方が千倍マシだといつも思っていました。

「とりあえずあの木を目指せばいいんですね」

 本を読んでいなくても、あの光る木に行けばいいのは分かります。
 少し不機嫌なアーニャと手を繋いだまま歩いていきます。
 今度からは本は自由に読ませてあげましょう。

「あの光っているのはリンゴの実ですね。美味しいのでしょうか?」

 光っている木はリンゴの木でした。
 青白く綺麗に光っている実が一個だけ成っている。

「味はどうでもいいです。リュドミラ様が肩車してくれたら取れそうです。あれを取れば何かが起きると思います」
「分かりました。リンゴもそうですが、あなたも落ちないでくださいね。暗闇の中に落ちたら助けられませんから」

 落ちないように注意してから、アーニャを慎重に肩車していく。
 暗闇の地面に落ちたら、そのまま永遠に落ちるそうだ。
 アーニャもリンゴも絶対に落とすことは出来ない。

「もうちょっと右……もうちょっと上です。そう……そのままです」
「ゔぅぅっ、早く取ってください……足と腰が限界ですぅ!」

 アーニャに指示されて、右に左に移動する。
 激しいエッチの所為で足腰がガクガク震えて悲鳴を上げている。

 ブチッ!

「やったぁ! やりましたぁ! 取れましたぁ!」
「うぐぐぐっ、それは良かったです。もう降ろします」
 
 リンゴが取れて嬉しいのは分かりますが、私は痛いだけです。
 はしゃぐなら私の肩から降りた後にして欲しいです。

「助かりました。リュドミラ様のお陰でやっと欲しかった物が手に入りました……ひぃひひひ、これでやっと復讐が出来ます」
「復讐……んっ? アーニャ?」
「美味しいですぅ! これが力の味なんですねぇ!」

 ガブッ……ガブッ……。
 肩の上から降りずにアーニャは、笑いながら光るリンゴを食べ始めた。
 ポタポタとリンゴの汁が落ちてくる。
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