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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
心霊探偵と心霊刑事/10
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「私が恩田 元から聞いた順番は、自分が斬られ、血の匂いがし、男と女の悲鳴が聞こえてきた、です」
「お前さん、千里眼使わなかったのか?」
「いいえ、使いましたよ。私が見たのは……」
崇剛がそこまで言うと、ふたりの頭上にいつの間にか黒板が現れた。そこへ白いチョークで探偵は箇条書きしてゆく。
自分自身が斬られる。
うめき声と悲鳴が、男性と女性の声の両方で、複数聞こえてくる。
『返して……』と言われる。
体をつかまれる。
悲鳴と断末魔が、男性と女性の声の両方で、複数聞こえてくる。
血の匂いがした。
血で視界が真っ赤になる。
以上ですと言いながら、刑事に振り返りつつ、チョークで汚れてしまった手をパンパンと軽く叩いて、ハンカチをポケットから取り出そうとする――。
気づくと、ふたりはさっきと同じローテーブルを挟んだ向かい側のソファーにそれぞれ座っていた。
「それから、夢の内容がひとつ抜けているみたいですね」
「何が抜けてやがんだ?」
「最後に、『いい……だ……』と言っています」
予測はついている。だが、敏腕だった心霊刑事の意見を崇剛は聞きたかった。
さっきからまったく灰があるべきところへ収まらず、床へ落ちていっている。国立は気にすることなく、カウボーイハットを取って、髪をガシガシと強くかき上げた。
「いい……? あぁ~と、ノーマルに考えりゃ、『いい出来だ……』じゃねえのか?」
「そうかもしれませんね」
百パーセントに近いと導き出していたが、崇剛は几帳面にも不確定要素として、脳裏に残したままにした。
「がよ、順番おかしくねえか? 何が完成したんだよ?」
「何かは今のところなんとも言えませんが、そうですね……?」
崇剛はあごに手を当て、思考時のポーズを取ったが、あくまでも公平に事件を見つめた。
「霊界は心の世界です。恩田 元が嘘をついているのではなく、夢を見るごとに順番が入れ替わっているという可能性があります。すなわち、起きた出来事が順番通りではない……」
過去へも未来へも簡単にいける。それが霊感だ。聖霊師はよく心得ていた。
「時間の流れが、私たちが生きている世界とは違うみたいですね」
さっき妄想世界の黒板に書かれた箇条書きを並べ替えるとしたら、何通りあるんだと、国立は文句を言ってやりたくなった。
「てめえの、そのクールな頭、時には邪魔になんだろ? わかりやすく言いやがれ」
水色の瞳は珍しく影を見せた。
「仕方がありませんね、神からのギフトなのですから……」
見えないものを見聞きする千里眼のメシアを持ち、全てを記憶する冷静な頭脳を持つ、この男にも欠点はあるのだ。
言い過ぎたのか。いや、瑠璃と何かあったと見るべきだと、国立は嗅ぎ取った。冷静に判断し過ぎて、恋心を見逃した。そんなところだろう。踏み込むべきところじゃない。
「早く言いやがれ」
口調はキツかったが、声色は優しかった。崇剛は切なさに溺れがちな自分に鞭を打って、冷静という名の氷上へ立った。
「例えば、朝昼夜という時間の流れがあるとします。通常は朝昼夜ですが、恩田 元の見ている夢の中の時間の流れは、朝夜昼かもしれませんよ」
遠くの山肌を朝日が登ってくる、湖のほとりに国立はいつの間にか立っていた――。綺麗な朝焼けが水面に映り込み、幻想的な景色を作り出してゆく。
そう予測していたが、誰かが空に幕を張ったように、急に真っ暗になり、朝日の代わりに、湖には銀の月と星空が流れるように広がった。
