没落令嬢カノンの冒険者生活〜ジョブ『道具師』のスキルで道具を修復・レベルアップ・進化できるようになりました〜

もう書かないって言ったよね?

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21日目

競走・馬

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 ——コンコンコン。
 午前6時。慣れた感じで扉を叩いて、女性使用人がカノンの部屋に入って来た。
 
「カノンお嬢様、おはようございます。朝の時間です」
「んんー、嫌です。もうちょっと寝かせてください」
「良い天気ですよ。絶好の散歩日和です」

 昨日の今日だ。再現ではない。失われた時は二度と戻らない。
 ナンシーは窓を開けて、ベッドの布団を払い退けると、カノンを引き摺り落とした。

「はぐう!」
「まだ眠いなら水を用意しています。どうしますか?」

 ナンシーは右手に酒瓶を持って、床に寝転ぶ三女に聞いた。
 飲む用ではなく、顔にかける用の水だ。

「……起きます」
「かしこまりました」

 カノンも馬鹿じゃない。中身が水じゃない可能性も考えた。
 ヤバイ水が目に入ったら、床を転げ回ることになる。

「あの、お父様に自由にしていいと聞いてませんか?」
「聞いていません。奥様には三発まで許すと言われています」
「…………」

 何が三発なのか聞かなくても分かる。
 使えない父親にガッカリしつつ、カノンはパジャマを散歩服に着替えた。
 上下水色の半袖半ズボンは、爽やかな朝にピッタリの色だ。

「今日は昨日の分も含めて四周です。終わるまで朝食抜きですよ」

 パトラッシュを連れて、カノンは屋敷の外にやって来た。
 散歩は屋敷を一周回れば十分だ。屋敷は一周2キロ近くもある。

「はぁー、散歩なんて必要ないです。私、馬よりも速く走れます」
「分かりました。では馬を連れて来ます。馬よりも早く四周できたら、明日からの散歩は必要ありません」
「えっ? 本当にいいですか⁉︎」

 やる気のないカノンが馬鹿なことを言っているから、ナンシーは馬との競走を提案した。
 勝てそうな勝負だから、カノンは驚いて聞き返している。

「ええ、構いません。ただし負けた場合は分かっていますね? 取り消すなら今のうちですよ」
「取り消さないですよぉ~♪ 約束は絶対に守ってくださいね。嘘だったら三発ですよ」
「三発だろうと千発だろうとお好きにどうぞ。では馬を連れて参ります。走る前に身体を解しておいた方が良いですよ。転ぶと怪我しますから」

 自信満々のナンシーは知らない。
 目の前にいるカノンは、ナンシーが知っているカノンではない。
 素早さ+を何度も注入した縮地靴の進化版——消地靴は信じらない程に速く走れる。
 ただの化け物だ。ナンシーが茶毛の馬を連れて来ると背中に跨った。

「お先にどうぞ。私は15分後に走ります。そうしないと勝負にもなりません」
「えー、いいですよ。早く走ってください」

 ナンシーは余裕の態度でハンデをくれたが、逆にハンデを貰った方が良い。
 当然のようにカノンは断ると、先に行くように言ってあげた。

「……私に先に走らせて、その間に今日も逃げるつもりじゃないですよね?」

 だけど昨日の今日だ。また逃げられたら大変だ。
 ナンシーは怪しんでいる。

「そんなことしません。じゃあ、ちょっとだけ前を走ります。姿が見える距離なら安心ですよね?」
「ふむ。分かりました。では後ろを付いて行きます。疲れたら歩いていいですよ」
「はーい。じゃあ、行きますよぉ~。よーい、どん!」

 疑り深い使用人の為に細かなルールが決まった。
 ナンシーは疲れて歩き出す、カノンの後ろを付いて行くつもりだが、それはあり得ない。
 勝負が始まるとカノンは走り出した。全力で走ると身体が風圧でもげてしまう。
 ゆっくり走らないといけない。

「……ふへぇっ?」

 だが、それで十分だ。矢よりも速く走るカノンが遠ざかっていく。
 ナンシーは呆然と見ていたが、意識を取り戻すと全力で馬を走らせて追いかけた。

「残り一周です。ナンシーはまだ一周目ですか? 負けたら約束守ってくださいね」
「はぁ、はぁ‼︎ カ、カノンお嬢様、はぁ、はぁ、ま、待って‼︎」

 ナンシーは死にそうだ。また後ろから追い抜かれた。
 カノンは四周目、ナンシーは一周目だ。全然疲れて歩き出さない。
 
「はぁ、はぁ……!」
「ナンシー、遅いです。約束は守ってくださいね」

 パトラッシュと遊んで待っていると、二周目のナンシーがやって来た。
 勝てないのは、途中で分かっていた。二周走ればもう十分だ。
 馬から降りるとカノンに詰め寄った。

「カノンお嬢様! どうしてそんなに速いんですか! あり得ない速さですよ!」
「えー、最初に馬よりも速いと言いましたよ。負けたからって怒らないでください」
「怒っていません‼︎ 突然髪を切ったりと、おかしいなことだらけです。何か悪いことしてますね!」

 絶対に怒っているが、言っていることは正しい。悪いこともしている。
 でも未来から来たとは言えない。誤魔化さないといけない。
 カノンは少し考えると、パトラッシュを撫でるのをやめた。

「それ以上言うなら、約束通り三発殴りますよ」

 ナンシーの前に立って、右手を上げてビンタの構えを取った。

「どうぞお好きなように。殴ったら答えてもらいますよ」
「むぅー!」

 脅しは通用しないと、ナンシーは毅然な態度を取っている。
 優しいカノンなら殴れないと知っている。

「エィッ!」
「はぐう!」

 だが、このカノンは平気で殴って、平気で気絶させることが出来る。
 花壇まで引き摺って行くと、回復薬を飲ませて、薄い毛布を被せて寝かせてあげた。
 あとは水やりに来た、フローラと使用人がどうにかしてくれる。
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