魔界王立幼稚園ひまわり組

まりの

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続・魔界王立幼稚園ひまわり組

10:モデルは魔王様

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 予想外の事も起きて、ばたばたしたまま終わってしまった夏祭りだったが、それなりに子供達は楽しかったようです。
 折角踊りも覚えたし、一人一人に作った浴衣。これはまたお遊戯会の時にももう一回踊ろうと言う事で、置いておくことにした。
 あの後の魔王様とペルちゃんママですが、ええ、何もございませんでした。私達の部屋にお泊りした二人は、朝早くに帰って行った。
 代休明け。子供達は今日も元気いっぱい登園して来た。
「お絵かき~!」
「粘土こねこねっ!」
「ちあうの、もっとたいちょーにゃの!」
「お砂遊びしようよ」
 ひまわりさんのお教室はわいわいガヤガヤ。朝のお歌を唄って、軽い体操をした後、何をしようという事になり、熱い議論がなされています。
 本当はこの後簡単な貼り絵でもさせようと用意してあるのだが、たまにはこうやって意見を言い合うのも良いかと思って幾つかの班に分けて話し合いをさせてみた。年中のバラ組さんや年長のスミレ組さんは、こうやって自分達で決めた事をやる時間を設けてなかなか上手に出来ている。
 でもそこはまだ一番小さい子達のひまわり組。なかなか意見が纏らないようです。というか、各自言いたいように言っているので話し合いにもなってません。
「ココナ先生、まだ早かったのでは?」
 補助のてんちゃんもすこし呆れている。
 だが今年の幼稚園の目標は『自主性』なのだ。この後来月にはお遊戯会、その翌月には運動会と大きな行事が控えている。この辺りですこしばかり練習を始めようと思ったのだ。
 ちょっとだけ助け舟を出してみる。
「じゃあお手てを上げて、一人ずつ喋ってみようよ。それで、いいなと思ったら拍手ぱちぱちで決めよう。まずはしーだよ」
 おーと子供達から声が上がる。そしてやや静かになったお教室。
「はーい、はーい!」
 おお、やんちゃ坊主のさんちゃんが手を上げた。
「じゃあ、さんちゃん」
「かけっこがいいれす!」
 男の子達がぱちぱちと疎らに手を叩いた。女の子達は乗気でないようだ。
「あいっ」
 青緑のうろこの美しいえりちゃんがぴしっと手を上げた。エリレーヌちゃんはマーム先生と同じラミアで下半身は蛇だ。
「じゃあえりちゃん」
「お絵かきをしたいです。誰かを見本にして描きます」
 流石はもう四歳。しっかりとした口調で言う彼女は頼れる学級委員長タイプだ。マーム先生の家族といい、この種族は頭がいいみたい。ちなみにマーム先生の娘さんリューアちゃんもこの幼稚園の卒園生だ。
 ぱちぱちぱちと、大きな拍手が起きた。女の子だけでなく、男の子達も手を叩いている。体を動かしたかったさんちゃん達は頬を膨らませているが、ペルちゃんやリノちゃんも拍手している。これはほぼ満場一致という感じだね。
「じゃあ、まずお絵かきしましょうか。かけっこはお絵かきの次にしようね」
「あーい!」
 なんとか皆納得がいったようです。絶対に大事なのは他の意見も否定しない事。もう何だかんだで保母も長くなって来ましたが、今でもほんの僅かな間お世話になった保育園の先輩達の言葉は大事だなと思う瞬間です。
 ええと、見本というのは、モデルって事だろうか。
「誰を描くのかな? お友達?」
「ううん、られかに、前にたっちぇもらって見て描くにょ」
 リノちゃんが説明してくれたが、えりちゃん達も頷いているところを見るとそういう事らしい。
 そういえば先日読んだ絵本、お姫様がポーズを決めてモデルに立ってて、それを一番上手に描けた男の人が結婚できるというお話だった。結局あまりに大変なポーズを決めていたお姫様は立っていられなくなって転び、一番絵が下手くそで貧乏で、でもお姫様が密かに恋をしていた青年の紙の上に顔をべちゃっとついてしまい、お化粧が紙について本物の顔が写せたのでめでたしめでたしというもの。みんなに大ウケだったからな。あれの影響だろう。
「誰が立つの? ココナ先生? テンゼラ先生?」
 んー、となんか冴えない声が上がった。軽くショック。そうですか、先生達では創作意欲が湧きませんかぁ。
「王子たまとか」
 恥ずかしそうにきぃちゃんが呟いた。周りで女の子達がうんうんやってるな。やはり女の子達はおマセさんか。でもユーリちゃんかぁ。
「ユーリ王子は今スミレ組さんと畑行っちゃったしね」
「えー」
 きぃちゃん達は残念そうだったが、すぐにみかちゃんが次の候補を。
「じゃあ魔王さま」
「まおうたま、ちょれがいい!」
「ちゃんちぇー!」
 おお。魔王様、子供達に大人気ですよ。男の子達も今度はノリノリだ。
「なぜ魔王様?」
「らって、まおーたまが一番ヒマちょーらし」
「……」
 いや、魔王様はすごくお忙しいと思うのだが。仕事をなさっているお姿を見たことの無い子供達からしたら、魔王様は暇そうに見えているのか……。夏祭りの時の羽根と角のある魔王様の勇姿に感動したからでは無いのか。

「こうかな?」
 急遽呼ばれた魔王様は、文句を仰る事も無く輪になって座った子供達の中央で立っておられる。
「もっちょ、カッコよく」
「……こう?」
 腰に手を当てて立たれた魔王様は充分すぎるほどイケてると思うのだが、何が駄目なんだ、子供達。ぶんぶん首を振って否定ですか。
「手をこんな感じで、片足上げてぇ……」
 言われるがままに、やってくださる魔王様はホント付き合いがいい。君達、この魔王様は子供にお優しいからいいけど、ホントだったらお手打ちにされてもおかしくは無い暴挙だよ。
「しゅごーい! まおーたま」
「しょれ超カッコイイ!」
「描きまちゅ! 動かにゃいれ」
 ポーズが決まったのは良い。だがこれは……。
「なんて勇ましくも凛々しいお姿。戦将のポーズですね!」
 てんちゃんもうっとり見てますが、そ、そうなんですか? これが魔界の戦いの将のポーズなんですか? その内側を向けて上げられた片腕、もう片方の手の肘は直角に胸の前に曲げられ、上げられた片足はこれまた直角に曲げられてややガニマタ気味のもう片方の膝の前に……どう見ても「シェー」って声が聞こえてきそうですよね。無表情にお美しい顔がよりこのポーズを残念に彩っているよ。
 笑ってはいけない。魔王様は真面目にモデルをやっておいでだ。そして子供達は真剣な顔で描いている。ここで私が笑ったり……しちゃ……!
「ぶっ」
 すみません、ふき出してしまいました。
「何か面白いことでもあったのだろうか、ココナさん」
「いえ、何でも」
 魔王様、どんな絵が出来上がるんでしょうね。若干膝が震えているのはやはり厳しいんですね、このポーズ。もう結構経ちますもんね。
「まおーたま、動いちゃらめれすぉ」
「も、もう描けたかな?」
「まだれーす」
「……」
 ううっ、お腹が痛い。魔王様も限界が近そうだが私の腹筋もそろそろ限界に近い。この魔王様をサリエノーアさんに見せてあげたい! きっともう怖いなんて絶対に思わないと思う。
「あ、足が吊る……」
 魔王様、若干冷や汗が出ているように思います。
「色は後で塗ろうね。魔王様を休憩させてあげてね」
 えーっと声が上がったが仕方が無い。椅子を差し出すと魔王様がほっとしたように掛けられた。
「……この程度で疲れるとは。鍛え方が足りないだろうか。それとも歳かな」
「何を仰います。毎朝城の周りを三百周と筋トレをしてらっしゃいますのに」
 いやー、あのポーズをかれこれ三十分やらされたら、誰でもキツイです。これ以上無駄に鍛えなくても良いと思います。運動会が怖いです。
 子供達が絵を描いている間、魔王様がそっと私に手招きされた。
「あの、ココナさん、あの後彼女は何か言っていただろうか?」
「いえ……お疲れだったようですぐに休まれて。昨日もお仕事が忙しいらしくて朝早くに帰られて。ご挨拶もせずにすみませんと魔王様にお伝えくださいとだけ」
「……そうか」
 魔王様の横顔が少し寂しそうに見えた。
 でもまだ終わったわけじゃないですからね。頑張って彼女を魔界の真の住人にするという目的を果たしていただかなければ。彼女がまだ堕ちていないとわかったからお父さんは迎えに来ると言うのなら、堕天してしまえばいい。魔界の平和は魔王様に懸かっているのですからね。
 ……ちょっと方法はアレですが。
「まおーたまー! もう一回ー!」
 お気の毒に、魔王様はもう一度『戦将のポーズ』をやらされました。

「描けた~!」
 子供達もそろそろ描けたみたいですよ。さあ、どんな絵になったかな?
「うん……」
 はい、みんなそれぞれ色んな角度で可愛くも大胆に描けましたね。まだ三・四歳の子の絵なんでモデルが魔王様だとわかる絵はありませんけどね。
 おお! ペルちゃんは本当に上手だね。ちゃんと魔王様ってわかるよ!
「すごく上手に描けたね」
「お母さんに見せます!」
 ぜひ見せてあげてください。
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