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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
主人と執事の大人関係/5
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プリンの乗っていたデザートスプーンは、瑠璃の小さな口の前で止まる。
「我が眠っておる間か?」
崇剛と瞬の言葉が重なった。
「そうです」
「そう」
聖女はプリンを口へ入れて、肩肘で頬杖をつく。
「それは普通の霊ではないかもしれんの。本来なら我が起きるはずじゃ」
崇剛がにらんだ通り、幽霊ではないようだった。しばしの沈黙が食堂に広がる。
霊感がまったくない蚊帳の外状態の涼介は、イライラしながらポタージュスープを乱暴にかき回した。
「誰か俺にもわかるように通訳してくれ。そこで三人だけで話すな」
「パパもみえたらいいのにね。るりちゃん、とってもかわいいんだよ」
瞬は純真な瞳でとても幸せそうに微笑んだ。父のスプーンはピタリと止まり、一瞬だけ崇剛を見た。
「…………」
純粋という名の残酷なのか。
それとも、違うのか。
何とも言えない気持ちになって、ビールをグイッと煽った執事だったが、主人がその視線を見逃すはずもなかった。午後の寝室で言われた涼介の言葉が鮮明に浮かぶ。
『――俺がお前のこと知らないわけないだろう?』
ポーカフェイスで優雅に微笑みながら、崇剛は水の入ったワイングラスを傾けた。涼介は真正面に座る瞬に身を乗り出して、少しふざけたように言う。
「息子が幽霊に恋心を抱くとは……。パパは心配だ」
会話とは違う気持ちが、執事の中にチクチクと針を刺すように広がる。
(千里眼のメシアか……。人よりも見えるものが多いと、それだけ傷つくこともあるんだろうな)
複雑な大人ふたりに囲まれている瞬は、無邪気に微笑んで、今度は崇剛に顔を向けた。
「せんせい、こころをたいせつにするだよね?」
「えぇ、そうですよ」
和やかな雰囲気から――崇剛に背を向けるように、涼介は肩肘をテーブルへ着いたまま、寂しそうな表情を鏡のように映り込む窓へ向けた。
(どうして、お前、そこで平気で微笑めるんだ? 最近まで俺だって気づかなかった。お前の中にそんな気持ちがあるなんてな)
崇剛はナイフとフォークを上品に使いこなしながら、いつもと違う行動をとっている執事をそ知らぬ振りでうかがい続ける。
涼介は何か考えているように見える。
私に視線を向けたのは、先ほどので二回目。
そうなると、私が無意識の時に、彼が情報を手に入れたという可能性が85.89%――から上がり、96.89%――
水面下で男ふたりの駆け引きがされているようだったが、ブランデーで香り付けした大好物のプリンを食べながら、幽霊の瑠璃は若草色の瞳をついっと細めた。
(お主たちの心の声は霊の我には丸聞こえじゃ。ふたりして何をしとるのじゃ? 崇剛が具体的に思い浮かべぬということは、知られたくないのであろう。ならば、我は知らぬ振りをするまでじゃ)
大人の駆け引きとは無縁の瞬は、今日の収穫物を得意げに口にした。
「るりちゃん、あと、イチゴもあるよ」
「誠かっ!?」
聖女は目を大きく見開き、思案する。
(イチゴとプリン? 何か間に入れがほうが美味になる気がするの?)
