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宝くじで『10億円』を当てた日に、車にも当たりました。一度は地獄に落とされたけど、女神の力で幸運MAX『999』で異世界再スタート!

第13話・忘れられない思い

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 パァーーーー♬ パッパァーー♬

「アヒャヒャ、ヒャヒャヒャ、退け退け、轢き殺すぞ!」

「危ねぇな!」「薬中か?」「警察、さっさと来いよ!」

 盛大にクラクションを鳴らしながら、一台の暴走車両が、街中の制限速度60kmの道路を、110kmで疾走していきます。

 暴走行為の原因は酒、薬物、彼女に振られて自暴自棄になったなど、色々と考えられますが、原因を考えるよりも先にやる事があります。

「こっちに来るぞ!」「建物の中に避難しろ」「ああ、あれでいいか」「あんた、何やってんだ⁈」

 フラフラとした足取りで、通行人の1人が道路に向かって歩いていきます。顔はやつれ、服はヨレヨレ、髪はボサボサ、この男に比べたら、まだホームレスのおじさん達の方が元気で幸せな顔をしています。

 ドォン、グシャ!

「きゃあああ!!」「人が轢かれたぞ!」「いや、あの男が飛び出したように見えたぞ」「誰か、救急車を呼んでください!」

 男は即死でした。暴走車の前に飛び出した男は車に轢かれて死にました。

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「車の前に飛び出しての自殺ですか……自殺者は地獄に落とすのが決まりでしょうに。そんな事も分からないんですか?」

「申し訳ありません、女神エステア様。自殺の理由を調べていたら、我々では判断が出来なくなってしまい、お手を煩わしてしまい申し訳ありません」

 ペコペコとスーツ姿の男が、白い髪の女神様に頭を下げて謝り続けます。女神様はさっきまで、『暇ですねぇ~』と言っていたのを覚えていないようです。きっと歳の所為です。

「あっ~~、はい、はい。もう下がっていいですよ。あとは私がやっておきますから」

「ありがとうございます。何卒、この者に寛大な処置をよろしくお願いします」

 女神はスーツ姿の男が見えなくなると、彼が持ってきた資料をパラパラとめくりって、読み始めました。

(まったく、また日本人ですか。若者の自殺者が多いのはあの国の悪い所ですね。さてさて、26歳独身、無職で子供は無しですか……これはまた典型的な不幸ですね。これの何処が判断が難しいですか? 地獄行きでしょう)

「もう地獄行き決定~~♬」と、女神様も資料を投げ捨てようとしましたが、男の資産を見て、手が止まってしまいました。

「ほう、10億円ですか。金に困っての自殺と思っていましたが、違うようですね。精神的に追い込まれての自殺ならば、他殺という判断も出来ますが……なるほど、2ヶ月前に婚約者が事故死しています。これが精神的に追い込まれた原因ですか」

(恋人の名前はミサ。年齢26。道路に飛び出した子供を助けて車に轢かれて死亡ですか。さっきの男はよく調べていますね。この女性も結婚式1週間前に随分と無茶をしましたね。さて、ミサさんは何処に行ったのやら)

 女神エステアは女神の力を使って、空中に光の画面を呼び出しました。ズラズラと並ぶ人の名前の中から、ミサの魂の行方を探しているようです。

「これね。記憶を消してからの異世界送りですか。まあ、妥当な判断ですね。記憶を持ったままだと、辛いだけでしょうし、不幸が余りにも強過ぎると魔王や邪神になる恐れもあります。現在は姫様として転生してから、20年が経過していますか。でも、これは……」

 記憶は消されたものの、魂には膨大な不幸のエネルギーが残っていました。その力を邪神復活を目論む組織に狙われたようです。今は城の地下牢に閉じ込められ、邪神復活の為の生贄にされそうになっています。

「やれやれ、不幸は連鎖するものですね。さて、こういう事ですか。この男は婚約者が死んだショックから、車に轢かれて後追い自殺した。そして、この10億円の資産は宝くじに当たって手に入れたのだから、前回は地獄に落ちたという事になりますが……なるほど通例では、2回連続で地獄には落とさない方がいいと言われていますし、さてさて、確かに判断が難しいようです」
 
