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十二年の孤独な両片思い――解けない愛の無理関数 全章記録(本編)
第5章:不適合解(ミスマッチ・アンサー)九条遥。……ふふ、面白いわね、あの人。
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車内には、インストルメントパネルの冷たい光が、透き通るような真翠の横顔を無機質に照らしていた。彼女は力なく背もたれに身を預け、両親の前で張り詰めていた「石小路の令嬢」としての最後の矜持を、静かに手放そうとしていた。
もう、限界だった。目から一筋の涙が、音もなく、けれどあまりに重くこぼれ落ちる。平淡すぎて、かえって心臓を抉るような声で言った。
「……煌人さん。もう、終わりにしましょう。……十七歳の『石小路真翠』は、あなたのことが本当に大好きだった。でも、今の私は……もう、疲れちゃったの」
「キィィィィィッ!」
アスファルトを悲鳴を上げて切り裂くタイヤの音。車は無人の道路中央で乱れた弧を描き、闇の底へと突き刺さるように急停車した。
煌人はハンドルを握りしめたまま、石のように硬直していた。脳内で、「十七歳の石小路真翠」という言葉が、地鳴りのような轟音となって響き渡り続けている。
この二年間、彼は狂乱の中でこの関係を蹂躙し続けてきた。理性を失った夜、何度も何度も彼女の名を呼び捨てにし、「俺の女だ」と囁いては、力ずくでその真心を奪おうとした。奪い、壊し、跪かせれば、いつか彼女を完全に支配できると信じていた。
だが、彼は知らなかった。「真心」なんてものは、十四年前の陽だまりの中で、あの幼い少女がとっくにその掌に隠し、祈るような想いで彼に差し出していたのだ。
ただ、彼にそれを受け取る勇気がなかっただけなのだ。
悔恨が潮のように肺へと逆流し、呼吸をするだけで胸が焼ける。煌人はゆっくりと顔を向けた。赤く充血した瞳に月光が差し込み、その輝きは絶望と共に砕け散る。
隣にいる真翠は、色を失い、まるで脱色されたかのように白い。一度強く触れれば、粉々に崩れてしまいそうなほど、今の彼女は危うかった。
けれどその一瞬、煌人の瞳に重なったのは、紛れもなく十七歳の真翠だった。
あの頃の彼女は、いつも眩しいほどの陽光を纏っていた。ポニーテールを揺らし、放課後の廊下で、逆光の中から「煌人くん!」とはにかんで呼んでいた。その頬は赤らみ、瞳には夏の星空が宿り、その「好き」という響きには、朝露のような瑞々しさがあった。
それは、彼がかつて手にしていながら、自ら握りつぶしたはずの太陽だった。
十四年の時を超えて届いた彼女の告白の前では、今の自分はあまりに醜く、無意味なノイズでしかなかった。
真翠は顔を背け、窒息しそうな静寂の中でそっと目を閉じる。あの「好き」という一言は、彼女の魂を燃やす最後の燃料だったのだ。
煌人の伸ばしかけた手が、空中で激しく震える。
彼はようやく思い知った。自分をあんなにも真っ直ぐに見つめてくれていた「真翠ちゃん」を、自分自身で殺してしまったのだと。
本革のハンドルに涙がこぼれ、彼は心の中で血を吐くように叫んだ。
(……ごめん。ごめん、真翠。君が疲れ果てたなら、もういい。これからの道は、代わりに『石小路煌人』が……どれほど君を愛しているか、教えさせてくれ)
泣き疲れて眠った真翠を、煌人は壊れ物を扱うように抱きかかえ、自分のマンションへと運んだ。彼女を自分のベッドに横たえると、久しく忘れていた安らぎが胸を満たす。
朝八時。アラームが鳴ると、彼は真翠のスマホを静かに取った。