頬を通り過ぎる夜風が冷たく心地がよく、思わず目を閉じると、じりじりと照りつける太陽で、まぶたが明るくなっていた。
新緑の山を境にして、空が頭上と足元を青に染め上げていた――。
「お前さん、千里眼使わなかったのか?」
「いいえ、使いましたよ。私が見たのは……」
崇剛がそこまで言うと、ふたりの頭上にいつの間にか黒板が現れた。そこへ白いチョークで探偵は箇条書きしてゆく。
自分自身が斬られる。
うめき声と悲鳴が、男性と女性の声の両方で、複数聞こえてくる。
『返して……』と言われる。
体をつかまれる。
悲鳴と断末魔が、男性と女性の声の両方で、複数聞こえてくる。
血の匂いがした。
血で視界が真っ赤になる。
以上ですと言いながら、刑事に振り返りつつ、チョークで汚れてしまった手をパンパンと軽く叩いて、ハンカチをポケットから取り出そうとする――。
気づくと、ふたりはさっきと同じローテーブルを挟んだ向かい側のソファーにそれぞれ座っていた。
「それから、夢の内容がひとつ抜けているみたいですね」
「何が抜けてやがんだ?」
「最後に、『いい……だ……』と言っています」
予測はついている。だが、敏腕だった心霊刑事の意見を崇剛は聞きたかった。
さっきからまったく灰があるべきところへ収まらず、床へ落ちていっている。国立は気にすることなく、カウボーイハットを取って、髪をガシガシと強くかき上げた。
「いい……? あぁ~と、ノーマルに考えりゃ、『いい出来だ……』じゃねえのか?」
「そうかもしれませんね」
百パーセントに近いと導き出していたが、崇剛は几帳面にも不確定要素として、脳裏に残したままにした。
「がよ、順番おかしくねえか? 何が完成したんだよ?」
「何かは今のところなんとも言えませんが、そうですね……?」
崇剛はあごに手を当て、思考時のポーズを取ったが、あくまでも公平に事件を見つめた。
「霊界は心の世界です。恩田 元が嘘をついているのではなく、夢を見るごとに順番が入れ替わっているという可能性があります。すなわち、起きた出来事が順番通りではない……」
過去へも未来へも簡単にいける。それが霊感だ。聖霊師はよく心得ていた。
「時間の流れが、私たちが生きている世界とは違うみたいですね」
さっき妄想世界の黒板に書かれた箇条書きを並べ替えるとしたら、何通りあるんだと、国立は文句を言ってやりたくなった。
「てめえの、そのクールな頭、時には邪魔になんだろ? わかりやすく言いやがれ」
水色の瞳は珍しく影を見せた。
「仕方がありませんね、神からのギフトなのですから……」
見えないものを見聞きする千里眼のメシアを持ち、全てを記憶する冷静な頭脳を持つ、この男にも欠点はあるのだ。
言い過ぎたのか。いや、瑠璃と何かあったと見るべきだと、国立は嗅ぎ取った。冷静に判断し過ぎて、恋心を見逃した。そんなところだろう。踏み込むべきところじゃない。
「早く言いやがれ」
口調はキツかったが、声色は優しかった。崇剛は切なさに溺れがちな自分に鞭を打って、冷静という名の氷上へ立った。
「例えば、朝昼夜という時間の流れがあるとします。通常は朝昼夜ですが、恩田 元の見ている夢の中の時間の流れは、朝夜昼かもしれませんよ」
遠くの山肌を朝日が登ってくる、湖のほとりに国立はいつの間にか立っていた――。綺麗な朝焼けが水面に映り込み、幻想的な景色を作り出してゆく。
そう予測していたが、誰かが空に幕を張ったように、急に真っ暗になり、朝日の代わりに、湖には銀の月と星空が流れるように広がった。
頬を通り過ぎる夜風が冷たく心地がよく、思わず目を閉じると、じりじりと照りつける太陽で、まぶたが明るくなっていた。
新緑の山を境にして、空が頭上と足元を青に染め上げていた――。
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