 前回、地獄に落とされた者は、不幸の洗浄後には幸運を貰う事になっています。高い幸運を貰って異世界に転生したのなら、大抵は幸せな人生を送る事が出来ますが、中にはその幸運の力を悪用する者もいます。

 そういう者は地獄→異世界→地獄に行く事が許されずに、魂の存在自体を消去される事になります。それは転生する事が出来ない完全なる死です。

「特例で地獄でも異世界でもいいと思いますけど、そうねぇ~~、このままじゃ駄目だろうから、とりあえず辛い記憶は消して、しばらく様子を見てみましょうか。ちょっと、頭がパァ~~になるけど、今はその方がいいでしょう」

 カラ~ン♬ カラ~ン♬ と綺麗なベルの音色が、部屋中に響き渡ります。運ばれて来たベッドの上には、意識を失った状態の男が寝ています。

「なるほど、確かに不幸そうな顔ですね。さて、時間もないですし、さっさと記憶を消しましょうか」

 女神エステアは記憶を操作する力を使い、男の記憶から辛い記憶を消していきます。辛い記憶だけでなく、幸せな記憶さえも……。

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「あぅ、ううっ……ミサ、何で人助けなんか……」

 女神に消されたはずの記憶が断片的に蘇っているようです。毒によって瀕死の状態になった事が大きな原因のようですが、その前にも薄っすらと記憶が蘇っていたような気もします。

『(生まれ変わった婚約者を見て、記憶が少しずつ蘇っていたようですね。辛い記憶は忘れた方がいいのに、それでも思い出したい大切な記憶というものがあるんですね。さて、急いで姫様を助けないと手遅れになりますよ? まだ寝ているつもりですか?)』

(ううっ、俺はまた死んだのか。また助けられなかったのか)

『(いえいえ、毒状態で減るのはHP1までです。その後は、あなたに助けられた町の人達に解毒薬を使われて、治療してもらったようですよ。まだ生きていますよ)』

「生きてる? 生きてる!」

 ガバァ! とベッドから飛び起きます。減っていたHPもMPも完全に治療されているようです。

「早くしないと手遅れになる。とにかく急いで追わないと……」

『(おや? 何処に行くんですか? まだ、ゆっくりと寝ていた方がいいですよ)』

 アルビジアはガチャガチャ、と装備を取り出しては1つずつ確認しています。

「何処に行くだと? そんなの決まっているだろ」

『(フッフ、そうですね。人間とはそういうものですよね。でも、気をつけた方がいいですよ。もしも邪神が復活して力を取り戻していたのなら、その力は神にも匹敵します。まあ、あの邪神は低級のようでしたから、あなたでもギリギリなんとか倒せるかもしれません。本当にギリギリですけどね)』

 低級の邪神といっても、攻撃力・防御力・魔法攻撃力・魔法防御力は『999』と、ステータスだけならば聖剣と聖鎧を装備したアルビジアと互角の力を持っています。

 つまり戦闘の勝敗を決めるのは、戦闘経験や戦闘技術という事になりそうです。

「問題ない。アクションゲームも、格闘ゲームも、シューティングゲームも、それなりにやっている。戦闘技術も戦闘経験も、もう素人レベルを軽く超えている。それに邪神ならゲームで何百体も倒した事がある。対処法はバッチリだ」

『(アッハハ、凄い自信ですね。いいでしょう。この町から北西の方角の所に、負のエネルギーが集まっているようです。おそらく、その場所にお探しの女性がいますよ。おっと! それと災禍の指輪はまだ外さないでくださいね。下手に外すと取り返しがつかない事になるかもしれません。外すのは彼女を取り戻した後にした方がいいですよ)』

「分かった。それとありがとう。もう一度、彼女に会う事が出来るなんて夢のようだ」

『(お礼はいいです。早く向かってください。助けられなかったら、ハッピーエンドが、バッドエンドになるだけですからね。せいぜいバッドエンドにならないようにお気をつけてください。もう、地獄にも異世界にもあなた達2人の居場所はないのですから)』

 この世界で不幸になって死ぬと、もう転生する事は出来なくなります。完全なる魂の死が訪れます。二度と辛い目に遭う事はないですが、二度と幸せになる事も出来ません。

「ミサ、今度こそ幸せにしてみせる。たとえ君が私の事を忘れていたとしても」

 アルビジアはスキル《念力》で宙に浮くと、北西の方角に飛び立ちました。

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