まるで以心伝心というように、瞬は瑠璃の心に手を差し伸べた。
「なまクリームといっしょがおいしいよ」
息子の声しか聞こえていなかったが、勘の優れている涼介は幽霊の少女の食事の仕方にピンときた。
「瑠璃さま、まさかプリンだけしか食べてないんじゃないだろうな? その話の内容からして、そんな気がするぞ」
「パパ、せいかい!」
息子のフォークを持つ手が元気よく上げられると、コックはガックリと肩を下ろした。
「頼むから、主食を食べてくれ~! デザートを先に食べるな」
涼介の斜め前の席で、瑠璃が口の端にプリンのクズをつけたまま、次々とスプーンを口へ運んでいる姿があった。
「我が眠っておる間か?」
崇剛と瞬の言葉が重なった。
「そうです」
「そう」
聖女はプリンを口へ入れて、肩肘で頬杖をつく。
「それは普通の霊ではないかもしれんの。本来なら我が起きるはずじゃ」
崇剛がにらんだ通り、幽霊ではないようだった。しばしの沈黙が食堂に広がる。
霊感がまったくない蚊帳の外状態の涼介は、イライラしながらポタージュスープを乱暴にかき回した。
「誰か俺にもわかるように通訳してくれ。そこで三人だけで話すな」
「パパもみえたらいいのにね。るりちゃん、とってもかわいいんだよ」
瞬は純真な瞳でとても幸せそうに微笑んだ。父のスプーンはピタリと止まり、一瞬だけ崇剛を見た。
「…………」
純粋という名の残酷なのか。
それとも、違うのか。
何とも言えない気持ちになって、ビールをグイッと煽った執事だったが、主人がその視線を見逃すはずもなかった。午後の寝室で言われた涼介の言葉が鮮明に浮かぶ。
『――俺がお前のこと知らないわけないだろう?』
ポーカフェイスで優雅に微笑みながら、崇剛は水の入ったワイングラスを傾けた。涼介は真正面に座る瞬に身を乗り出して、少しふざけたように言う。
「息子が幽霊に恋心を抱くとは……。パパは心配だ」
会話とは違う気持ちが、執事の中にチクチクと針を刺すように広がる。
(千里眼のメシアか……。人よりも見えるものが多いと、それだけ傷つくこともあるんだろうな)
複雑な大人ふたりに囲まれている瞬は、無邪気に微笑んで、今度は崇剛に顔を向けた。
「せんせい、こころをたいせつにするだよね?」
「えぇ、そうですよ」
和やかな雰囲気から――崇剛に背を向けるように、涼介は肩肘をテーブルへ着いたまま、寂しそうな表情を鏡のように映り込む窓へ向けた。
(どうして、お前、そこで平気で微笑めるんだ? 最近まで俺だって気づかなかった。お前の中にそんな気持ちがあるなんてな)
崇剛はナイフとフォークを上品に使いこなしながら、いつもと違う行動をとっている執事をそ知らぬ振りでうかがい続ける。
涼介は何か考えているように見える。
私に視線を向けたのは、先ほどので二回目。
そうなると、私が無意識の時に、彼が情報を手に入れたという可能性が85.89%――から上がり、96.89%――
水面下で男ふたりの駆け引きがされているようだったが、ブランデーで香り付けした大好物のプリンを食べながら、幽霊の瑠璃は若草色の瞳をついっと細めた。
(お主たちの心の声は霊の我には丸聞こえじゃ。ふたりして何をしとるのじゃ? 崇剛が具体的に思い浮かべぬということは、知られたくないのであろう。ならば、我は知らぬ振りをするまでじゃ)
大人の駆け引きとは無縁の瞬は、今日の収穫物を得意げに口にした。
「るりちゃん、あと、イチゴもあるよ」
「誠かっ!?」
聖女は目を大きく見開き、思案する。
(イチゴとプリン? 何か間に入れがほうが美味になる気がするの?)
まるで以心伝心というように、瞬は瑠璃の心に手を差し伸べた。
「なまクリームといっしょがおいしいよ」
息子の声しか聞こえていなかったが、勘の優れている涼介は幽霊の少女の食事の仕方にピンときた。
「瑠璃さま、まさかプリンだけしか食べてないんじゃないだろうな? その話の内容からして、そんな気がするぞ」
「パパ、せいかい!」
息子のフォークを持つ手が元気よく上げられると、コックはガックリと肩を下ろした。
「頼むから、主食を食べてくれ~! デザートを先に食べるな」
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