(ごめん、真翠。これが最後だ。最後にもう一度だけ、俺に卑怯な真似をさせてくれ。……明日からは、あの卑劣で臆病な『星野煌人』を君の前から完全に消し去ってみせる。君だけの、汚れなき『石小路煌人』として生まれ変わるから)
彼は真翠のスマホから人事部の麗子さんへ電話をかけた。自分の声で、隠すことなく、二人の逃げ場を断つために。
「もしもし、麗子さんですか。……ええ、煌人です。実は今日、真翠が体調を崩しまして。……ええ、僕が病院へ連れて行きます。……あ、いえ。実は、お腹に子供がいるかもしれなくて。僕が責任を持って付き添います」
『はあぁぁぁ!? 二人って、いつの間に……いや、ええっ、いつから……!?』
受話器の向こうで麗子さんが絶叫するのを耳にしながら、煌人は静かに通話を切った。これで、盤石だ。
寝室に戻ると、真翠はすでに起きていた。彼女は煌人の白いワイシャツを一枚羽織り、気だるげにドアフレームに寄りかかっている。
「……へえ。両親の前で『妊娠した』なんて嘘をつくだけじゃ足りなくて、今度は人事部にまで蒔き散らしたわけ? 麗子さんの口の軽さを知らないわけじゃないでしょうに」
煌人は彼女の言葉には答えず、ただその手を優しく包み込んだ。
「……寒くないか?」
真翠は拒まず、けれど応えもしない。煌人は彼女を抱き上げ、ベッドに座らせると、その足の間に跪いた。
「……お腹、空いてないか? 外食にするか、それとも俺が何か作ろうか」
「煌人さん……あなた、本当に最低ね」
煌人は否定しなかった。代わりに彼女の手を取り、自らの頬を打つように導くと、その掌に深い接吻を落とし、顔に押し当てた。
「ああ。俺は卑しくて、最低な男だ。世界中で君以外、誰も俺なんて欲しがらない。……だから、どこにも行かないでくれ」
「……何を考えてるのか、本当に分からない。周囲を固めて、既成事実を作り上げて。ただ私を抱くためだけに、そこまでコストをかけるの?」
「違う、そんなんじゃない……! 真翠、聞いてくれ。……結婚しよう」
「……もういいわ。疲れたの。あなたに捧げる愛なんて、もう一滴も残ってない」
言葉が終わる前に、煌人は彼女の唇を塞いだ。後悔と慈愛を込めた接吻。
「真翠。君の『好き』を、ほんの少しだけでいいから貸してくれ。残りの人生すべてを、利息をつけて君に返していくから」
「……あなたと『恋人』なんて、もう無理よ」
「……ああ、分かっている。恋人なんて、もういい。恋人じゃなくて、俺の『妻』になってほしい。石小路真翠じゃなく、俺だけの石小路煌人の妻に」
「……今日?」
「……今日はダメだ」
真翠の瞳に、一瞬だけ期待が走り、そしてすぐに深い失望へと沈んだ。
「違う、そんなんじゃない……! 真翠、今日だけは無理なんだ。今夜、もう一度ご両親のところへ行って、這いつくばってでも許しをもらってくる。君の実印も、必要なものも、全部俺が揃えてくるから。……最短でも、明日まで待ってくれ」
真翠は顔を覆った。心の中で泣き続けていた「真翠ちゃん」が、驚いて泣き止むのが分かった。
「……もういいわ。早く朝ごはん買ってきて。昨日から何も食べてないんだから」
その一言が、煌人には何よりの救いに聞こえた。力ずくで奪うのでもなく、卑怯な手で縛りつけるのでもない。ただの「朝ごはん」というありふれた日常の中に、彼女は自分の居場所を許してくれたのだ。
「……ああ。すぐ、買ってくる」
弾かれたように立ち上がった煌人は、情けないほどに顔をほころばせ、足早に部屋を後にした。
独り残された真翠は、浴室の鏡の前に立った。
「……おめでとう、真翠ちゃん。やっと、手に入ったわね」
鏡の横には、煌人の高級な化粧品に混じって、彼女の安価な洗顔料が整然と並べられている。彼女はチューブから最後の中身を絞り出した。少し多すぎたけれど、……まあ、いいわ。明日からは、彼にもっと良いものを買わせればいいのだから。
