62 / 162
#1 レツオウガ起動
Chapter02 凪守 02-09
しおりを挟む
一言で言い表すなら、それはドームだった。
薄墨に染まった海の只中に、赤色の半球が浮いていたのだ。
だが建物では無い。何か、巨大な光の塊――強いて言えば昨日、日乃栄高校の中庭で見た光柱に似ているが、いかんせん規模が違う。
手前に写っている模型サイズの駆逐艦が本物ならば、優にキロメートル単位の大きさのはずだ。
「これが、その……?」
「そ、キューバ危機で出来ちゃった霊地さ。直径約10キロに及ぶこの霊地は、当時の世界中の不安、恐怖、怒りが収束されてた。まぁー当時の人からすりゃ生きた心地なんてしなかったろうしねー。何せ第三次世界大戦の瀬戸際だった訳だからさー。だから――」
頬杖を突くのを止め、巌はまっすぐに風葉を見据える。
「――そこから生まれちゃったのさ。擬似的にとはいえ、北欧神話に記された世界の終焉がね。で、その頭文字を取ってRフィールドってワケ」
「ラグ、ナロク」
聞き覚えだけはうっすらとあるその単語を、オウム返しに風葉は呟く。
「正確にはその一説、炎の巨人が出現しただけだったんだけど、それでもまぁ被害は甚大だったらしいよ。幻燈結界だけはどうにか間に合ったものの、三度に渡る殲滅作戦は全て失敗。それでも四度目で何とか安定化させる事だけは出来たのさ」
「安定化、だけ、と言う事は――」
「そ、Rフィールドそのものは未だに存在してるんだよねー。ある程度薄まったとはいえ、今も世界中から不安とかの霊力を集めてる真っ最中なのさー」
「だ、大丈夫なんですか?」
「ま、その辺は心配しなくても良いんじゃないかなー。理由はどうあれ、今のRフィールドはただのでっかい霊地だからねー。で、ここからが本題なワケだけど、その前におかわり」
「まったくよう飲むのう」
少し呆れつつも、雷蔵は空になった湯飲みを受け取る。
「さて、そんなRフィールドを殲滅させよう、って作戦自体は今も続いてるんだよねー。で、そのために必要なのがフェンリルなワケさー」
「犬耳が、ですか?」
「そ。正確には『ラグナロクに幕を引く役目を持ってる』事そのものだね。この属性を術式で補強拡張変換その他諸々色々と加工して突っ込んで、Rフィールドを部分的に、少しずつ切り取って行こうって寸法さ」
出がらしになった茶葉を入れ替え、手早く急須にお湯を注ぐ雷蔵を横目に、巌は続ける。
「そうすれば、Rフィールドもただの霊力として還元していける――つまりフェンリルは世界的な危険物を、無害かつ莫大なパワーソースへ変換できる、とんでもなくオイシイ代物なのさ。注目度ウナギ登りなのも当然だねー」
「これに、そんな事が……」
薄墨に染まった海の只中に、赤色の半球が浮いていたのだ。
だが建物では無い。何か、巨大な光の塊――強いて言えば昨日、日乃栄高校の中庭で見た光柱に似ているが、いかんせん規模が違う。
手前に写っている模型サイズの駆逐艦が本物ならば、優にキロメートル単位の大きさのはずだ。
「これが、その……?」
「そ、キューバ危機で出来ちゃった霊地さ。直径約10キロに及ぶこの霊地は、当時の世界中の不安、恐怖、怒りが収束されてた。まぁー当時の人からすりゃ生きた心地なんてしなかったろうしねー。何せ第三次世界大戦の瀬戸際だった訳だからさー。だから――」
頬杖を突くのを止め、巌はまっすぐに風葉を見据える。
「――そこから生まれちゃったのさ。擬似的にとはいえ、北欧神話に記された世界の終焉がね。で、その頭文字を取ってRフィールドってワケ」
「ラグ、ナロク」
聞き覚えだけはうっすらとあるその単語を、オウム返しに風葉は呟く。
「正確にはその一説、炎の巨人が出現しただけだったんだけど、それでもまぁ被害は甚大だったらしいよ。幻燈結界だけはどうにか間に合ったものの、三度に渡る殲滅作戦は全て失敗。それでも四度目で何とか安定化させる事だけは出来たのさ」
「安定化、だけ、と言う事は――」
「そ、Rフィールドそのものは未だに存在してるんだよねー。ある程度薄まったとはいえ、今も世界中から不安とかの霊力を集めてる真っ最中なのさー」
「だ、大丈夫なんですか?」
「ま、その辺は心配しなくても良いんじゃないかなー。理由はどうあれ、今のRフィールドはただのでっかい霊地だからねー。で、ここからが本題なワケだけど、その前におかわり」
「まったくよう飲むのう」
少し呆れつつも、雷蔵は空になった湯飲みを受け取る。
「さて、そんなRフィールドを殲滅させよう、って作戦自体は今も続いてるんだよねー。で、そのために必要なのがフェンリルなワケさー」
「犬耳が、ですか?」
「そ。正確には『ラグナロクに幕を引く役目を持ってる』事そのものだね。この属性を術式で補強拡張変換その他諸々色々と加工して突っ込んで、Rフィールドを部分的に、少しずつ切り取って行こうって寸法さ」
出がらしになった茶葉を入れ替え、手早く急須にお湯を注ぐ雷蔵を横目に、巌は続ける。
「そうすれば、Rフィールドもただの霊力として還元していける――つまりフェンリルは世界的な危険物を、無害かつ莫大なパワーソースへ変換できる、とんでもなくオイシイ代物なのさ。注目度ウナギ登りなのも当然だねー」
「これに、そんな事が……」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる