私のレンズに写るものは 〜視覚障害を持つ少女〜

梅屋さくら

文字の大きさ
40 / 41

40. 〜光穂〜

しおりを挟む
 桜がふわりと香り、桜の花びらに敷き詰められているらしい不思議な感触がする道を歩く。
 おめでとう、などの歓声に送られ、袴を着た私は3年間通ったこの高校から卒業した。
脇に力を込めて抱えた卒業証書は、本来の重さよりもずっと重く感じる。
 あの日の告白から、私と清也は何度かお出掛け……つまりデートをした。
あまりお金のかからない、公園や花畑に良く行ったが、それは私が高校生であることももちろんあるだろうが、清也がカメラマンであることが1番大きな理由だったように思う。
 相変わらず彼は私をモデルに何枚も撮っていたが、あの日以来写真を現像して渡してくることはなかった。
あの写真は額縁に入れて私の部屋に飾ってあるのだが、今でも時折その写真を指で撫でる。
 しかし清也とデートできたのも夏頃までだった。
私はとある芸術大学で音楽を本格的に学ぶため、実技も含めて今までにないくらい勉強をしなければならなかった。
また、清也も私の高校での作業が終わりに近付いていて、最終調整に忙しいと言っていた。
 今日の卒業式を思い出すと、1番に思い出せるのは瑞希のことだ。
彼女は司会を務めていたのだが、退場のとき嗚咽《おえつ》を漏らして誰よりも泣いていたからだ。
正直、彼女があまりにも泣くので私たち生徒の方が泣けない雰囲気になってしまった。
 私の母はそんな瑞希を見てさらに泣いていた様子で、娘としては恥ずかしかった。
しかし私の成長を何よりも喜んでくれる両親にはどうしても返しきれない恩があると感じている。
式に来てくれた2人に卒業記念品の生花を渡すと、彼らは私のことを力強く抱き締めた。
 式が終わりすぐに帰る人や泣いて別れを惜しむ人がいる中で、理人はすぐに私のところにやってきて、第二ボタンを半ば強引に渡した。

「光穂、高校でもいろいろとありがとう」

 これからも私たちは会う約束をするつもりではいたが、そんなことを改めて言われて涙が溢れる。

「こちらこそありがとう」

 そう言って、理人に思いきりハグをした。

 理人に付き添ってもらって校門を出たところに、スーツを着ているらしい清也が立っていた。

「2人とも、卒業おめでとう」

 彼は私に花のモチーフがついた髪飾りを、理人には小さな花束を渡して言った。

「じゃあ、バトンタッチ。またね光穂」

 理人は私の肩をぽんぽんと叩いて去る。

「親御さんは?」
「先に帰りました」
「そっか、じゃあ一緒に桜の名所へ行こう。学校もたくさん咲いているけど、俺は入れないからね」

 彼の運転で隣町の桜で有名な場所に着き、私たちは歩いて木陰に陣取る。

「ひらひらって桜が舞ってる。光穂ちゃんにとても似合ってる景色だ」

 そう言って清也は片手を私の肩に、もう片手を頭に乗せて、そこから手をするすると滑らせて両手が肩に乗る格好になった。

「俺、会社辞めることにした。それで専門学校で2年間、前からしてみたかったカメラの勉強をしようと思ってるんだ」
「最近忙しいって言ってたのって……」
「そう、実は俺も試験勉強。終わってから言いたくて嘘ついててごめんね」

 私は首を振って、

「どんどん夢を叶えていて素敵です! 私たち、お互い学生ですね」
「ははは、そうなるね」

 清也はそれだけ言って黙り込む。
私は次の言葉を受け取ろうと、彼がいるであろう方向に顔を向けた。
 すると突然私の唇に柔らかい感触がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

灰かぶりの姉

吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。 「今日からあなたのお父さんと妹だよ」 そう言われたあの日から…。 * * * 『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。 国枝 那月×野口 航平の過去編です。

聖女は秘密の皇帝に抱かれる

アルケミスト
恋愛
 神が皇帝を定める国、バラッハ帝国。 『次期皇帝は国の紋章を背負う者』という神託を得た聖女候補ツェリルは昔見た、腰に痣を持つ男を探し始める。  行き着いたのは権力を忌み嫌う皇太子、ドゥラコン、  痣を確かめたいと頼むが「俺は身も心も重ねる女にしか肌を見せない」と迫られる。  戸惑うツェリルだが、彼を『その気』にさせるため、寝室で、浴場で、淫らな逢瀬を重ねることになる。  快楽に溺れてはだめ。  そう思いつつも、いつまでも服を脱がない彼に焦れたある日、別の人間の腰に痣を見つけて……。  果たして次期皇帝は誰なのか?  ツェリルは無事聖女になることはできるのか?

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...