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宝くじで『10億円』を当てた日に、車にも当たりました。一度は地獄に落とされたけど、女神の力で幸運MAX『999』で異世界再スタート!
最終話・神槍グングニル
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「バルザック様。バルザック様。ご報告があります。勇者が現れました」
神像と呼ばれる、3つの顔を持つ不気味な像に、メフィトは語りかけています。
『クックククク、勇者が現れただと?』
神像の6つの目か赤く光ると、3つの口が一斉に開いて話し出します。
「はい、バルザック様。聖剣を持ち、強力な盾と鎧まで装備していました。あれはとても人間が倒せるような相手じゃありません」
『ほう? それ楽しみだ。偽勇者がそれ程に強いとはな。メフィトよ。安心しろ。お前が出会った男は勇者ではない。偽物だ』
「あれが偽物ですか……?」
間違いなく聖剣を持つ者が勇者です。何故なら聖剣は世界に1本しか存在しない選ばれし者が持つ剣なのです。
『ああ、聖都の聖剣は抜かれてはいない。それに聖なる波動も微塵も感じる事が出来ない。むしろ、負の波動がこちらに向かって近づいているぐらいだ。そろそろ到着する頃か……」
♦︎
「あの屋敷か」
教えられた北西の方角に飛び続けると、大きな森の中に隠れるように屋敷が建てられていました。
『(これは⁈ 気をつけてください。もう邪神はほとんど復活しているようです。戦いは避けられません)』
「町でMP回復薬は買えるだけ買ってきた。問題ない」
ゴクゴク、ゴクゴク、と飛びながらMP回復薬を何本も一気に飲み干します。《念力》で消費したMPを全回復させます。戦闘中に回復アイテムを使うのを待ってくれる親切な敵はいません。
「問題ない。最初から倒すのは決定事項だ。ミサの身体と心を傷つけた奴は許さない」
『(えっ~~と、ミサですか……それなんですけど…)』
「話は後だ! このまま突き進む! 聖盾エクスシールド!」
ドォガガン!!!
5つの聖盾を出現させると、屋敷の壁に飛んでいる勢いのまま打つかります。聖盾には攻撃力はないものの、聖剣を右手に持っていれば、ただの盾越しの体当たりでもドラゴンも吹き飛ばせます。
『メフィト、偽勇者様のお越しだ。我の力を与えてやろう。遊んで差し上げなさい』
「はい、畏まりました」
黒い霧にメフィトの身体は包まれていきます。すぐにメフィトが、『ギャシャアああ!!!』と苦痛と喜びの悲鳴を上げます。バキバキ、ボキボキと皮膚が裂け、骨が飛び出し、筋肉が肥大していきます。その姿が人間から怪物に変化していきます。
ドォガガン!!!
「ここか! ミサを返してもらうぞ!」
屋敷はほぼ半壊しています。さすがは幸運1です。見つけるのに苦労します。
『これが勇者か。それにミサ? ミーリエル姫の事をそう呼んでいるのか。まあ、よい。メフィト、勇者様の相手をしてやれ。我はその間に、最後の仕上げに姫の魂をいただくとしよう』
「させるか!」
聖剣を横に勢いよく振ると、邪神像に向かって走り出します。何が神像ですか、見た目からして邪神像です。聖剣で真っ二つにした方が世の中の為です。
「それはこちらの台詞です。偽勇者様。邪魔はさせませんよ」
「誰だ? そこを退け!」
目の前に大きな怪物が立ち塞がりました。ブンブンと聖剣を振るいますが、素早い動きで躱されてしまいます。
(角の生えたゴリラ? 《念力》では動きを拘束出来ない。そんなに簡単には倒せないのは分かっている。聖盾エクスシールド×10! だったら、閉じ込めて突き刺す!)
10枚の聖盾を操り、怪物になったメフィトをドーム状に囲むと、一気に聖盾のドームを縮めて閉じ込めます。
ガァン! ガァン!