煌人が戻ってきたとき、真翠はすでにテーブルの上を完璧に整えていた。
この二年間、この部屋に帰るたびに彼を追い詰めていたのは、鼻腔の奥にこびりついて離れない、あの鉄錆のような血の匂いだった。あの日、力ずくで彼女を壊した時の記憶が、逃げ場のない後悔となって、いつも彼の呼吸を重くさせていたのだ。
けれど、今の部屋を満たしているのは、焼きたてのトーストと温かいミルクの、くすぐったいほどに柔らかな匂いだ。その清らかな香りが、暗く沈んでいた部屋の空気を、そっと、けれど確かに塗り替えていく。
その匂いが、初めてこの部屋を「家」に変えていた。
二人は向き合い、静かに朝食を口にした。
「……ねえ、真翠。一つ聞いてもいい?」
煌人は、ミルクのグラスを置くと、窺うような目線を向けた。
「……昨日、君がご両親に言った『浮気』の話、……気になってるんだ。本当に、誰かいたのか?」
「……九条遥よ」
煌人はミルクを噴き出しそうになった。「……は? 九条って、あのエリートの……? 冗談だろ?」
「九条さんは、私に何度も接触してきて、『お前は彼に相応しくない』って。……だから、あなたの将来のために、身を引こうと思ったの」
煌人は激しい怒りに震えた。「……あいつ、何様のつもりだ」
真翠は至って冷静に、ミルクを飲み干して言った。
「……彼は、あなたに抱かれたいんじゃないかしら。私の勘だけど、彼、あっちの人だと思うわよ」
煌人は完全に絶句した。
「…………は?」
しばらくして、ようやく絞り出すように声を上げた。
「……じゃあ、待て。……昨日、君が別れを切り出したのは、本当に俺の将来を想ってのことだったのか?」
真翠は凛とした瞳で彼を見据えた。
「勘違いしないで、煌人。私はあなたを愛しているけれど、それ以上に自分を愛しているわ。……あなたの横にいる私を、あんな汚い視線で見る男がいるのも、それを許している環境も、耐えられなかった。……何より、あなた自身の私への軽蔑が、一番許せなかっただけ」
煌人はようやく理解し、負けを認めるように笑った。
もう、限界だった。目から一筋の涙が、音もなく、けれどあまりに重くこぼれ落ちる。平淡すぎて、かえって心臓を抉るような声で言った。
「……煌人さん。もう、終わりにしましょう。……十七歳の『石小路真翠』は、あなたのことが本当に大好きだった。でも、今の私は……もう、疲れちゃったの」
「キィィィィィッ!」
アスファルトを悲鳴を上げて切り裂くタイヤの音。車は無人の道路中央で乱れた弧を描き、闇の底へと突き刺さるように急停車した。
煌人はハンドルを握りしめたまま、石のように硬直していた。脳内で、「十七歳の石小路真翠」という言葉が、地鳴りのような轟音となって響き渡り続けている。
この二年間、彼は狂乱の中でこの関係を蹂躙し続けてきた。理性を失った夜、何度も何度も彼女の名を呼び捨てにし、「俺の女だ」と囁いては、力ずくでその真心を奪おうとした。奪い、壊し、跪かせれば、いつか彼女を完全に支配できると信じていた。
だが、彼は知らなかった。「真心」なんてものは、十四年前の陽だまりの中で、あの幼い少女がとっくにその掌に隠し、祈るような想いで彼に差し出していたのだ。
ただ、彼にそれを受け取る勇気がなかっただけなのだ。
悔恨が潮のように肺へと逆流し、呼吸をするだけで胸が焼ける。煌人はゆっくりと顔を向けた。赤く充血した瞳に月光が差し込み、その輝きは絶望と共に砕け散る。
隣にいる真翠は、色を失い、まるで脱色されたかのように白い。一度強く触れれば、粉々に崩れてしまいそうなほど、今の彼女は危うかった。
けれどその一瞬、煌人の瞳に重なったのは、紛れもなく十七歳の真翠だった。
