魔界王立幼稚園ひまわり組

まりの

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続・魔界王立幼稚園ひまわり組

12:身体測定

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「まっ、ま、魔王様におおお、お茶をお持ちしまっ、したっ」
 随分と不自然なアイマスク姿も見慣れて来たが、相変わらずサリエノーアさんは魔王様の近くに行くとロボットの様な動きになり、緊張して上手く喋れないようだ。
 仕事は出来るほうで、細々した事は気が利くし、他の城の人の評判も良い。あまり近寄ると純粋の下級魔族は疲れを感じるようだが短時間なら大丈夫のようだし、上手くやっていると思う。だが、彼女はなぜかまだ魔王様だけは怖いようなのだ。
「ありがとう。もういいから早く子供が待ってる部屋に帰ってやりなさい。さ、さっちゃん」
「はい。あ、あ、ありがとうございます。しっ、失礼いたしますっ!」
 何故か耳を真っ赤にして、ぎぎぎと音がしそうなぎこちない動きでお辞儀すると、サリエノーアさんは去って行った。
 ふう、と溜息の魔王様。こっちも思わず肩の力が抜ける。
 ちなみに、サリエノーアというのが呼び難いため「さっちゃん」という愛称を考えてみたのは私である。
「彼女は私に食われるとでも思っているのだろうか。あの怯えよう……」
 魔王様はちょっといじけモードだ。
「いずれは食うんですよね。性的な意味で……わっ!」
 ウリちゃんの笑顔の発言はさり気なく飛んだ魔王様の裏拳で止められた。寸でのところでかわしたので、ウチの旦那様は首を失わずに済んだ。
「そう言う事を冗談でも言うな」
「冗談ではございません。いっそ怖がっている今が抵抗されないチャンスかもしれません。早くベッドに押し倒しておしまいなさい」
「う、うむ。そうか、それもそうかも……」
 と、そこまで言ってから、はっとした様に私の方を見る魔王様とウリちゃん。
「ご婦人の前だったな」
「あー、いやー、そのぉ」
 へえ。一応私はご婦人扱いでございましたか。いいんですよ、別に。
「……男同士の会話ってそんなものなのですね。良かったですね、ここに子供達がいなくて」
 にっこり笑っておいてやった。
 でも、そうだよね……魔王様に頑張ってもらわないと困るんだよね。早くしないとお迎えが来ちゃうかも。無事お遊戯会や運動会が出来るんだろうか。
 こっちはこっちで、女同士で動いてみますか。

