明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄

文字の大きさ
642 / 967
心霊探偵はエレガントに〜karma〜

Time for thinking/13

しおりを挟む
 崇剛は仕事上、人に好意を持たれやすく、結婚について不躾ぶしつけに聞かれる。個人的に誘われるという、衰退しないモテ期の中で生きている。

 だがしかし、当の本人はいい気持ちばかりではないのだ。必ずしも自身の好みの人から想われるわけではないというか、ほぼ好みのタイプではないのだから。

 身にしみて、聖女に与えた不快感を、神父はよくわかっていた。

「過ぎたことじゃ。気に病むことではない」

 冷静な頭脳だけだったら、この男はあまり傷つきもせず生きてきたのだろう。激情という感情があるからこそ、色々と思い悩みながら、思いやりを持って生きている。それをよく知っているのは、瑠璃自身だった。

「私が天に召されるまで、守護をよろしくお願いします」
「それは我も同じじゃ。お主が死ぬまでは一緒じゃ」

 変な緊張感がなくなり、以前よりも距離が縮まった崇剛と瑠璃だったが、策略家の氷の刃という瞳は、隙なく少女の玉露を飲む姿をうかがっていた。

 茶色のロングブーツはいつも通りに、優雅に組み直されて、遊線が螺旋を描く芯のある声が何気なく尋ねた。

「瑠璃さん、夜見二丁目の交差点で、赤い目の山吹色をした髪の男を見ませんでしたか?」
「ぶーっ!」

 聖女は玉露を思いっきり吹き出した。

 崇剛は思う。彼女は正直だと。

 瑠璃は口元をハンカチで拭きながら、

「お主、見えておったのか?」
やはり・・・、いらっしゃったのですね?」
「じゃから、わざと聞いてくるでない!」

 さっきから同じ罠にはまってばかりの聖女が憤慨しているのを見て、崇剛はくすくす笑った。

 そこで瑠璃ははたと気づいた。わざと聞いてくるとなると、崇剛は見えていなかったのだと。

「何故、あやつがいたと知ったのじゃ?」
「ただの勘ですよ」

 崇剛は瑠璃の質問から逃げようとしたが、それは実は策であって、聖女はまた憤慨した。

「戯言を申すでない! お主が勘を使ってるところなど、我は一度も見たことがあらぬ」

 策略家は手の甲を唇に当てて、

「…………」

 とうとう何も言えなくなり、肩を小刻みに揺らして、彼なりの大爆笑を始めた。こうなると、しばらく笑いの渦から戻ってこれないのは、瑠璃にはよくわかっていた。

 玉露をすすり、聖女はしばらく待ってやった。 

「何故、やつだとわかったのじゃ?」
「瑠璃さんの様子がおかしかった。邪神界の者ならば、瑠璃さんは何らかの言動を起こす可能性が非常に高いです。しかしながら、何もしませんでした。従って、正神界の者がいたということになります」

 漆黒の長い髪は小さな手で背中にはらわれ、瑠璃は胡散臭そうな顔をした。

「あやつはラジュのところにたまに参るやつじゃ」
「どのような用件でいらっしゃるのですか?」

 崇剛は瑠璃に身を乗り出した。

「神殿に呼び出しがあった時じゃ」

「そうですか」と言って、神父はロッキングチェアを揺らし、少しの思案をして問いかけた。

「神殿から戻ってきたあと、ラジュ天使の様子がおかしかったことはありませんか?」

 瑠璃はうんざりした顔をする。

「ラジュはいつでもおかしいがの。ないの」
「お名前は知っていますか?」
「知らぬ。ただ、神が呼んでおるとラジュに申して、すぐに消えるのじゃ」
「そうですか」

 冷静な水色の瞳に、神世を思わせる青の抽象画を眺めながら、あごに手を当てた。

 神の遣いでしょうか?
 それとも……

 崇剛は聖女を視界の端で捉えたが、情報収集は困難を極めると思った。これが、ラジュならば、正確に入手できるが。

「瑠璃さん、その方が何とおっしゃって、ラジュ天使を呼び出しているか、一字一句間違えずに言えますか?」
「大体いつも同じじゃが、正確にとなると、それは我には無理じゃの」

 聖女からは予測どおりの返事が返ってきた。しかしそこに、重要な意味があると、崇剛はにらんだ。あの男の正体は一体何者なのだ。

 疑問を残したまま、崇剛は包帯をしている手で、ズボンのポケットの丸い膨らみをさりげなく触り、迫ってきた数字を読み取った。

 二十三時四分十九秒――。
 おや、もうこんな時間ですか?

 崇剛はロッキングチェアを傾けるのをやめて、

「瞬はどうしているでしょうね?」

 今まで話とはまったく関係のない人の名を口にした。瑠璃は持っていた湯呑みをテーブルへ置く。

「熱を出しておると聞いたからの、我がそばにおらぬと、瞬も寂しがるかもしれんの」

 言い訳っぽく聞こえる言葉を、ボソボソとつぶやいて、聖女はふと立ち上がった。

「どれちと参るかの」

 瑠璃の表情は八歳の少女が見せる、ご満悦そのもので、そのまますうっと姿を消した。

「――瑠璃さんはわかりやすい人ですね」

 嘘がつけない聖女の性格に、親が子供を愛おしく思うような気持ちになって、崇剛は手の甲を唇に当て、くすくすまた笑い出した。

「なぜ、私が突然、話題を変えたのか疑問に思わないみたいです」

 神父から聖女への密やかなプレゼントだった。

 シルクのブラウスの上で、神の御言葉みことばを受け取る役目を終えた銀のロザリオは、慣れた感じで滑らかな生地と肌の間へとそっと落とされた。

 組んでいた茶色のロングブーツをとくと、春雷の嵐は嘘のように通り過ぎ、カーテンの隙間から平穏な月光が差し込んでいた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...