「何故、この盾は壊れない⁉︎ ハァッ! ヤァッ!」
どんなに蹴っても殴っても、聖盾はびくともしません。壊す事は不可能です。10枚の聖盾はメフィトの3倍に膨れ上がった身体を易々と閉じ込めました。
「誰だか知らないが終わりだ」
ドォス、ドォス、ドォス! 何度も何度も聖剣で、聖盾の隙間から見える怪物メフィトの身体を突き刺します。檻に入った怪物を一方的に攻撃していきます。
「ぐっは! クックククク、残念だったな偽勇者よ。私を倒しても意味はない。偉大なる神バルザック様が蘇り、この世を楽園に変えてくださる。クックククク、アッハハハハハ~」
「さっさと地獄に落ちろ」
ドォスン! トドメの一撃とばかりに深々と聖剣を突き刺して、怪物メフィトを倒しました。
『なるほど。確かに強い。偽勇者としてはな。だが、本物の勇者には程遠い。貴様には勇者にあるはずのものが欠けている。それが何だか分かるか?』
小さな邪神像に閉じ込められていた邪神バルザックは、ミーリエル姫の魂を取り込んだ事で、その大きさを変えていました。今は人間よりも少し大きいぐらいです。
「どうでもいい。それよりもそれが本当の姿か? 随分と弱そうだな。さっきの角ゴリラの方が強そうだったぞ」
『フッフ、そうだろうな。小娘1人の負のエネルギーで我が満足する訳がなかろう。本来の力の20%程度もないだろうな。まあ、偽勇者を殺すには10%もあれば十分だ。さあ、虐殺を始めようか?』
「お前のな」
『ハッハハ、面白い冗談だ。偽勇者よ。冥土の土産にさっきの答えを教えてやろう。聖なる波動だ。お前には負の波動しか感じられぬ。この小娘以上の負のエネルギーが満ちている。倒したついでにお前の魂もいただいてやろう。喜べ! 我の中で小娘と永遠に暮らすがよい』
ダァン! 邪神は軽く踏み込んだだけで、アルビジアの目の前まで移動しました。
(想像より速い。だが、無駄だ! 聖盾!)
邪神の拳が身体に届く前に、聖盾が邪神の拳の前に塞がります。けれども…。
『これが盾か? 随分と軽い盾だ。フン!』
ガァン! 念力で浮かぶ聖盾を、凶悪な力が押し退けます。聖盾と一緒にアルビジアは殴り飛ばされました。
「ぐっはぁ! ぐっぐぐ、ハッハ、そっちは女パンチか? 効かねぇよ」
『フム、まだ生きているか。盾だけでなく、その鎧もなかなかの逸品のようだ。だが、痩せ我慢も何処まで続けられるかな?』
今の一撃でHPは『1000→730』まで減少しました。アルビジアは何とか立ち上がったものの、足はガクガクと震えています。予想以上の強さです。
『(アルさん、手加減して勝てる相手じゃありませんよ。今こそ災禍の指輪を外す時です。もう指輪を外しても大丈夫です。全力で倒してください!)』
『この声は女神の声か? フッフフフフ、我を倒すだと? 笑わせてくれる。たとえ、それが出来たとして、我の中にある小娘の魂も無事では済むまい。我を倒すという事は小娘を殺す事と同じ事。偽勇者よ、それがお前に出来るのか?』
「………」
『世界を救う為に、自分の大切な者を犠牲にする事が出来るのか?』
「………」
『見ず知らずの他人の為に、その命を使う事が出来るのか?』
「………」
『フッフフ、ハッハハハ~~~』
『(アルさん……)』
沈黙は肯定を意味するのか、アルビジアは邪神の問い掛けに沈黙で答え続けます。けれども、やっと覚悟が決まったようです。重い口が開き始めました。
「出来ない。俺には出来ない。見ず知らずの子供を助ける為に道路に飛び出す事なんて出来ない。愛する人を犠牲に世界を救う事なんて出来ない。でも、お前を倒して、ミサを救う事は出来る!」
(『ステータス→装備→聖剣エクスカリバー×9 聖盾エクスシールド×5』 スキル《剣術》《盾術》《槍術》《透視》獲得!)
もう出し惜しみせずに、最大戦力で勝負を決めるようです。聖剣10本、聖盾10枚が宙に浮かびます。
『聖剣が10本だと⁈ やはり偽勇者か。小賢しい真似を、数が増えようと、偽物の剣で我を傷つけられると思うなよ』
「ぐっぐぐぐ、この指輪も邪魔だ!!」
右手の指に嵌る災禍の指輪5個を力を入れて引き抜きます。1個取るたびに絶大なる力がその身に宿っていきます。
『無駄な抵抗…? 馬鹿な⁈ 馬鹿な! 馬鹿なぁ~!! 聖なる力が膨れ上がっていくだと? 何だ、その馬鹿げた力は⁉︎』
アルビジアのステータス幸運が『1→999』に一気に上昇します。凄まじい聖なる波動が全身から溢れ出していきます。
「おい、女パンチ。パンチの打ち方を教えてやるよ」
絶対にパンチじゃありません。聖剣10本が空中を縦横無尽に飛び回って、邪神の身体を斬り刻みます。
ザシュ、ザシュ、ザシュ、ザシュ、ザシュ、ザシュ! オールクリティカル攻撃が命中するたびに邪神の身体から黒い血が飛び散り、霧状になって蒸発します。この霧を少しでも吸い込むと身体に異常が出るはずですが、幸運MAXには意味がないようです。平気で攻撃を続けています。
『それがどうした!! お前には我を殺せぬ。それが現実だ! 遊びは終わりだ! グラン・デス・ゲイズ!!!』
6つの赤い目から撃ち出された死の光線がアルビジアに向かいます。常人が触れれば一瞬で魂さえも消し去られてしまいます。
「無駄だ。そして、終わりだ」
(『ステータス→装備→神槍グングニル』 スキル《槍術》《透視》発動。神槍グングニル、神殺しの槍でお前の汚らしい神の魂だけを破壊する)
重なり合った10枚の聖盾エクスシールドが死の光線を防ぎます。1枚では死の力に押し負けてしまいそうになりますが、10枚なら対抗出来ます。
「ぐっぐぐ…」
それでも、ジワジワと10枚の聖盾は、死の視線によってアルビジアの方に押されていきます。
『クッハハハハ、偽勇者よ♬ 我を相手によく健闘した方だ。褒めてやろう。そして、死ねぇ!!』
邪神バルザックは勝ち誇っています。アルビジアは左手1本で10枚の聖盾を必死に押し返そうとしています。勝負は決したとそう思ったのでしょう。確かにその通りです。
(右、左、黒い魂のどっちかがミサだ。失敗は許されない)
スキル《透視》を使い、邪神の身体の中にある2つの魂を見続けます。右手に握る神槍グングニルを使う魂を慎重に選んでいます。
『(そんなの簡単ですよ。好きな方を選べばいいんですよ。選ばなかった方が邪神です)』
(フッフ、そうだな。考える必要もない事だった。俺が間違える訳がない)
女神の助言で答えは出たようです。グッグッと右手に力を込めると、スキル《槍術》で強化された神槍を邪神に向かって投擲します。
「グングニル!!」
聖盾を動かして、僅かな隙間を作ると、その隙間目掛けて、神槍グングニルは発射されました。
神々さえ殺せると言われる神槍グングニルが、邪神バルザックの死の視線を突き破って進み続けました。そして…。
ドォシュン!! critical overkill!! その身体を易々と貫通していきました。
『ギァアアアィヤヤ!?!!!!!』
断末魔の雄叫びを上げながら、邪神バルザックは胸に空いた穴を見つめています。
『おのれぇ~~~! 偽勇者の分際で我を殺すだと! 許さぬぞ、許さぬぞ! 再びこの世に蘇りし時…』
「それは無理だ。魂ごと破壊した。もう蘇る事は出来ない。永遠にな」
『グッハハハハ、イャヒャヒヒヒヒ、何も知らないか。フッフフフフ、せいぜい束の間の幸せを謳歌するがよい、偽勇者よ。いずれまた会う日まで。アッハハハハハ~』
笑い声と共に邪神バルザックの身体は砕けていきました。これで終わったはずなのに不安感は消えません。もしかすると、邪神の狙いはこれなのかもしれません。不安を感じる事は不幸にも繋がります。不幸があれば邪神は生まれます。
『(……さあさあ、暗い顔はやめてください。パッピーエンドですよ。ミーリエル姫の魂は私が身体に戻しておきましたよ。ついでに前世の記憶も……では、今度こそ幸せになれるといいですね)』
「ああ、そうなるように頑張るよ。女神様も色々と助けてくれてありがとう。約束した通りに出来るだけ人助けもやってみるよ。この世界に二度と邪神は必要ないからな」
『(……ええ、頑張ってくださいね。それと私の監視はここまでです。知り合いの男女がイチャイチャする姿を見るのは不快ですからね)』
「ああ、そうしてくれ。さよなら、女神エステア様」
女神エステアとの別れを済ませると、アルビジアは床の上で気を失っているミーリエル姫の元に急いで向かいます。
「お待たせ、ミサ。いや、ミーリエル姫か。さあ、眠り姫。起きる時間ですよ」
チュと、軽く頬にキスをすると、ゆっくりとミーリエルの目蓋が開いていきます。次の瞬間…。
パァーン!
