没落令嬢カノンの冒険者生活〜ジョブ『道具師』のスキルで道具を修復・レベルアップ・進化できるようになりました〜

もう書かないって言ったよね?

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19日目

過去カノン

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「あれ? 暴力ババアがいません」

 時の杖を使って、カノンは過去のハーディン男爵家の屋敷に移動した。
 時刻は夜で、使用人が怪しい人間がいないか見回りしている。
 薄紫色のドレスを着た女は、かなり怪しい人間に見える。
 今日はパーティーは開いていない。

「チャンスです。早く逃げないと!」

 やっぱり老婆の姿が見えない。カノンはサメ型飛行船を急いで出した。
 時の杖は迷惑料として、アイテムポーチに押し込んだ。

「ふぅー。危ないお婆ちゃんに捕まるなんて怖かったです。きっとすぐに捕まりますね」

 空に逃げたからもう安心だ。カノンは家に向かって飛んでいく。
 使用人が危険な老婆を捕まえてくれると信じている。

「あれ? 家がないです……」

 いつもの場所に豪邸が見つからない。
 同じ形の木造の家が規則正しく並んでいる。
 過去だから、自慢の三階建ての豪邸は存在しない。

「もしかして、本当にあのお婆ちゃんが私なんですか? いえいえ、そんなはずないです! もっと可愛いお婆ちゃんになるはずです!」

 一瞬信じそうになったが、カノンは素早く否定した。
 永遠の美は存在しない。誰だって50年後にはそれなりに老けている。
 だが未来は変えられる。今から頑張れば美魔女になれる。

「仕事終わりのエリック酒は最高だなぁ~♪」
「くっ、私の家に知らない男が住んでます! 叩き出してやりたいです!」

 念の為に壁に穴を開けて、小さな家を確認した。40代の酔っ払い男が一人住んでいた。
 カノンは神雷の杖を持っているが、それは駄目に決まっている。
 落雷なら自然現象に見せかけられるが、駄目に決まっている。

「ふぅー、一旦落ち着いて考えましょう。ここが本当に過去なら、屋敷に行けば私がいます」

 家と男に雷は落とさずに、カノンは目的地を変更した。
 ネロエスト男爵家の屋敷に飛んでいく。12億ギルドもする立派な屋敷だ。
 酒と男臭い小さな家に泊まるよりはマシだ。

「あっ! 明かりがついています。知らない人なら今度こそ……」

 カノンは屋敷の窓に複数の明かりを確認した。
 神雷の杖は用意しなくてもいい。
 泥棒ではなく、普通に普通の人が住んでいるだけだ。

「あっ、知っている使用人です。また雇われるはずはないですよね……」

 飛行船から降りると、カノンはドレス姿のままで屋敷に潜入した。
 17年も暮らした屋敷だから迷うことはない。
 レベル100の泥棒になって、素早い動きで使用人に見つからずに進んでいく。
 顔見知りの使用人ばかりだから、流石に過去だと気づいたようだ。

「間違いないです。ここは過去です。だとしたら私を私に合成しないと」

 合成スキルは所有権のある同種の物を合成できるスキルだ。
 自分の所有権は自分にあるから、不可能ではないが、やるなら勇気がいる。
 フライムは自我が消えたり、強い方の自我が残ってしまった。

「……誰だワン!」

 ——ガチャ。
 カノンが自分の部屋の扉を開けると、部屋で寝ていたパトラッシュが起きた。
 飼い主に悪さをする相手には、容赦なく噛み付く番犬だ。

「しぃー。静かにしてください」
「ワフゥ⁉︎ ど、どういうことだワン⁉︎」

 飼い主はベッドに寝ているのに、ドレスを着た飼い主が四つん這いで入って来た。
 パトラッシュにとっては、ホラーな状況だ。どっちが偽者なのかまったく分からない。

「茶色いパトラッシュです。やっぱり過去です」
「クゥーン、クゥーン」

 部屋に入って来たカノンにパトラッシュは捕まった。
 撫で回されるが、噛んでいいのか分からない。匂いは間違いなく飼い主だ。
 後ろ足を掴まれて、ベッドに引き摺られている。ヌイグルミと一緒だ。

【名前=カノン・ネロエスト 種族=人間(女)】

「すぅー、すぅー」
「間違いないです。私です」

 ベッドの上で長い金髪の女が、スヤスヤ寝ている。
 レベルとステータスはなかったが、過去カノンなのは間違いない。

「未来の幸福の為です。覚悟してください!」
「はぐう!」

 ベッドに飛び乗ると、カノンはカノンの首を絞めた。
 合成中に悲鳴を上げられたら困るから苦肉の策だ。

「ゔゔぁぁぁ~~~!」

 過去カノンが手足をバタバタさせているが、レベル0対レベル100、力の差は歴然だ。
 大人しくなった頃に合成は終わった。

「ふぅー。流石は私です。手こずらせてくれます」

 パジャマの上にドレス、下着の上に下着とおかしな服装だが、二人は一人になった。
 金髪の長さが肩下まで伸びている。カノンにとっては嬉しい結果だ。
 今日はやることがないから、ドレスだけ脱ぐと、カノンはベッドにスヤスヤ寝た。
 本番は明日からだ。
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