【R18】【短編集】気持ちいい魔法の杖から、私のことが大好きな竜が生まれました【タイトルは最新作名】

ToRa

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あなたを好きになる理由

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 もうエリクと会うことは無いだろうと覚悟した翌日、何故か、医薬研究所への書類運びがアイシスに割り振られてしまった。不機嫌そうな顔をした上役の先輩侍女から書類を渡されたため、アイシス以外に人がいなくて仕方なくなのかもしれない。

 事務室に書類を運び、いつもなら裏門に続く扉に向かうが、今日はそのまま正面扉に向かって歩きだした。

「さよならを決めた翌日に会うのは気まずいのよ」

 さすがにね、と独り言を言いながら苦笑していると、突然後ろから抱きかかえるように体を拘束され、口をふさがれた。

「おーい。挨拶も無しに帰るなんてひどいじゃないか?」

 驚いて見上げると、笑みを浮かべたエリクが上から覗き込むようにアイシスを抱きしめている。初めての距離に驚きが隠せなかった。

「っ~~っ!!」
「あー!大きな声出さないで?俺がアイシスの事を襲ってるみたいでしょ」
「おっ……襲われてるのよ!!びっくりしてドキドキしているわ!!」
「ごめんね?体は大丈夫?お茶でもしていきなよ。アイシスの好きな紅茶あるよ」
「そんな事聞かないでよっ……ってお茶?門の前で?珍しい事を言うわね」
「違うよ。室長室俺の部屋で」

 アイシスを抱えて歩き出したエリクがクスクスと笑いながら最上階のフロアまで行くと、他の扉とは趣の違う重たそうな扉を開ける。

「何を言って……」
「驚かせようと思ったのにさぁ。室長になったのにアイシスが全然来ないから計画が台無しだよ」

 部屋の中は、乱雑としており、天井まである本棚にいっぱいの本と書類が積み上がった書斎机がある。

 昼間だというのに、カーテンは閉じられ、ランプの灯りが部屋を照らし、床との隙間からわずかに日の光が見える程度だった。

 長椅子にエリクがアイシスをそっと下ろすと、すぐに隣に座った。

 周りを見回したアイシスは、まだエリクの言っている事が理解できなかった。だが、入り口近くの薬品が並ぶ棚にいつもエリクが着ている防具を見つけて固まってしまった。

「え?防具?室長……?エリクが?」
「そうだよ。出来上がったばかりの薬の使用感を試してただけなんだけど、まさか門番に間違われるとは思わなかったなぁ」
「エリク……衛士じゃないの?」
「いやぁ?ずっとここの研究員」
「ずっと?会った時から?でも、いつもあなたは門にいたじゃない」
「君が運んでた書類はほとんど俺が王城に頼んでいた書類だからね。結構重要な資料なんだよ?」

 慣れない手つきで淹れてくれた紅茶はいつも酒場で最後に頼む茶葉が、渋くなった味がした。

「たまにさー、知らずに君が来ると他の研究員達が教えてくれるんだよ。あの時は慌てたね」

 何も言う事ができなかったアイシスだが、だんだん理解が追いつき出し、理解すればするほど恥ずかしさと、怒りが込み上げてくる。

「……何も知らない私はおもしろかったかしら?」
「アイシス?」
「あんたのこと勝手に役に立たない仲間だと思って偉そうな振る舞いをしていた私はさぞかし滑稽だったでしょうねっ!」
「え?アイシス落ち着こう」
「落ち着いてなんていられないわっ!帰るっ」
「待って待って!俺はアイシスに言える日が来るのを楽しみにしてたんだよ」
「私は知りたく無かった!この王城で、役に立ってないのが自分だけだったなんて思いしりたく無かった!どうして?!いい思い出のまま終わらせてくれたら良かったのに!」

 そのまま立ち上がって走り去ろうとしたアイシスの腕をエリクは離さなかった。

「ちがうっ!俺は終わらせるつもりなんてないっ……」

 エリクの声が部屋に響く。

 困ったように笑ったエリクは、掴んだ腕を慌てて離した。そこにはエリクの指の形に赤いアトがくっきりと残っている。

「人の気も知らないで、体だけ繋がろうとするなんて、本当、勝手なヤツだよな」

 馬車の中でエリクに翻弄されていた事を思い出し、一気に体の熱が戻ってきた。掴まれた手首まで熱く感じ、エリクを見る事ができなくなってしまった。

「所長になったら、やっと言えるはずだったんだ。追加の理由ができた」
「なに……?」
「だって君が言ったんじゃないか。『王城で働いているって最低条件に、プラスするなら、顔か爵位』だって」
「……言った……わね」
「実家の伯爵家の当主になるには、医薬研究所の所長になるっていう条件を出されて……」
「え……?」
「俺はずっと好きな研究ができれば、それでよかったし、結婚なんて考えていなかったから、弟が当主になればいいと思っていたんだ。でも、実家が伯爵家でも、俺が家を継がなかったらただの人だ。それじゃあ君に選んで貰えないじゃないか」
「まさかその為に……?」
「そうだよっ。なのに、室長の俺に興味を示さないどころか、門番の俺を勝手に思い出にして実家に帰ろうとしてるし」

 部屋の引き出しから何かを持ってきたエリクは、アイシスの赤くなった手首に薬を塗り終えた後、指先にそっとキスをした。

「私と結婚してくれませんか。アイシス・ウォント男爵令嬢」
「私はそんなエリク知らないわ……」
「えー。せっかく格好つけたのに~」
「私が知ってるのは門番のエリクよ」
「……アイシス。俺と結婚して」
「私、優しくないけどいいの?」
「優しい人がいいなんて言った?」
「言ったわよ!!『俺も優しい人がいいけどなぁ』って!!」
「あははっ!言ったかも。でも、俺にだけ優しいアイシスがずっと好きだったよ」
「………っ」
「もうそろそろ観念して素直になりな?最後の思い出に俺に抱かれたいくらい俺の事が好きでしょ」
「なっ……!」

 アイシスの唇に柔らかく、温かなものが押し当てられた。先ほどまで、指先にキスをしていたエリクの唇が、重なっている。
 驚いて閉ざした唇をこじ開け、息ができないくらい、激しく逃げ惑う舌を追いかけられて絡めとられた。
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