「ぐぅべぇ⁉︎」
「なっ⁈ なっ⁈ このド変態! 私に今、キスしたわね!」
思いっきりビンタされました。記憶が完全に戻るには時間がかかるものです。もうしばらくは近づかないようにしましょう。
(フム、こういうオチも悪くない)
ヒリヒリする左頬を押さえて、少しだけ思ってしまいます。それは好きな女に叩かれるのが好きなド変態偽勇者だけです。
そして、ド変態偽勇者と記憶を取り戻したミーリエル姫は幸せに暮らしたとか、暮らさなかったとか。けれども、この世界に邪神は二度と生まれる事はないでしょう。千本の聖剣を操る冒険者の活躍によって…。
♦︎
♦︎
♦︎
「やれやれ、邪神を1個倒すのに幸運を使い過ぎですね。このままだと、いずれ幸運の量が足りなくなってしまいます。そうなれば、また新たな地獄を作る必要がありそうですね。まあ、魂の数を管理できる極限まで減らせば問題はすぐに解決しますが……そうならないように勇者達には頑張ってもらいましょう。フッフフフフ~」
【終わり】
神像と呼ばれる、3つの顔を持つ不気味な像に、メフィトは語りかけています。
『クックククク、勇者が現れただと?』
神像の6つの目か赤く光ると、3つの口が一斉に開いて話し出します。
「はい、バルザック様。聖剣を持ち、強力な盾と鎧まで装備していました。あれはとても人間が倒せるような相手じゃありません」
『ほう? それ楽しみだ。偽勇者がそれ程に強いとはな。メフィトよ。安心しろ。お前が出会った男は勇者ではない。偽物だ』
「あれが偽物ですか……?」
間違いなく聖剣を持つ者が勇者です。何故なら聖剣は世界に1本しか存在しない選ばれし者が持つ剣なのです。
『ああ、聖都の聖剣は抜かれてはいない。それに聖なる波動も微塵も感じる事が出来ない。むしろ、負の波動がこちらに向かって近づいているぐらいだ。そろそろ到着する頃か……」
♦︎
「あの屋敷か」
教えられた北西の方角に飛び続けると、大きな森の中に隠れるように屋敷が建てられていました。
『(これは⁈ 気をつけてください。もう邪神はほとんど復活しているようです。戦いは避けられません)』
「町でMP回復薬は買えるだけ買ってきた。問題ない」
ゴクゴク、ゴクゴク、と飛びながらMP回復薬を何本も一気に飲み干します。《念力》で消費したMPを全回復させます。戦闘中に回復アイテムを使うのを待ってくれる親切な敵はいません。
「問題ない。最初から倒すのは決定事項だ。ミサの身体と心を傷つけた奴は許さない」
『(えっ~~と、ミサですか……それなんですけど…)』
「話は後だ! このまま突き進む! 聖盾エクスシールド!」
ドォガガン!!!