あの頃の彼女は、いつも眩しいほどの陽光を纏っていた。ポニーテールを揺らし、放課後の廊下で、逆光の中から「煌人くん!」とはにかんで呼んでいた。その頬は赤らみ、瞳には夏の星空が宿り、その「好き」という響きには、朝露のような瑞々しさがあった。
それは、彼がかつて手にしていながら、自ら握りつぶしたはずの太陽だった。
十四年の時を超えて届いた彼女の告白の前では、今の自分はあまりに醜く、無意味なノイズでしかなかった。
真翠は顔を背け、窒息しそうな静寂の中でそっと目を閉じる。あの「好き」という一言は、彼女の魂を燃やす最後の燃料だったのだ。
煌人の伸ばしかけた手が、空中で激しく震える。
彼はようやく思い知った。自分をあんなにも真っ直ぐに見つめてくれていた「真翠ちゃん」を、自分自身で殺してしまったのだと。
本革のハンドルに涙がこぼれ、彼は心の中で血を吐くように叫んだ。
(……ごめん。ごめん、真翠。君が疲れ果てたなら、もういい。これからの道は、代わりに『石小路煌人』が……どれほど君を愛しているか、教えさせてくれ)
泣き疲れて眠った真翠を、煌人は壊れ物を扱うように抱きかかえ、自分のマンションへと運んだ。彼女を自分のベッドに横たえると、久しく忘れていた安らぎが胸を満たす。
朝八時。アラームが鳴ると、彼は真翠のスマホを静かに取った。
(ごめん、真翠。これが最後だ。最後にもう一度だけ、俺に卑怯な真似をさせてくれ。……明日からは、あの卑劣で臆病な『星野煌人』を君の前から完全に消し去ってみせる。君だけの、汚れなき『石小路煌人』として生まれ変わるから)
彼は真翠のスマホから人事部の麗子さんへ電話をかけた。自分の声で、隠すことなく、二人の逃げ場を断つために。
「もしもし、麗子さんですか。……ええ、煌人です。実は今日、真翠が体調を崩しまして。……ええ、僕が病院へ連れて行きます。……あ、いえ。実は、お腹に子供がいるかもしれなくて。僕が責任を持って付き添います」
『はあぁぁぁ!? 二人って、いつの間に……いや、ええっ、いつから……!?』
受話器の向こうで麗子さんが絶叫するのを耳にしながら、煌人は静かに通話を切った。これで、盤石だ。
寝室に戻ると、真翠はすでに起きていた。彼女は煌人の白いワイシャツを一枚羽織り、気だるげにドアフレームに寄りかかっている。
「……へえ。両親の前で『妊娠した』なんて嘘をつくだけじゃ足りなくて、今度は人事部にまで蒔き散らしたわけ? 麗子さんの口の軽さを知らないわけじゃないでしょうに」
煌人は彼女の言葉には答えず、ただその手を優しく包み込んだ。
「……寒くないか?」
真翠は拒まず、けれど応えもしない。煌人は彼女を抱き上げ、ベッドに座らせると、その足の間に跪いた。
「……お腹、空いてないか? 外食にするか、それとも俺が何か作ろうか」
「煌人さん……あなた、本当に最低ね」
煌人は否定しなかった。代わりに彼女の手を取り、自らの頬を打つように導くと、その掌に深い接吻を落とし、顔に押し当てた。
「ああ。俺は卑しくて、最低な男だ。世界中で君以外、誰も俺なんて欲しがらない。……だから、どこにも行かないでくれ」
「……何を考えてるのか、本当に分からない。周囲を固めて、既成事実を作り上げて。ただ私を抱くためだけに、そこまでコストをかけるの?」
「違う、そんなんじゃない……! 真翠、聞いてくれ。……結婚しよう」
「……もういいわ。疲れたの。あなたに捧げる愛なんて、もう一滴も残ってない」
言葉が終わる前に、煌人は彼女の唇を塞いだ。後悔と慈愛を込めた接吻。
「真翠。君の『好き』を、ほんの少しだけでいいから貸してくれ。残りの人生すべてを、利息をつけて君に返していくから」
