明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄

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最後の恋は神さまとでした

空似は方向音痴だ/3

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 答えてしまった蓮は気づいていなかった。目の前にいる男は、あのマゼンダ色の長い髪を持つ、女性をプロポーズへと次々と導いた過去のある男と、ある意味同じくらい危険だと。

 右の道へ行こうとしていたのに、気づいたら左へ進んでいる焉貴は、自分が策を張ったことなどに気づいても、いつもの無機質で何事もなかったように物事は進んでゆく。

「そう。実際の年齢、それ? 二十三の言動じゃないよね?」
「三年しか生きていない」

 蓮の言葉はこれだけだったのに、焉貴はこう導き出した。

「そう。陛下から分身したってことね?」
「なぜわかる?」
「陛下に似てる。三年しか生きてない。突然子供は大きくならない。だから、分身したしかないでしょ?」
「…………」

 蓮の綺麗な唇は動かないままだった。理論で考えれば、もう答えは出ていたのだ。学校には、霊界から上がってきた子供がどこかの家の養子となって、入学してくることもよくあることだ。

 そんな子供たちのもっぱらの噂は、霊界から神界へ上がる時に、目の前にいる男の義理の父親――明智本家に養子に入るのがブームなのだそうだ。

 有名な家であるのは確かで、焉貴は必要な記憶を脳裏の浅い部分に引き上げた。

「義理の父親も分身してたよね?」
「そうだ」
「生みの親は同じで、今は親子。そういうことね?」
「そうだ」

 不思議な関係が成り立っていた。聞かれてばかりの蓮は聞き返す。

「お前はいくつだ?」
「俺はお前の数百億倍生きてる」
「嘘をつくな」

 蓮の可愛らしい顔が険しくなった。焉貴はまったく動じずに、ナンパで軽薄的に否定する。

「嘘じゃないよ。三百億歳超してるからね。それに、無意識の直感もある。だから、ピンときちゃったわけ。何か運命的なものがあるのかもね、お前と俺」
「運命? お前、独身か?」

 ジャケットとタンクトップという身軽な先生に問うてみた。

「奥さんと子供三人いるけど? お前は?」
「俺は妻と子供が四人だ」
「そう」
「ん……。六人家族――いや、六点一人だ……」

 おかしな言い直しをするものだと思って、焉貴は食べていた手を止めた。

「何それ? ゼロ点一って、どんな人の数え方?」
「地球という場所に、妻の魂の波動を受けた人間がいる。だから、点一人だ」

 守護神である蓮としては、大きく譲って、この数え方で十分だと満足していた。また一粒マスカットを口の中へ入れて、「そう」と、焉貴は無機質にうなずき、

「そんな存在ってよくあんの?」
「いや、あれ一人だ」

 蓮はコーヒーを飲んだが、また砂糖の袋を開けて、さーっと琥珀色に水面に流し込むと、スプーンでくるくると混ぜた。

「いつか会わせてくんない? その女と」
「地球へは守護の資格がないといけない。それは俺の一存ではどうすることもできない」

 自分は陛下の命令で、例外的におまけの倫礼のそばにいけたが、結局のところ、本人に言われて、筋が通っていないと思い、今は晴れて胸を張って守護神だと言い切れた。

 存在を知らない人もいるが、知っている人は知っている仕事。守護神の募集というものもいつもかかっていて、焉貴も当然記憶していた。

「守護の資格って、地球で生きてたことがあるか、同等の経験をしたことがあるかだよね?」
「そうだ」

 遠くの宇宙から、宇宙船を一週間も乗り続けてやってきた、破天荒教師は長く生きているだけあって、経験は豊富だった。

「それなら、俺あるよ。むか~し、やったことある。地球じゃないけどさ」
「…………」

 蓮は無言のまま考える。おまけの倫礼が見えるのか。どういう反応をするのか。神界育ちみたいなこの男と価値観が合うのか。

 焉貴はテーブルに肘をついて、気だるく山吹色のボブ髪を両手でかき上げた。

「今すぐじゃなくていいよ。会ってみたいんだよね、ってものを持ってる人間にさ」

 このフルーツパーラーで、同じ席に座っていた漆黒の長い髪を持ち、聡明な瑠璃紺色の瞳で頭の良さ全開で話してくる男を思い出す。

(孔明を理解したいんだよね)

 違反していれば、途中で止められるだろう。焉貴にとっても、おまけの倫礼にとってもいい影響がなければ、それも同様の措置が取られる。

 そうやって、地球は邪神界の影響が未だにある場所として、隔離されていると言っても過言ではなかった。

「ん」

 蓮は短くうなずき、コーヒーにさらに砂糖を入れた。さっきから見ていた焉貴は、ジュースのストローをつまみながら、今日初めて一緒に過ごす男を観察していた。

「お前、甘党なの?」
「苦いのが得じゃないだけだ」

 ひねくれ蓮は言い方までがねじれていて、焉貴はカラになった砂糖の袋を拾い集めてゆくと、二十個を超していた。

「コーヒーじゃないでしょ? これ。砂糖こんなに入れちゃってさ」
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