5つの聖盾を出現させると、屋敷の壁に飛んでいる勢いのまま打つかります。聖盾には攻撃力はないものの、聖剣を右手に持っていれば、ただの盾越しの体当たりでもドラゴンも吹き飛ばせます。
『メフィト、偽勇者様のお越しだ。我の力を与えてやろう。遊んで差し上げなさい』
「はい、畏まりました」
黒い霧にメフィトの身体は包まれていきます。すぐにメフィトが、『ギャシャアああ!!!』と苦痛と喜びの悲鳴を上げます。バキバキ、ボキボキと皮膚が裂け、骨が飛び出し、筋肉が肥大していきます。その姿が人間から怪物に変化していきます。
ドォガガン!!!
「ここか! ミサを返してもらうぞ!」
屋敷はほぼ半壊しています。さすがは幸運1です。見つけるのに苦労します。
『これが勇者か。それにミサ? ミーリエル姫の事をそう呼んでいるのか。まあ、よい。メフィト、勇者様の相手をしてやれ。我はその間に、最後の仕上げに姫の魂をいただくとしよう』
「させるか!」
聖剣を横に勢いよく振ると、邪神像に向かって走り出します。何が神像ですか、見た目からして邪神像です。聖剣で真っ二つにした方が世の中の為です。
「それはこちらの台詞です。偽勇者様。邪魔はさせませんよ」
「誰だ? そこを退け!」
目の前に大きな怪物が立ち塞がりました。ブンブンと聖剣を振るいますが、素早い動きで躱されてしまいます。
(角の生えたゴリラ? 《念力》では動きを拘束出来ない。そんなに簡単には倒せないのは分かっている。聖盾エクスシールド×10! だったら、閉じ込めて突き刺す!)
10枚の聖盾を操り、怪物になったメフィトをドーム状に囲むと、一気に聖盾のドームを縮めて閉じ込めます。
ガァン! ガァン!
「何故、この盾は壊れない⁉︎ ハァッ! ヤァッ!」
どんなに蹴っても殴っても、聖盾はびくともしません。壊す事は不可能です。10枚の聖盾はメフィトの3倍に膨れ上がった身体を易々と閉じ込めました。
「誰だか知らないが終わりだ」
ドォス、ドォス、ドォス! 何度も何度も聖剣で、聖盾の隙間から見える怪物メフィトの身体を突き刺します。檻に入った怪物を一方的に攻撃していきます。
「ぐっは! クックククク、残念だったな偽勇者よ。私を倒しても意味はない。偉大なる神バルザック様が蘇り、この世を楽園に変えてくださる。クックククク、アッハハハハハ~」
「さっさと地獄に落ちろ」
ドォスン! トドメの一撃とばかりに深々と聖剣を突き刺して、怪物メフィトを倒しました。
『なるほど。確かに強い。偽勇者としてはな。だが、本物の勇者には程遠い。貴様には勇者にあるはずのものが欠けている。それが何だか分かるか?』
小さな邪神像に閉じ込められていた邪神バルザックは、ミーリエル姫の魂を取り込んだ事で、その大きさを変えていました。今は人間よりも少し大きいぐらいです。
「どうでもいい。それよりもそれが本当の姿か? 随分と弱そうだな。さっきの角ゴリラの方が強そうだったぞ」
『フッフ、そうだろうな。小娘1人の負のエネルギーで我が満足する訳がなかろう。本来の力の20%程度もないだろうな。まあ、偽勇者を殺すには10%もあれば十分だ。さあ、虐殺を始めようか?』
「お前のな」
『ハッハハ、面白い冗談だ。偽勇者よ。冥土の土産にさっきの答えを教えてやろう。聖なる波動だ。お前には負の波動しか感じられぬ。この小娘以上の負のエネルギーが満ちている。倒したついでにお前の魂もいただいてやろう。喜べ! 我の中で小娘と永遠に暮らすがよい』
ダァン! 邪神は軽く踏み込んだだけで、アルビジアの目の前まで移動しました。
(想像より速い。だが、無駄だ! 聖盾!)