「はーい、みんな並んでー」
 今日は身体測定をします。
 幼稚園も年を重ねるごとに色んな種族のデータも集まってきて、大体平均値がとれるようになったので、発育の具合を確かめるため二月に一度の頻度で体重、身長を測っています。時々欠食が原因の発育不良の子がいるのですが、そこは城の魔導医師の協力により給食でカバーして少しでも元気に過ごしてもらう事が出来てます。
 今回の測定、実はこの後のお遊戯会の衣装作りにも関係しているので胸囲も測りますよ。
 身長計は大工さんが作ってくれたので、当初と比べて随分と楽になりました。そして毎度おなじみのメジャー。
「しゅるしゅるー!」
「まきまきぃ!」
 やはり目が輝いていますね。でもケンカになるので渡しませんよ。
「いく君はすごく背が伸びたね。四・四ウルだよ。胸囲は二・六」
 入って来たときは四ウルも無かった犬獣人のイクサル君。大きくなったね。
「ポメちゃん、体無理に伸ばさないでね」
 少し透き通った伸縮自在の体を持つポメラちゃんは沼に棲む魔族。むにーっとお顔が縦長になっちやってるよ。
「カンちゃんは角まで入れたら四・七あるね」
 短い尻尾がぴこぴこ可愛い。でも山羊の足って背伸びしてるのかちゃんと立ってるのかわからないのが難点です。
「リノちゃんは四・二だね。胸囲は二・三」
 おお、二ヶ月で大きくなってるぅ。胸囲はこんなもんだが、ぽっこりお腹がまだ締まってこない三歳児です。
「ペルちゃんは初めてだよね。ええと、背は四・三」
「リノちゃんより大きい」
 あら、嬉しいんだね。ペルちゃんがニコニコしている。
「お、女の子れしゅから、リノはっ」
「胸囲は……二・一。スマートだねぇ、ペルちゃん」
 栄養が足りないほどでもないので大丈夫だが、ぷくぷくのリノちゃんに比べてペルちゃんは少し細い。微妙にショックを受けているっぽいリノちゃん。
「……リノおデブしゃん……」
「ぐ、グラマーな方がいいんじゃない? 女の子は」
「ちょーだぉ。大人になったら、せんせーみたいに無いよりマームせんせみたいに、ぼよんってあった方がいいぉね」
 ……ボウちゃん、悪かったね貧乳で。これでも一応子供に乳飲ませる事は出来たんだよ。
「そうだよ。ウチのお母さんも細く見えるけどおっぱいもお尻も大きいよ」
「……」
 ペルちゃんまで何ですか。三歳児におっぱいは関係ないよ。
 でも、ふうん。さっちゃんはおっぱいとお尻が大きいそうです、魔王様。
 体重を量るのがまた大変です。
「ココナ先生、もう一つ貸してください!」
 横で同じく身体測定をやっていたバラ組さんから声がかかった。
「だいちゃんとでん君ですか」
 巨人族の双子ちゃんは体重計一つでは量れないので、片足づつで二個いります。
「だいちゃんは四十・八ゲルですね」
 ……一ゲル大体二十五グラムだ。百二十キロか……背も八・六ウルあったそうだし。大きいなぁ。それが二人。バラ組さんも大変だね。
「あー、終わったらこちらももう一つ貸してください」
「モコちゃんも一つでは計れないんですか?」
「ええ、見た目は小さいんですけど……」
 身長は三・八ウルしかなかったモコちゃんですが、前回三十ゲルまで計れる体重計を一つ壊した。岩魔族は密度がハンパ無いので重たいんです。とっても可愛いおチビちゃんなんですが、絶対に抱っこはしてあげられません。一度ウリちゃんがぎっくり腰をやりました。
 後で計ったら、モコちゃんは四十ゲルありました。重い子は同じルウラに乗せずに分けているが、考えたらすごくご苦労さんなんだね、ルウラ。

 お帰りのお歌を唄い、自分で帰り支度できるようになって来たひまわり組の園児達。他のクラスのお兄さんお姉さん達とルウラ発着所までは、もはや魔王城名物となった電車ごっこで向かいます。
「ちゅっちゅ、ぽっぽ~」
 ユーリちゃんが小さいときはよく先導でやってくれたのを思い出す。今は通園の必要の無いリノちゃんがその役目です。
 今日の引率当番は元祖車掌のユーリ王子と私。
 今まで幸いなことに園児で迷子になった子はいませんが、魔王城は一つ道筋を間違えると帰って来られません。有力上級貴族の一人が何やら良からぬ事を企んでいると密告があった直後に、魔王様がその人を城にお招きになった際に迷子になったのはまだ記憶に新しい。かなり昔に人間の国の前王と手を組み魔王様の地位を覆そうとして御家断絶になった公爵家の関係者だったらしいけど、二年経った今でもまだ発見されておりません。
 そんなわけで慣れたお城関係者でも決して横道には逸れないのです。
「ばいばーい!」
「また明日ね!」
 子供達を乗せた白いルウラが次々と飛んでいくのを手を振って見送る。
「リノもルウラにのっちぇみちゃいれす」
「今度お休みの日にでも乗ろうか」
 ユーリちゃんもよくお出かけしたいって駄々こねてたもんね。
「わーい、うれちーれすぉ」
「じゃあママもパパも一緒でもいい?」
「えー」
 ……なんですか、その嫌そうな声は。
「そうだよね。リノちゃんと僕でデートするんだよね」
「あい、ちょうゆーわけにゃのれ、お邪魔ちないれくらしゃい」
「……」
 このおマセさんをどうしてくれようか。パパ泣くよ? ユーリちゃんがこっちに向かってウインクしているのは、冗談ですよという事なんだろうけどね。
「僕もお外、行きたいなぁ……」
 下から小さな声が聞こえてはっとした。そうだ、大人しいので忘れていたけど通園の必要の無くなった子がもう一人いるんだった。ペルちゃん。
「ペルたんもいっちょ、いいれすぉ。ねー、おーじ?」
「勿論だよ」
 そうですかー、パパママは駄目でもペルちゃんはいいんですか。
 魔王様、子供達の方が案外進んでるようですよ。

*一ウル=二十五グラム、一ゲル=二十五センチで計算してみてください。 
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