「……あなたと『恋人』なんて、もう無理よ」
「……ああ、分かっている。恋人なんて、もういい。恋人じゃなくて、俺の『妻』になってほしい。石小路真翠じゃなく、俺だけの石小路煌人の妻に」
「……今日?」
「……今日はダメだ」
真翠の瞳に、一瞬だけ期待が走り、そしてすぐに深い失望へと沈んだ。
「違う、そんなんじゃない……! 真翠、今日だけは無理なんだ。今夜、もう一度ご両親のところへ行って、這いつくばってでも許しをもらってくる。君の実印も、必要なものも、全部俺が揃えてくるから。……最短でも、明日まで待ってくれ」
真翠は顔を覆った。心の中で泣き続けていた「真翠ちゃん」が、驚いて泣き止むのが分かった。
「……もういいわ。早く朝ごはん買ってきて。昨日から何も食べてないんだから」
その一言が、煌人には何よりの救いに聞こえた。力ずくで奪うのでもなく、卑怯な手で縛りつけるのでもない。ただの「朝ごはん」というありふれた日常の中に、彼女は自分の居場所を許してくれたのだ。
「……ああ。すぐ、買ってくる」
弾かれたように立ち上がった煌人は、情けないほどに顔をほころばせ、足早に部屋を後にした。
独り残された真翠は、浴室の鏡の前に立った。
「……おめでとう、真翠ちゃん。やっと、手に入ったわね」
鏡の横には、煌人の高級な化粧品に混じって、彼女の安価な洗顔料が整然と並べられている。彼女はチューブから最後の中身を絞り出した。少し多すぎたけれど、……まあ、いいわ。明日からは、彼にもっと良いものを買わせればいいのだから。
煌人が戻ってきたとき、真翠はすでにテーブルの上を完璧に整えていた。
この二年間、この部屋に帰るたびに彼を追い詰めていたのは、鼻腔の奥にこびりついて離れない、あの鉄錆のような血の匂いだった。あの日、力ずくで彼女を壊した時の記憶が、逃げ場のない後悔となって、いつも彼の呼吸を重くさせていたのだ。
けれど、今の部屋を満たしているのは、焼きたてのトーストと温かいミルクの、くすぐったいほどに柔らかな匂いだ。その清らかな香りが、暗く沈んでいた部屋の空気を、そっと、けれど確かに塗り替えていく。
その匂いが、初めてこの部屋を「家」に変えていた。
二人は向き合い、静かに朝食を口にした。
「……ねえ、真翠。一つ聞いてもいい?」
煌人は、ミルクのグラスを置くと、窺うような目線を向けた。
「……昨日、君がご両親に言った『浮気』の話、……気になってるんだ。本当に、誰かいたのか?」
「……九条遥よ」
煌人はミルクを噴き出しそうになった。「……は? 九条って、あのエリートの……? 冗談だろ?」
「九条さんは、私に何度も接触してきて、『お前は彼に相応しくない』って。……だから、あなたの将来のために、身を引こうと思ったの」
煌人は激しい怒りに震えた。「……あいつ、何様のつもりだ」
真翠は至って冷静に、ミルクを飲み干して言った。
「……彼は、あなたに抱かれたいんじゃないかしら。私の勘だけど、彼、あっちの人だと思うわよ」
煌人は完全に絶句した。
「…………は?」
しばらくして、ようやく絞り出すように声を上げた。
「……じゃあ、待て。……昨日、君が別れを切り出したのは、本当に俺の将来を想ってのことだったのか?」
真翠は凛とした瞳で彼を見据えた。
「勘違いしないで、煌人。私はあなたを愛しているけれど、それ以上に自分を愛しているわ。……あなたの横にいる私を、あんな汚い視線で見る男がいるのも、それを許している環境も、耐えられなかった。……何より、あなた自身の私への軽蔑が、一番許せなかっただけ」
煌人はようやく理解し、負けを認めるように笑った。
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