邪神の拳が身体に届く前に、聖盾が邪神の拳の前に塞がります。けれども…。
『これが盾か? 随分と軽い盾だ。フン!』
ガァン! 念力で浮かぶ聖盾を、凶悪な力が押し退けます。聖盾と一緒にアルビジアは殴り飛ばされました。
「ぐっはぁ! ぐっぐぐ、ハッハ、そっちは女パンチか? 効かねぇよ」
『フム、まだ生きているか。盾だけでなく、その鎧もなかなかの逸品のようだ。だが、痩せ我慢も何処まで続けられるかな?』
今の一撃でHPは『1000→730』まで減少しました。アルビジアは何とか立ち上がったものの、足はガクガクと震えています。予想以上の強さです。
『(アルさん、手加減して勝てる相手じゃありませんよ。今こそ災禍の指輪を外す時です。もう指輪を外しても大丈夫です。全力で倒してください!)』
『この声は女神の声か? フッフフフフ、我を倒すだと? 笑わせてくれる。たとえ、それが出来たとして、我の中にある小娘の魂も無事では済むまい。我を倒すという事は小娘を殺す事と同じ事。偽勇者よ、それがお前に出来るのか?』
「………」
『世界を救う為に、自分の大切な者を犠牲にする事が出来るのか?』
「………」
『見ず知らずの他人の為に、その命を使う事が出来るのか?』
「………」
『フッフフ、ハッハハハ~~~』
『(アルさん……)』
沈黙は肯定を意味するのか、アルビジアは邪神の問い掛けに沈黙で答え続けます。けれども、やっと覚悟が決まったようです。重い口が開き始めました。
「出来ない。俺には出来ない。見ず知らずの子供を助ける為に道路に飛び出す事なんて出来ない。愛する人を犠牲に世界を救う事なんて出来ない。でも、お前を倒して、ミサを救う事は出来る!」
(『ステータス→装備→聖剣エクスカリバー×9 聖盾エクスシールド×5』 スキル《剣術》《盾術》《槍術》《透視》獲得!)
もう出し惜しみせずに、最大戦力で勝負を決めるようです。聖剣10本、聖盾10枚が宙に浮かびます。
『聖剣が10本だと⁈ やはり偽勇者か。小賢しい真似を、数が増えようと、偽物の剣で我を傷つけられると思うなよ』
「ぐっぐぐぐ、この指輪も邪魔だ!!」
右手の指に嵌る災禍の指輪5個を力を入れて引き抜きます。1個取るたびに絶大なる力がその身に宿っていきます。
『無駄な抵抗…? 馬鹿な⁈ 馬鹿な! 馬鹿なぁ~!! 聖なる力が膨れ上がっていくだと? 何だ、その馬鹿げた力は⁉︎』
アルビジアのステータス幸運が『1→999』に一気に上昇します。凄まじい聖なる波動が全身から溢れ出していきます。
「おい、女パンチ。パンチの打ち方を教えてやるよ」
絶対にパンチじゃありません。聖剣10本が空中を縦横無尽に飛び回って、邪神の身体を斬り刻みます。
ザシュ、ザシュ、ザシュ、ザシュ、ザシュ、ザシュ! オールクリティカル攻撃が命中するたびに邪神の身体から黒い血が飛び散り、霧状になって蒸発します。この霧を少しでも吸い込むと身体に異常が出るはずですが、幸運MAXには意味がないようです。平気で攻撃を続けています。
『それがどうした!! お前には我を殺せぬ。それが現実だ! 遊びは終わりだ! グラン・デス・ゲイズ!!!』
6つの赤い目から撃ち出された死の光線がアルビジアに向かいます。常人が触れれば一瞬で魂さえも消し去られてしまいます。
「無駄だ。そして、終わりだ」
(『ステータス→装備→神槍グングニル』 スキル《槍術》《透視》発動。神槍グングニル、神殺しの槍でお前の汚らしい神の魂だけを破壊する)
重なり合った10枚の聖盾エクスシールドが死の光線を防ぎます。1枚では死の力に押し負けてしまいそうになりますが、10枚なら対抗出来ます。
「ぐっぐぐ…」
それでも、ジワジワと10枚の聖盾は、死の視線によってアルビジアの方に押されていきます。
『クッハハハハ、偽勇者よ♬ 我を相手によく健闘した方だ。褒めてやろう。そして、死ねぇ!!』
邪神バルザックは勝ち誇っています。アルビジアは左手1本で10枚の聖盾を必死に押し返そうとしています。勝負は決したとそう思ったのでしょう。確かにその通りです。
(右、左、黒い魂のどっちかがミサだ。失敗は許されない)
スキル《透視》を使い、邪神の身体の中にある2つの魂を見続けます。右手に握る神槍グングニルを使う魂を慎重に選んでいます。
『(そんなの簡単ですよ。好きな方を選べばいいんですよ。選ばなかった方が邪神です)』
(フッフ、そうだな。考える必要もない事だった。俺が間違える訳がない)
女神の助言で答えは出たようです。グッグッと右手に力を込めると、スキル《槍術》で強化された神槍を邪神に向かって投擲します。
「グングニル!!」
聖盾を動かして、僅かな隙間を作ると、その隙間目掛けて、神槍グングニルは発射されました。
神々さえ殺せると言われる神槍グングニルが、邪神バルザックの死の視線を突き破って進み続けました。そして…。
ドォシュン!! critical overkill!! その身体を易々と貫通していきました。
『ギァアアアィヤヤ!?!!!!!』
断末魔の雄叫びを上げながら、邪神バルザックは胸に空いた穴を見つめています。
『おのれぇ~~~! 偽勇者の分際で我を殺すだと! 許さぬぞ、許さぬぞ! 再びこの世に蘇りし時…』
「それは無理だ。魂ごと破壊した。もう蘇る事は出来ない。永遠にな」
『グッハハハハ、イャヒャヒヒヒヒ、何も知らないか。フッフフフフ、せいぜい束の間の幸せを謳歌するがよい、偽勇者よ。いずれまた会う日まで。アッハハハハハ~』
笑い声と共に邪神バルザックの身体は砕けていきました。これで終わったはずなのに不安感は消えません。もしかすると、邪神の狙いはこれなのかもしれません。不安を感じる事は不幸にも繋がります。不幸があれば邪神は生まれます。
『(……さあさあ、暗い顔はやめてください。パッピーエンドですよ。ミーリエル姫の魂は私が身体に戻しておきましたよ。ついでに前世の記憶も……では、今度こそ幸せになれるといいですね)』
「ああ、そうなるように頑張るよ。女神様も色々と助けてくれてありがとう。約束した通りに出来るだけ人助けもやってみるよ。この世界に二度と邪神は必要ないからな」
『(……ええ、頑張ってくださいね。それと私の監視はここまでです。知り合いの男女がイチャイチャする姿を見るのは不快ですからね)』
「ああ、そうしてくれ。さよなら、女神エステア様」
女神エステアとの別れを済ませると、アルビジアは床の上で気を失っているミーリエル姫の元に急いで向かいます。
「お待たせ、ミサ。いや、ミーリエル姫か。さあ、眠り姫。起きる時間ですよ」
チュと、軽く頬にキスをすると、ゆっくりとミーリエルの目蓋が開いていきます。次の瞬間…。
パァーン!
「ぐぅべぇ⁉︎」
「なっ⁈ なっ⁈ このド変態! 私に今、キスしたわね!」
思いっきりビンタされました。記憶が完全に戻るには時間がかかるものです。もうしばらくは近づかないようにしましょう。
(フム、こういうオチも悪くない)
ヒリヒリする左頬を押さえて、少しだけ思ってしまいます。それは好きな女に叩かれるのが好きなド変態偽勇者だけです。
そして、ド変態偽勇者と記憶を取り戻したミーリエル姫は幸せに暮らしたとか、暮らさなかったとか。けれども、この世界に邪神は二度と生まれる事はないでしょう。千本の聖剣を操る冒険者の活躍によって…。
♦︎
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「やれやれ、邪神を1個倒すのに幸運を使い過ぎですね。このままだと、いずれ幸運の量が足りなくなってしまいます。そうなれば、また新たな地獄を作る必要がありそうですね。まあ、魂の数を管理できる極限まで減らせば問題はすぐに解決しますが……そうならないように勇者達には頑張ってもらいましょう。フッフフフフ~」
【終わり】
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ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
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